「人々は自分のうんちを『うんちバンク』に預けておくべき」と研究者が主張する理由とは?
近年は他人のふん便を患者に移植することで腸内細菌のバランスを整える便微生物移植(ふん便移植/FMT)という治療法が注目されており、炎症性腸疾患(IBD)を含むさまざまな病気の治療に役立つことが期待されています。そんなFMTについて、ハーバード大学の生物学者であるYang-Yu Liu氏らの研究チームは、「人々は自分の便を凍結保存可能な施設に保管しておくべき」と主張しています。
Rejuvenating the human gut microbiome: Trends in Molecular Medicine
https://doi.org/10.1016/j.molmed.2022.05.005
Experts Say We Should All Be Storing Our Poo in a Bank, And Here's Why
https://www.sciencealert.com/experts-say-we-should-all-be-storing-our-poo-in-a-bank-and-here-s-why
一般的なふん便移植はドナーと患者が別人であり、腸内細菌のバランスが崩れた患者に対し、健康な腸内細菌を持つドナーのふん便を移植することで治療を行います。しかしLiu氏らの研究チームは、ドナーを「若く腸内細菌のバランスがよかった時の自分」に、患者を「腸内細菌のバランスを崩した時の自分」に置き換え、ドナーと患者が同一人物のふん便移植システムを考案しています。
ふん便移植においてドナーと患者を一致させることで、ドナーの体では問題なかった病原菌により患者が何らかの病気を発症したり、腸内細菌の変化で体質が大きく変化したり、一時的な有害作用が生じたりするリスクを抑えられるとのこと。
Liu氏は、「自家ふん便移植のためのバンクは、概念的には将来のために赤ちゃんのさい帯血を保管するのと似ています」「しかしふん便バンクの秘める可能性は大きく、ふん便サンプルを使用する可能性はさい帯血よりはるかに高いと予想しています」と述べています。
すでに人のふん便を保管する「ふん便バンク」は存在しており、最初の非営利ふん便バンクであるOpenBiomeが2012年にアメリカ・マサチューセッツ州にオープンした後、世界中で同様の施設が開設されているとのこと。これらのふん便バンクはドナーと患者が別人であることを想定していますが、原理的にはこれと同様のふん便サンプル採取と保管、そして移植のプロセスが自家ふん便移植においても使用可能です。
研究チームは「宿主のスクリーニングとサンプル採取における同様の手順が、自家ふん便移植によって腸内細菌を若返らせる目的で使用できます」「ゼロから始めるのではなく、既存の高水準のふん便バンクを、自家ふん便移植で腸内細菌を若返らせるという考えに転用することができます」と述べています。
共著者の疫学者であるスコット・ウェイズ氏は、「自家ふん便移植はぜん息・多発性硬化症・炎症性腸疾患(IBD)・糖尿病・肥満といった自己免疫疾患や、心臓病や老化などを治療する可能性を秘めています」「この論文が、病気を予防するための自家ふん便移植の長期的試験の実施を促すことを願っています」と述べました。
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