人気FPS「Doom Eternal」がチート対策プログラムを導入して炎上、その理由とは?
by Marco Verch
2020年3月にリリースされた人気ファーストパーソン・シューティングゲーム(FPS)の「Doom Eternal」で、大型アップデートが2020年5月14日に行われ、PC版のオンラインマルチプレイに対してチート対策プログラムである「Denuvo Anti-Cheat」がPCゲームとして初めて導入されました。しかし、このDenuvo Anti-Cheatがプレイヤーの間で物議を醸しています。
Denuvo Anti-Cheat goes LIVE! A message to DOOM Eternal fans and gamers – Irdeto Perspective
https://blog.irdeto.com/2020/05/14/denuvo-anti-cheat-goes-live-a-message-to-doom-eternal-fans-and-gamers/
Denuvo says its new kernel-level anti-cheat driver is minimally invasive | Ars Technica
https://arstechnica.com/gaming/2020/05/doom-eternal-anti-cheat-kernel-driver-is-safer-than-others-denuvo-says/
Denuvoはもともと、サイバーセキュリティ企業・Irdeto傘下のDenuvo Softwareが2014年に開発したデジタル著作権管理(DRM)技術「Denuvo Anti-Tamper」からスタートしました。PCゲームのコピー対策として、ゲーム購入者のアカウントとゲームを紐付けて実行ファイルの改ざんを防ぐDenuvo Anti-Tamperは「最強のDRM技術」と呼ばれましたが、一方でゲームパフォーマンスに悪影響を与えるとして一部のゲーマーから猛反発を受けました。
最強のコピーガード技術「Denuvo」はゲームパフォーマンスに悪影響を与えるのか、徹底的な比較検証の結果は? - GIGAZINE
そして、Irdetoが2019年に発表したチート対策プログラムが「Denuvo Anti-Cheat」です。Irdetoが2018年に行った調査によれば、「対戦相手がツールやプログラム改ざんにより不正なプレイをしていると感じたプレイヤーの77%が、二度とそのゲームを遊ばなくなる」と判明したとのこと。オンライン対戦でのチート行為はユーザーのモチベーションを低くするだけでなく、ゲームパブリッシャーにとって大きな損失につながります。特に近年はeスポーツの知名度が上がり、オンライン対戦ゲームが当たり前になったことから、Denuvo Anti-Cheatのようなチート対策プログラムの存在は非常に重要といえます。
2020年に発売されたDoom Eternalには、ストーリーを進めていくシングルプレイモードのほかに、オンラインを通じて複数人のプレイヤーで対戦するバトルモードも搭載されています。2020年5月14日に行われたアップデートを適用することで、Doom EternalをインストールしたPCにDenovo Anti-Cheatが自動で導入され、オンラインバトルモードはDenuvo Anti-Cheatの監視対象となりました。なお、PlayStation 4・Nintendo Switch・Xbox One向けにリリースされるコンシューマー版のDoom Eternalは、Denuvo Anti-Cheatの導入対象外となっています。
IrdetoはDenuvo Anti-Cheatについて、「ソースコードではなくバイナリで動作し、製品のビルドプロセスに直接統合されます」と2019年時点で発表しており、2020年5月の発表でも「ゲームを初めて起動すると、Anti-CheatはカーネルモードドライバーをProgram Filesフォルダーにインストールします」と述べてます。また、Doom Eternalを販売するベセスダ・ソフトワークスも、アップデートリリースノートの中で「Denuvo Anti-Cheatは、カーネルモードドライバーを使用します」と述べており、Denuvo Anti-CheatがPCシステムの根幹に関わるカーネルレベルで動作することが明言されていました。
IT系メディアのArs Technicaは「ゲームコードを変更しようとする特権の低いユーザーモードのツールを確実に検出するため、マルチプレイヤーゲームのチート対策プログラムがカーネルレベルで動作すること自体は一般的です」と述べています。
by Natty Dread
しかし、カーネルレベルで動作するということは、一般的なソフトよりも多くのシステム権限を持つことを意味し、セキュリティ上の懸念がある上に不安定な動作を招く可能性もあります。加えてIrdetoは「Denuvo Anti-Cheatはタスクトレイにアイコンが表示されず、スプラッシュスクリーンも表示しません」と述べており、「Denuvo Anti-Cheatがどのタイミングでどのように動作しているのか」をプレイヤーが把握しにくくなることも、プレイヤーの不信感をあおる一因となっています。
また、Denuvo Anti-CheatがDoom Eternalのリリース当初から導入されていたのではなく、アップデートによって突然導入されたということも、プレイヤーの混乱を呼ぶ原因となりました。PCゲーム販売プラットフォームのSteamでは、2020年5月14日以降からDoom Eternalに大量の低評価がつけられており、レビューでは「Denuvo Anti-Cheatが追加されることを知っていれば買わなかった」「スパイウェアではなくDoomが欲しかった」というコメントが寄せられていました。
さらに、オンライン掲示板サイト・Redditでは、Denuvo Anti-Cheatを導入したことで「エラーによってゲームが停止した」「パフォーマンスが低下した」「Denuvo Anti-Cheatをアンインストールしてもドライバーが動作し続けている」「Linux環境でゲームが動作しなくなった」という報告が挙がっています。それぞれの報告については検証が終わっていないものの、一部のプレイヤーはカーネルレベルで動作するDenuvo Anti-Cheatに対する強い不信感をあらわにしています。
セキュリティ上の懸念については、ベセスダ・ソフトワークスはリリースノートの中で「カーネルモードドライバーの使用はゲームの起動時に開始し、何らかの理由でゲームが停止すると停止します」と述べ、Denuvo Anti-Cheatはゲームがアクティブな場合にのみ実行されることを強調。また、Irdetoは「Denuvo Anti-CheatはEU一般データ保護規則(GDPR)に準拠しており、スクリーンショットを撮ったり、ファイルシステムを勝手にスキャンしたり、シェルコードをストリーミングしたりすることはありません」と述べ、「Denuvo Anti-Cheatは手動でアンインストールが可能です」と案内しています。
Denuvo Anti-Cheatの開発主任であるミハイル・グレシシュチェフ氏は「Denuvo Anti-Cheatは、NVIDIAのグラフィックドライバーやSteamのクライアントサービスと変わらないように設計されています」と述べ、「未知のものに対する恐れを抱くのは人間の本性は、私たちがどれだけ技術的な主張を行ってもどうすることはできません。信頼は時間と共に築かれるものです。Denuvo Anti-Cheatがお気に入りのゲームでチートプレイヤーを排除したとき、ようやくプレイヤーの信頼を得ることができるのです」とコメントしました。
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