生き物

昆虫が「痛み」を感じている可能性があるという研究結果


「人間以外の動物も痛みを感じるのか?」という疑問は動物実験や家畜などさまざまな倫理的問題にも関わっており、近年では「魚も痛みを感じている」「タコには痛覚がある」といった研究結果が発表されています。新たに科学誌の英国王立協会紀要Bに掲載された論文では、「昆虫が痛みを感じている可能性がある」と報告されています。

Descending control of nociception in insects? | Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciences
https://doi.org/10.1098/rspb.2022.0599

Evidence found that insects are possibly able to feel pain
https://phys.org/news/2022-07-evidence-insects-possibly-pain.html

Insects Probably Feel Pain, With Big Implications For How We Treat Them, Study Says | IFLScience
https://www.iflscience.com/insects-probably-feel-pain-with-big-implications-for-how-we-treat-them-study-says-64349

近年ではさまざまな動物実験において高い倫理的ハードルが設けられていますが、昆虫は「痛みを感じることができない」とされており、モデル動物として広く使われるショウジョウバエはサルやマウスと同じ基準で扱われていません。


しかし、ロンドン大学クイーン・メアリー校テヘラン大学の研究チームは、これまでに発表されたさまざまな研究を基にして、昆虫は痛みを感じないという説に疑念を呈しています。

昆虫は痛みを感じないとする説では、中枢神経系が哺乳類などと比較して洗練されていないため、体が負傷してもその痛みを脳が処理するわけではないと説明されます。たとえば、芋虫などは体の一部に刺激を与えると全身を曲げて痛みに反応するかのような行動を見せますが、この反応が脳を介したものなのか、それとも脳を介さない反射的行動なのかはよくわかっていないとのこと。


論文の中で研究チームは、「痛みに対して昆虫がどのように反応するのか」ではなく、「痛みに対して昆虫が反応しない仕組み」に着目しています。昆虫を含むさまざまな動物では、体組織が傷つけられたり化学的刺激にさらされたりすると、感覚ニューロンを通じて刺激が電気信号に変換され、これらの信号に反応してさまざまな反応や痛みが生じます。これは「侵害受容」と呼ばれるプロセスで、痛みを感じることで損傷部位を保護したり、さらなる損傷を防いだりすることが可能となります。

ところが、あまりにも強い痛みが発生した際には侵害受容が抑制され、逆に痛みをほとんど感じないという現象が起こることがあり得ます。たとえば、自動車事故に遭った人が病院で治療を受けるまで自身のケガに気付かなかったり、危険から逃れてホッと一息ついた途端に痛みを感じたりするのは、脳内で鎮痛作用のある化学物質が生成されて痛みを抑制しているためです。

昆虫には人間の痛みの制御において重要なオピオイド受容体がありませんが、研究チームは昆虫が外傷を負った際に産生される、痛みの抑制因子として作用する可能性がある神経ペプチドを同定しています。昆虫は普段痛みを感じているものの、特定の場面でこの神経ペプチドを産生することにより痛みを抑え、痛みを感じずに行動できるかもしれないと研究チームは考えています。

たとえば、カマキリのオスは交尾した後でメスに食べられてしまいますが、この際にオスが激しく抵抗しない理由について、「カマキリには痛覚がないからだ」と説明されるケースがあります。しかし研究チームは、カマキリのオスが抵抗しないのは痛みを感じないからではなく、「交尾の後に産生された神経ペプチドにより痛みが抑制されているから」ではないかと主張しています。

研究チームは、「これは昆虫が特定の状況下で他の行動ニーズを優先し、侵害受容による行動を減らすことができると示している可能性が高いです」とコメント。これは昆虫の脳において脳が痛みを制御していることを示しており、昆虫が痛みを感じている証拠になるとのことです。

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in サイエンス,   生き物, Posted by log1h_ik

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