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とあるモルモン教徒の主婦が書いた「偽の日記」はいかにして大ベストセラーになったか


末日聖徒イエス・キリスト教会、通称モルモン教の信者であるベアトリス・スパークスという女性と、ドラッグや売春におぼれて最後には命を落とした「15歳の少女の日記」の関係について、アメリカの雑誌・The New Yorkerがまとめています。

How a Mormon Housewife Turned a Fake Diary Into an Enormous Best-Seller | The New Yorker
https://www.newyorker.com/magazine/2022/08/01/how-a-mormon-housewife-turned-a-fake-diary-into-an-enormous-best-seller

1917年にアイダホ州に生まれ、長じてからラヴォン・スパークスというモルモン教徒の男性と結婚したベアトリス・スパークスは、信徒としての活動や主婦業の傍らで、高校生や大学生の少女に女性としての身だしなみや身のこなしを教える講師としても活躍しました。時にはカウンセラー、時にはセラピストやソーシャルワーカー、時には心理学者と肩書を変え、精神医学を修めたという出身校もユタ大学やカリフォルニア大学ロサンゼルス校ところころと変えたスパークスでしたが、1971年に出版された1冊の本で一躍有名になります。

その本が、「Go Ask Alice」です。

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https://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/0099416379/gigazine-22


「Go Ask Alice」は著者がAnonymous、つまり作者不明とされており、スパークスはあくまで原著となる10代の少女の手稿を発見し、編集しただけと主張しています。そして、ルイス・キャロルの著書「不思議の国のアリス」、より直接的にはジェファーソン・エアプレインの楽曲「ホワイト・ラビット」の歌詞から名前をとった主人公のアリス(仮名)は、中流家庭に生まれたキリスト教徒の白人という、どこにでもいる普通の15歳として設定されています。

アリスの日記には、ダイエットや男の子とのデートといったありふれた日常がつづられていましたが、アリスはあるときドラッグのアシッド、つまりLSDに目覚めます。これをきっかけに家出してさまざまな麻薬におぼれ、ドラッグを買うための売春に手を染めたアリスは、2回更生の機会を得ながらもドラッグから逃れることはできませんでした。そして、最後には日記を書くのをやめて家に帰り、まもなく薬物の過剰摂取で命を落としたことになっています。

アリスが残した日記をスパークスが発見、編集して発表した「Go Ask Alice」は大ベストセラーとして多くの人に読まれ、現代でも「アメリカ女子生徒のバイブル」と評されています。しかしながら、この本の研究が進むにつれて著者や内容の信ぴょう性について多くの疑念が持たれるようになり、近年では本物の10代の少女が書いた日記ではなくスパークスが作った架空の物語だというのが一般的な見解とされています。


また、「Go Ask Alice」に関する暴露本である「Unmask Alice」の著者のリック・エマーソン氏は、同書の中で「アリスのモデルは、モルモン教のサマーキャンプでカウンセラーとして働いていたスパークスが出会った10代の少女だった」と主張しています。

こうした疑惑がある一方で、スラングや下品な言葉を多用した10代の少女らしい文体や内容の生々しさから、アリスは実在したと考えている読者も少なからず存在します。The New Yorkerによると、「Go Ask Alice」が読者や一部の教育者から根強く支持されている原動力は、この本にまつわる論争そのものにあるとのこと。アリスが経験したドラッグやセックスの赤裸々な描写がティーンエイジャーに喜ばれる一方、大人はポルノや堕落として眉をひそめ、これがますますティーンエイジャーの興味をあおります。そして、本のタイトルが多くの図書館や学校の禁書目録に記載されるようになると、「Go Ask Alice」の人気は一層高まっていきました。

「Go Ask Alice」で名をはせたスパークスは、それから少年少女の日記を元にした書籍を何冊も出版しました。悪魔崇拝や魔術にのめり込んで1971年に自殺した少年の日記であるという「Jay's Journal」もそのうちの1冊です。

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「Jay's Journal」の冒頭には、ある女性がスパークスの本を読んで、「天才的なIQの持ち主でありながら16歳で亡くなった息子の日記を世に送り出し、魔術の危険性を白日の下にさらして欲しい」と頼んだと書かれています。ところが、自殺した少年のジェイことオールデン・バレットの兄弟であるスコット・バレットは、「スパークスは少年の日記を3分の1程度しか参考にせず、本に書かれた内容の9割はねつ造だった」と証言しています。

例えば、「Jay's Journal」にはジェイ(オールデン)が少年院で超能力に目覚め、ラウルという名の悪魔に取り付かれたと書かれていますが、実際のオールデンの日記にはオカルトに関する記述はないとのこと。また、自殺も悪魔の支配から逃れるためではなく、うつ病が原因だったと考えられています。

「Jay's Journal」が出版されると、その内容にオールデンの母親は衝撃を受けました。その後、バレット夫妻は離婚してオールデンの母親は故郷を離れることになり、故郷に建てられたオールデンの墓は何度も荒らされたそうです。また一家が離散した後も、若者が「Jay's Journal」の内容を再現しようとオカルト儀式をしているというニュースに、残された家族は何回も悩まされました。

その後、スパークスはエイズで亡くなった14歳の少女を描いた「It Happened to Nancy」や、里親制度により虐待を受けた10代を描いた「Finding Katie」など、ティーンエイジャーの悲劇をつづった本を80代になるまで出版し、2012年に95歳で亡くなりました。

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The New Yorkerは、真実であれ虚構であれ、10代の若者の苦悩を描き続けたスパークスの著作について「『Go Ask Alice』をはじめとするスパークスの本に作為を感じた人は、その出どころが疑わしいと知れば、なるほどと感じるかもしれません。しかし、スパークスの作品に魅了され、自己破壊的な行動の抑止力にすることができた人にとっては、その出どころは重要ではないのでしょう」とコメントしました。

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in メモ, Posted by log1l_ks

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