Z世代に広がる頑張りすぎない働き方「静かな退職」が労働者にも職場にもプラスになる理由とは?
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックやリモートワークの普及は、労働者たちのに仕事と私生活の関係について再考する機会をもたらしました。その結果、アメリカでは「グレート・レジグネーション(大量離職)」と呼ばれる離職者増加が発生して社会問題となっています。一方で1990年代後半~2010年頃に生まれたZ世代の若者の間では、離職まではしないものの仕事に対する献身度を下げる「Quiet quitting(静かな退職)」という現象が広まっているとのことです。
WTF is quiet quitting (and why is Gen Z doing it)? - WorkLife
https://www.worklife.news/culture/quiet-quitting/
Quiet quitting: why doing less at work could be good for you – and your employer
https://theconversation.com/quiet-quitting-why-doing-less-at-work-could-be-good-for-you-and-your-employer-188617
「静かな退職」という言葉を聞くと、他の人に黙って退職するかのようなイメージを抱くかもしれませんが、実際には「ハッスル文化の拒絶」に近い行為だといえます。ハッスル文化とは、自らの成長を目指して仕事に強い熱意を注ぎ、時にはプライベートを犠牲にしてまで与えられた要件以上の仕事をこなそうとする姿勢のことです。
アメリカでは長年にわたりハッスル文化が仕事の規範となってきましたが、Z世代では上昇志向を放棄して要件以上の仕事をこなさない人々が増加しているとのこと。以前からハッスル文化に乗らない労働者は存在していましたが、新たに静かな退職という言葉が作られたことで、TikTokなどのSNSで注目を集めています。TikTokクリエイターのザイド・カーン氏は静かな退職について述べた動画で、「仕事を辞めるのではなく、『それ以上のことをやる』ということをやめるのです」と説明しています。
@zaidleppelin On quiet quitting #workreform ♬ original sound - ruby
カーン氏は労働者向けメディアのWorkLifeに対し、「静かな退職が訴える重要なメッセージは、私たちは誰もがワークライフバランスを取るに値する存在であり、仕事がすべてを支配しストレスを与えるべきものではないということです」「同じように感じている人がいるはずだと思いました。会社で頑張ったところで数年でその努力は忘れ去られ、眠れない夜を過ごしたことばかりが思い出されるでしょう。それよりも自分の生活や趣味を優先し、大切なものをより多く育むことにシフトしてはどうでしょうか」とコメント。
その一方で、静かな退職は仕事の取り組み方や姿勢を変えるものであるものの、決して勤務時間中に怠けることではないとカーン氏は主張しています。「静かな退職運動が強化している本質的な点は、『自分の仕事をするだけで十分だ』ということです」と、カーン氏は述べました。
会計事務所のデロイト・トーマツが2022年に行った(PDFファイル)調査では、Z世代の若者は雇用主を選択する際の優先事項に「ワークライフバランス」を挙げているほか、45%が職場における燃え尽き症候群を感じていることや、40%が2年以内に仕事を辞めたいと考えていることも示されました。WorkLifeは、以前から静かな退職のようなコンセプトはあったものの、COVID-19のパンデミックでその傾向が加速したとみています。
一部の管理職や経営者は静かな退職の流行を警戒しており、従業員が怠けるのではないかとも懸念しています。しかし、ブリストル大学の上級講師であるNilufar Ahmed氏は、静かな退職は恐れるべきものではなく、労働者本人だけでなく企業にとっても有益かもしれないと指摘しています。
過去の研究からは、ワークライフバランスがさまざまな仕事においてメンタルヘルスと関連していることが示されており、静かな退職によってワークライフバランスが回復すると、メンタルヘルスも安定させられる可能性があります。
また、仕事=人生という価値観を捨てることで、自尊心を仕事から切り離すこともできます。自尊心のよりどころが仕事しかない人は、昇進や表彰などで成果が認められなかったり業務で失敗したりすると、自分の内面にもダメージを負ってしまいます。多くの場合、人々はより多くの仕事をすることで挽回しようとしますが、過労と自尊心の低下という悪循環に陥ることが多いとAhmed氏は指摘。
ワークライフバランスが損なわれることでメンタルヘルスが悪化し、仕事への意欲やエネルギーが失われてしまう燃え尽き症候群になると、身体的・感情的・精神的健康に長期的な悪影響が及ぶ可能性があります。燃え尽き症候群になってしまった従業員は仕事を休んだり、パフォーマンスが大幅に低下したり、辞めたりしてしまいます。これは本人だけでなく雇用主にとっても大きなダメージであり、2022年の調査ではイギリスだけで年間7億ポンド(約1160億円)もの追加費用が発生していると試算されています。
そのため、静かな退職を選択することでワークライフバランスを立て直し、燃え尽き症候群から身を守ることは、従業員だけでなく雇用主にとっても有益なことだといえます。また、ワークライフバランスの改善によって幸福感が増加すれば生産性の向上にもつながり、職場での人間関係にも好影響が出る可能性があります。
Ahmed氏は、静かな退職によるワークライフバランスの改善は、「グレート・レジグネーション(大量離職)」からの解放にもなり得ると主張。「人々は過労と燃え尽き症候群を拒否し、バランスと喜びを選んでいます」「雇用主は生産性の低下に神経質になるのではなく、静かな退職の運動を利用して、従業員の幸福を支援する必要があります。よりよいワークライフバランスを奨励することは、労働者に彼らが評価されていることを伝え、エンゲージメントや生産性、忠誠心の向上につながります」と述べました。
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