Appleの「AndroidにはiMessageを提供しない」という決断は間違いだったのか?
Appleが開発・提供しているメッセージングアプリの「iMessage」は、記事作成時点ではモバイル市場をiOSと二分しているAndroidに提供されておらず、Googleが推し進めているメッセージング規格の「リッチコミュニケーションサービス(RCS)」にも対応していません。ところが、2021年に公開されたAppleの社内メールから、2013年の時点で「iMessageをAndroid向けに提供するべきではないか」という議論があったことが明らかになっています。
Apple execs on iMessage for Android
— Internal Tech Emails (@TechEmails) November 7, 2022
April 7, 2013 pic.twitter.com/Y8ygM8UfeN
テクノロジー業界の内部メールを公開しているウェブサービスのInternal Tech Emailsは2022年11月7日、Appleの上級幹部が2013年に交わした電子メールをTwitterに投稿しました。なお、一連の電子メールは2021年のApple対Epic Gamesの訴訟に関連して公開されたものです。
Apple execs on iMessage for Android
— Internal Tech Emails (@TechEmails) November 7, 2022
April 7, 2013 pic.twitter.com/Y8ygM8UfeN
Appleのサービス担当シニアヴァイスプレジデントを務めるエディ・キュー氏は、2013年8月7日の社内メールで、「私たちはiMessageをAndroidに導入する必要があります。すでに複数の人々がこの件について調査していますが、私たちは全速力でこれを公式プロジェクトにすべきです」と主張しています。これは、当時報じられた「GoogleがWhatsAppを買収するのではないか」という記事に反応するものです。結果的にWhatsAppを買収したのはFacebook(現Meta)だったものの、メッセージングネットワークを他企業が獲得することへの危機感があったことがうかがえます。
キュー氏のメールに対し、Appleのマーケティング担当シニアヴァイスプレジデントを務めていたフィリップ・シラー氏は、「iMessageはもうかりません」と難色を示しました。
キュー氏は「iMessageはもうからない」という指摘に対し、Googleが検索・メール・無料ビデオ・ブラウザなど多くの分野で急成長しており、モバイル環境において重要なメッセージングアプリまで奪われることの危険性を訴えています。
これに対してソフトウェア担当シニアヴァイスプレジデントを務めるクレイグ・フェデリギ氏は、確かにiMessageは良いアプリであるものの、iOSユーザーの友達が少ないAndroidユーザーがメッセージングアプリを乗り換えるほどではないだろうと主張。AndroidにもiMessageを提供するようになれば、iOSユーザーの知り合いが多い顧客がAndroidを選択しやすくなり、結果的にiOSのシェアが減ってしまうという懸念を示しました。
フェデリギ氏の懸念に対してキュー氏は、Androidの巨大な市場シェアは今後も持続していくはずであり、iMessageをより良いアプリにすることでAndroidユーザーにも魅力を知ってもらうことが最善だと反論しました。
これにシラー氏は、「これはWindowsでSafariを提供しようとした戦略に似ていますね。あれはうまくいきませんでした」と否定的なコメントを返しています。
キュー氏はなおも、iMessageで継続的な改善を行うことでユーザーを獲得できると主張。
しかし、シラー氏は「iMessageは私たちのiPhoneユーザーに価値をもたらすiOSの機能として生まれました」「収益はなく、当社の製品マージンによってまかなわれています」と述べ、そもそもiMessageはiOSユーザーに向けたアプリであるとして、GoogleおよびWhatsAppに対抗するためにメッセージングアプリビジネスに参入するのはナンセンスだと反論しました。
結果的にAppleはAndroidへのiMessage提供を見送ったため、記事作成時点でもAndroidデバイスとのメッセージングにおいて既読確認やファイル転送といった機能が制限されています。2022年9月には、記者から「Androidを使用する母へ動画を送ろうとすると、圧縮されてぼやけてしまいます。これを解決する提案は?」と尋ねられたティム・クックCEOが、「お母さんにiPhoneを買ってあげてください」と返したことが報じられました。
Androidスマホを持つ母にメッセージをきちんと送れないと訴えられたティム・クックが「お母さんにiPhoneを買ってあげて」とジョークを飛ばす - GIGAZINE
ソーシャルニュースサイトのHacker Newsでは、「iOSユーザーが得られる体験を優先して囲い込むというAppleの戦略は、短期的に見れば効果があるかもしれないものの、長期的に見れば市場の優位性を失うことにつながる」という指摘も上がっています。
Apple Execs on iMessage for Android (2013) | Hacker News
https://news.ycombinator.com/item?id=33500579
なお、フェデリギ氏は2022年に経済紙のウォール・ストリート・ジャーナルが主催したライブイベントで、この件について質問に答える形で言及しています。
Apple on iPhones, Chips, Privacy, Working From Home and More | WSJ Tech Live 2022 - YouTube
フェデリギ氏は2013年にキュー氏と交わしたやり取りについて、「モバイルメッセージング市場に参入する場合、既存の製品と違いを生み出す形で参入しなければならない」という点が焦点だったと主張。これにはコストがかかり、フェデリギ氏らはそれを実現できる立場になかったことから、Android向けのiMessage提供を断念したとのこと。もしもAndroid向けに中途半端な形でiMessageを出荷した場合、今後のサービス改善の足かせになってしまうとフェデリギ氏は指摘し、「私たちは自分が貢献できる場所を選ぼうと思ったのです。どこに投資して、どこに違いをもたらすのかを選ぶのです」と述べています。
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