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「転売屋やファン同士の激しい争奪戦を回避してネット上でチケットを公正に売る仕組み」について議論が巻き起こる


人気アーティストのコンサートチケットが販売開始になると、多くのファンや転売屋がオンラインのチケット販売サイトに殺到し、チケット戦争とも呼ばれる激しい争奪戦が繰り広げられます。このような争奪戦を回避して「チケットを公正に売る仕組み」について、ソフトウェアエンジニアのバーナバス・ケンドール氏がブログ記事を書いたところ、ソーシャルニュースサイトのHacker Newsで激しい議論が巻き起こりました。

How To Sell Tickets Fairly | Barnabas Kendall
https://barnabas.me/blog/2022/11/selling-tickets-fairly/

2022年11月、人気歌手であるテイラー・スウィフト氏の全米ツアーチケットの先行販売が開始されましたが、チケット販売会社の予想を超える申し込みが殺到したためにシステム障害が発生。予定されていた一般販売が中止となり、司法省が販売企業のチケットマスターを独占的地位乱用の疑いで調査する事態に発展しました。

ケンドール氏はこの一件を取り上げ、アメリカにおいてチケット販売市場を独占しているチケットマスターだけでなく、そもそも既存のチケット販売方式に問題があると主張しています。アメリカで主流のチケット販売方式は、すべてのチケットが同時に販売開始となるタイプですが、これはファンだけでなく転売屋も含む大勢のユーザーが一斉に販売サイトへ殺到する要因となるとのこと。ケンドール氏は、これほどカオスでユーザーに敵対的なシステムを意図的に作成するのは難しいとまで述べています。


そこでケンドール氏が提案するのが、チケット価格が販売開始から時間経過に従って安くなっていく「ダッチオークション」方式です。コンサートチケットにおけるオークションは特許によって保護されていましたが、2020年にこの特許が失効したため、今後広がっていく可能性があるとのこと。

コンサートチケットの販売方式にダッチオークションを採用すると、以下のようなシナリオが考えられるとケンドール氏は説明しています。

1:コンサート開催の6カ月前に、1席あたり2000ドル(約28万円)という高額でチケット販売が始まる。チケットの最低価格は20ドル(約2800円)に設定され、開催までの6カ月間で直線的に価格が下落していく。
2:チケットが180日間で2000ドルから20ドルに下がるので、チケット価格は1日あたり11ドル(約1500円)、1時間ごとに0.46ドル(約50円)ほど安くなる。チケット販売ページには、現在のチケット価格と残り席数が表示される。
3:コンサート開催の14日前にチケットを購入すると、価格は174ドル(約2万4000円)となる。チケット購入が承認されれば、利用可能な座席を選択して購入することができる。

このシナリオにおける利点は、次第にチケット価格が下がっていくことが明らかなため、販売開始と同時にすべてのユーザーが殺到する可能性が大幅に低くなるという点です。また、裕福な住人が多い地域では早い段階で売り切れるかもしれませんが、比較的貧しい地域ではより安い価格で購入するチャンスが高くなり、適正価格が自然に決定されるとのこと。そして、公式価格が次第に安くなる状況では、転売屋が早期にチケットを買い占めることのリスクが高まるとケンドール氏は主張しています。


このブログがソーシャルニュースサイトのHacker Newsで紹介されると、多くのユーザーからさまざまな意見が寄せられました。

How to sell tickets fairly | Hacker News
https://news.ycombinator.com/item?id=33666013

音楽業界に勤めた経験があるburo9氏というユーザーは、このアイデアはあくまで技術的なものであり、現実に機能するものではないというコメントを寄せています。buro9氏によると、主催者はチケットの80%を1週間ほどで売りたいと考えており、完全な販売データに基づいて会場の広さや日程についての洞察を得ているとのこと。また、アーティストは若いファンや貧しいファンを含めて可能な限り多くのファンが参加できるようにしたいと考えており、高額でのチケット販売はこの意思に反すると主張。「『お金持ちは貧しい人よりもチケットを持つに値する』という考えは、私がこれまで一緒に仕事をしてきたすべてのアーティストと正反対の考えです」と述べました。

buro9氏は、10年間にわたり2つのレーベルで多くの有名バンドと仕事をした経験として、アーティストは「ファンから吸い上げる価値」を最優先事項にしていないと主張。テイラー・スウィフトのような大スターは、世界中すべてのファンがもれなく参加できるほど頻繁にコンサートを行うことはできないため、若かったり貧しかったりするファンにもコンサートに参加してもらうには、ダッチオークションは最悪の選択肢になると論じています。

また、別のユーザーはダッチオークションについて、「チケットの入手可能な最低価格がわからない」という欠点があると指摘。あまりお金を持っていない購入者は「チケットが安くなるまで待っていたら売り切れてしまうかもしれない」という不安を抱え、本来は手を付けてはいけないお金を使ってしまう危険性が高まると主張しています。「真に公正なチケット販売方式は宝くじ方式だ」という意見も出る中、日本における抽選方式やファンクラブを利用した先行販売に言及したコメントもありました。


そしてケンドール氏は、Hacker Newsに寄せられたコメントに対し、フォローアップのブログを投稿しています。

Fair Tickets Follow-up | Barnabas Kendall
https://barnabas.me/blog/2022/11/fair-tickets-followup/

ケンドール氏は、主な反対意見は「ダッチオークションは裕福なファンを除いて誰の利益にもならない」という点だろうと認めています。主催者や会場のニーズを主張する反対意見には、「ファンよりもシステムを優先することは、現在の腐敗した混乱につながっています」と述べつつも、あくまで販売形式やデータの種類が既存のものと異なるだけであり、スレッドで主張されているような悪影響が出るとは考えにくいと指摘してます。


また、ダッチオークションを採用することでユーザーがチケット購入で感じる不快感が大幅に軽減されるため、ファンを重視したいアーティストにとっても注目に値するはずだとケンドール氏は主張。さらに、価格が次第に下落するという点は、熱心なユーザーが土壇場で安いチケットを入手できる可能性をもたらすと訴えました。

その上で、「お金持ちが常に良いものを買い占めるのが不公平だというアイデアには賛成します。公平または慈善的なチケット販売がどのように機能するのかはわかりませんが、それは私の焦点ではありませんでした。私は消費者として、問題が最小限で購入できることを期待するという意味で、『公正』という言葉を使いました」と述べ、ダッチオークションを紹介する上で「公正」という言葉を使ったのは紛らわしかったと認めています。

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in メモ, Posted by log1h_ik

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