ゲーム

批判された「DOOM Eternal」のサウンドトラックの作曲家が事情を説明、その理由とは?

By Marco Verch

2020年3月にリリースされた人気FPSシリーズの5作目「DOOM Eternal」の楽曲制作に携わったミック・ゴードン氏が、ゲームより後に発売されたサウンドトラックに含まれる59曲のうち12曲しか作曲していないことについてさまざまな意見が飛び交っています。DOOM Eternalのエグゼクティブ・プロデューサーを務めたマーティ・ストラットン氏はゴードン氏を非難する異例の声明を2020年に出していたのですが、これに対しゴードン氏が2年越しに反論しました。

My full statement regarding DOOM Eternal | by Mick Gordon | Nov, 2022 | Medium
https://medium.com/@mickgordon/my-full-statement-regarding-doom-eternal-5f98266b27ce

2020年にオンライン掲示板のRedditに投稿されたマーティ氏の声明は、ゴードン氏を非難するものでした。ゴードン氏がサウンドトラックの納期を延長するよう何度も何度も要求してきたこと、期限通りに物事が進まないので仕方なく自社のサウンドデザイナーであったチャド・モスホルダー氏に編曲を行わせたこと、両者の間に不和が生じたため、当時制作中だったDOOM Eternalのダウンロードコンテンツにゴードン氏が加わることはないということなどが述べられました。


過去作にも携わり、いくつもの賞を受賞したゴードン氏の楽曲が聴けるということで、発売前から話題を呼んでいたサウンドトラックでしたが、その出来はファンの期待に応えられるものではありませんでした。クレジット表記にモスホルダー氏の名前を見つけたファンの一部は、モスホルダー氏に直接的かつ個人的な攻撃を加えることすらあったとのこと。


しかし、ストラットン氏が上記の声明を打ち出したことで、非難の矛先はゴードン氏に向かうようにもなりました。そうしてこの騒動から2年以上が経過した2022年11月9日、今度はゴードン氏がいくつかの証拠を基にストラットン氏へ反論する声明を発表しました。ゴードン氏によると、ストラットン氏の声明には虚偽や隠ぺいなどが含まれていたというのです。

ゴードン氏がDOOM Eternalの楽曲を制作するのは困難を極めました。アーティストはゲームプレイに密接に結び付く楽曲を作る必要がありますが、開発の初期段階では現実的に不可能で、ゲームに登場するシーンを推測して楽曲を制作するしかありませんでした。開発チームからのメールがすぐに返ってこないなどの問題もあり、徐々にスケジュールが詰まっていったゴードン氏からすると、将来的に来るであろうチームからの再制作や作り直しの要求は飲めない可能性が考えられたそうです。そこでゴードン氏はゲームのテーマが決まり次第音楽を制作する、という変更を提案しましたが、ストラットン氏に却下されたとのこと。当初の予定に間に合わせるために、ゴードン氏は徹夜が当たり前になり、疲弊していたと述べています。


また、ゴードン氏が制作した楽曲に対してストラットン氏らは承認を出さず次々とやり直しを要求するばかりで、ゴードン氏は11カ月間もの間、無給で楽曲を制作していたとのこと。その後2019年に6月6日のゲームイベントで「DOOM Eternalが同年11月22日に発売される」と発表されましたが、その際に特別版にはゴードン氏のオリジナルサウンドトラックが付属すると発表されました。ですがその時点ではゴードン氏は契約を結んでおらず、その情報はメディアで知ったとのこと。契約がなければ、ゴードン氏の楽曲がサウンドトラックに収録されるはずもありません。ゴードン氏は、「自分の名前を出すということは、失敗したときの責任を負うということです」と述べ、突然のニュースに大きなプレッシャーを感じたと当時を振り返っています。

その後もゴードン氏は楽曲を作り続けましたが、追加で納品した楽曲に対する支払いはなく、関係は悪化し続けました。それでも「このまま辞めると失うものの方が多くなるのではないか」と考え仕事を続けたそう。

その後、DOOM Eternalは2020年3月20日に発売が延期されました。そのため、ストラットン氏らは延期によるゲーム内容の変更と追加に伴うさらなる楽曲の要求をゴードン氏に行いました。

2019年の11月末にようやく給料が入金され、楽曲制作は完了しましたが、完了時には契約書に記載された分量の2倍以上の楽曲を制作していたとのこと。そしてようやくDOOM Eternalが発売されましたが、ゴードン氏が制作した5時間分の楽曲のうち、その半分しか給料が支払われていないことが明らかになりました。「ストラットン氏らが楽曲に対して承認せず、支払いを保留する動きは予算不足を補うためだったことが分かりました」とゴードン氏は述べました。


ゲームの予約受付が始まってからもサウンドトラックに関する情報は告げられず、危機感を覚えたゴードン氏は自らパブリッシャーのベセスダ・ソフトワークスにコンタクトを取り、無理やりプロジェクトを動かしていきます。しかしゴードン氏がサウンドトラックに関する契約を行っておらず、長期間が経過しても音信不通となっているためゴードン氏はサウンドトラックの制作に取り組むことができなかったそう。

オリジナルサウンドトラックを作るにあたってようやくゴードン氏が契約を結んだのはDOOM Eternalの発売の48時間前である2020年3月18日で、同年4月16日までに12曲を制作するよう求められました。短い納期ではあったものの、覚悟を決めて制作に取り掛かったゴードン氏。当初は順調に制作を進めていたゴードン氏ですが、納期を13日後に控えた4月3日、ストラットン氏から「消費者保護法の問題があるので納期は絶対厳守だ」というメールを受け取ったそうです。メールには、「一部の地域の消費者保護法により、特別版を購入した人は4月20日までにサウンドトラックが届かなかった場合に全額返金を求める権利がある」という情報が記されていたとのこと。

この事実を振り返り、ゴードン氏は「金銭的な損失を考えると恐ろしくなりました。なぜストラットン氏はもっと早く教えてくれなかったのでしょう。もし契約前に消費者保護の問題があることを知らされていたら、私は制作を断っていたでしょう」と述べました。さらにゴードン氏は「ストラットン氏らはこのような重大な情報を隠していたうえに、開発元であるid Softwareは契約の半年以上前からゴードン氏抜きでサウンドトラックを制作していたのです」と主張しています。

これらの点は、ストラットン氏が言う「サウンドトラックの制作期間は1月から3月までという合意がありましたが、ゴードン氏が間に合わせられなかったため、締め切り直前になって自社のモスホルダー氏を起用しました」という主張と食い違います。しかし、ゴードン氏はストラットン氏からのメールやモスホルダー氏が作成したファイルのメタデータを証拠として示し、「契約は確かに3月から結ばれたもので、さらに契約の6カ月前から勝手な制作が始まっていたのは明らかです」と反論しました。


ゴードン氏抜きで始まった楽曲制作はid Softwareのサウンドデザイナーであるモスホルダー氏が担当していました。モスホルダー氏は「以前ゴードン氏が制作した楽曲を編曲する」という作業を行っていたのですが、実際にできあがった曲は不完全で、突然のテンポの変化、耳障りな切れ目や切り替えなどでいっぱいだったとされています。納得がいかないながらも当初の予定通り12曲を制作し続けたゴードン氏ですが、完成した曲の一部をストラットン氏は受け入れず、最終的にはすべてストラットン氏がサウンドトラックをまとめあげることになってしまったとのこと。未払いだった契約金は全額支払われたそうですが、完成した作品は発売までゴードン氏に聞かせられることはなく、ゴードン氏は「舞台裏の状況を知らないファンから批判を浴びそうな気がしました。リリースが近づくにつれとても神経質になっていました」と回想しました。

その結果、リリースされたサウンドトラックはすぐに非難の的になり、状況を重く見たストラットン氏はこの問題を解決すべく、ゴードン氏とともに共同声明を制作することを申し出ましたが、実際にはサウンドトラックの失敗の問題をゴードン氏になすりつけるような声明が発表されただけでした。また、id Softwareはゴードン氏に対してこの声明を受け入れるように多額の和解金を提供したとのこと。

しかしゴードン氏はこれを拒否し、リリースから2年の間に見られたストラットン氏の言動や、ファンから自身に対する嫌がらせや脅迫を受けて今回声明を発表するに至ったそう。

ゴードン氏は「この声明を発表することで、私は自分自身を守る権利を行使したのです。素晴らしいゲームに携わり、生涯の友を得て、地球上で最も優れたクリエイターたちと汗を流してきました。ゲーム業界ではたくさんの素晴らしい経験をさせてもらいました。私はDOOMを辞めたわけではありません。有害なクライアントとの付き合いを辞めただけです」と述べました。

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
人気FPS「Doom Eternal」がチート対策プログラムを導入して炎上、その理由とは? - GIGAZINE

MicrosoftがDOOMやFalloutのベセスダ・ソフトワークスを買収、今後Xbox以外でのリリースはケースバイケースに - GIGAZINE

ついにDOOMの中でDOOMをプレイすることに成功 - GIGAZINE

ゲーム史に革命を起こした名作「DOOM」の生みの親が25周年を記念してこれまでを振り返る - GIGAZINE

in ゲーム, Posted by log1r_ut

You can read the machine translated English article here.