オオカミが自然の生態系をよみがえらせたというイエローストーン国立公園の伝説とは？

日本からは姿を消した野生のオオカミは、ヨーロッパではまだ生息しているものの、絶滅が危惧される状態です。世界で初めて国立公園に認定されたことで知られるイエローストーン国立公園では、密猟によって絶滅していたオオカミの群れを復活させるために、カナダからオオカミを輸送して自然の中に放つ「オオカミの再導入」が行われました。そんなオオカミの再導入によってイエローストーン国立公園の生態系が繁栄したと考えられていたり、一方で科学者たちはオオカミが生態系を繁栄させたというのは一種の「神話」であると否定したりと、複雑な自然の仕組みについて意見が分かれています。

Scientists debunk myth that Yellowstone wolves changed entire ecosystem, flow of rivers
https://news.yahoo.com/scientists-debunk-myth-yellowstone-wolves-123441128.html

How Wolves Change Rivers - YouTube


生物や自然、環境などについての動画を投稿するSustainable Humanが2014年に投稿したムービーでは、「オオカミはさまざまな動物を殺すと思われていますが、他の多くの生き物に命を与えることはあまり知られていません」とオオカミが生態系を復活させる旨を解説しています。

ムービーによると、イエローストーンではオオカミが絶滅したため、シカを狩る動物がおらず、そのために激増したシカはほとんどの植物を食べ尽くしてしまったそうです。そこで、オオカミの再導入によって、わずかな個体数でもシカの天敵であるオオカミが生息するようになったことで、シカはオオカミに狩られるようになったことに加えて、オオカミに追い詰められやすい場所を避けてシカが生息するようになりました。

シカが植物を食い尽くすことがなくなったことで、植物の再生はすぐに始まり、6年で木の高さが5倍になった場所もあるとのこと。森ができると渡り鳥などの数が増え、木を食べるビーバーの数が増え、ビーバーが作ったダムがカワウソやカモなどの生息地になる、といった風に生態系が連鎖して広がっていきます。また、オオカミがコヨーテの数を減らしたため、ウサギやネズミが増え、それらを狩るタカやイタチ、キツネ、アナグマが増える、といった効果もあったそうです。

また、再生した森の作用により、川の蛇行や地面への浸食が減り、川幅は狭くなり、水たまりは増え、野生動物にとって絶好の生息地となりました。このように、オオカミは川の様子も大きく変えたとムービーは解説しています。

しかし、このような「オオカミがイエローストーン国立公園の生態系を復活させた」というのは誤りであり、現実とはかけ離れているという意見もあります。ユタ州立大学の生態学者であるダン・マクナルティ氏によると、イエローストーンは食物網がかなり複雑であり、肉食動物はクマやピューマなど数多くいるため、オオカミはシカに対する脅威としてはわずかな役割しか果たしません。マクナルティ氏は「オオカミだけが原因ではないことはすぐにわかりました。少なくとも早い段階では、オオカミはほとんど影響を与えませんでした。すべてをオオカミに帰するのは、まったく非現実的です。これは実にロマンティックな、実在しない世界の物語です」と述べ、Sustainable Humanの解説を強く否定しています。

また、コロラド州立大学の自然資源生態学研究所のトム・ホッブス氏は、「かつてイエローストーンからオオカミがいなくなったことで、公園に大きな生態学的影響を与えたことは、科学者の間で異論はありません。しかし、オオカミを復活させたことで何が起こるかについては、科学者の間で意見が分かれています」と語っています。ホッブス氏はアメリカ国立科学財団(NSF)に寄稿した論文の中で、「イエローストーンの生態系に欠けていた重要な生物はビーバーです。ビーバーの生息が安定するには1.8メートル以上の柳が必要ですが、オオカミの復活は柳の成長にはほとんど影響を与えていません」と、イエローストーンの生態系の大きな変化はオオカミの再導入とは別のところにある可能性を述べています。