サイエンス

世界で初めて「フリーズドライされた体細胞」からクローンマウスを作り出す実験に日本の研究チームが成功


フリーズドライとは物体をマイナス30度ほどで急速冷凍し、真空状態にして水分を抜いて乾燥させる技術のことであり、現代では保存食や宇宙食などの製造に応用されています。新たに、「フリーズドライして最長9カ月間も保存した体細胞」からクローンマウスを作り出す実験に、山梨大学の研究チームが成功したことが報告されました。

Healthy cloned offspring derived from freeze-dried somatic cells | Nature Communications
https://www.nature.com/articles/s41467-022-31216-4

フリーズドライ体細胞からクローンマウスの作出に成功 -遺伝資源の究極の保存方法として- .pdf
(PDFファイル)https://www.yamanashi.ac.jp/wp-content/uploads/2022/06/20220630pr.pdf

Animals Have Been Cloned From Freeze-Dried Skin Cells in a Scientific First
https://www.sciencealert.com/scientists-have-cloned-mice-from-freeze-dried-skin-cells

災害や気候変動などから生物多様性を維持する上で、植物や動物の遺伝資源を保存することは重要です。ところが、既存の液体窒素を用いて動物の卵子や精子を保存する方法は困難かつ高価であり、大規模な震災などで液体窒素の供給が止まると溶けて利用できなくなってしまうという課題があります。


そのため、山梨大学の研究チームは20年以上にわたり、より安価なフリーズドライを用いた保存技術の開発を進めてきたとのこと。すでに精子細胞のフリーズドライ保存には成功しており、机の引き出しの中で1年以上保存したフリーズドライ精子や、国際宇宙ステーションで約6年間保存したフリーズドライ精子から子マウスを作り出すことに成功していました。

しかし、精子は老齢または幼い個体、あるいは不妊の個体から採取することはできず、メスの個体から卵子を採取するのも困難という問題があります。そこで山梨大学の発生工学研究センターに所属する若山清香助教らの研究チームは、どの個体からも採取できる体細胞をフリーズドライで保存し、クローンを作り出すという研究に取り組みました。精子のフリーズドライ保存に成功してから四半世紀近くが経過していますが、これまで精子以外の細胞がフリーズドライ保存に成功した例はなかったとのこと。


まず研究チームは、メスのマウスから卵子の周りに存在する卵丘細胞を採取し、凍結乾燥保護剤としてトレハロースまたはエピガロカテキン(ガロカテコール)で処理しました。その後細胞をフリーズドライして、マイナス30度の状態で最長9カ月間保存したとのこと。

保存期間の終了後、保存した卵丘細胞に水を加えて元に戻し、DNA損傷度を調べたり、細胞核を卵細胞に移植してクローン胚の発生率を調べたりしました。その結果、トレハロースを用いた場合は胚盤胞の発生率がわずか0.1%でしたが、エピガロカテキンを用いた場合は2.1%まで発生率が改善したそうです。これらのクローン胚を胚性幹細胞(ES細胞)の樹立用培地で2週間培養した結果、フリーズドライした卵丘細胞から約1%の割合でクローンES細胞を樹立することに成功したと、研究チームは報告しています。

続いて、オスとメスの尻尾から採取した線維芽細胞を、卵丘細胞の実験で有効性が確かめられたエピガロカテキンで処理してフリーズドライ保存し、クローンES細胞の樹立を試みました。その結果、マウスの性別に関係なく全体の1~2%がクローンES細胞として樹立することができたとのことです。

研究チームは最後に、樹立できたクローンES細胞をドナーとして核移植を行い、クローンマウスの製造に挑戦しました。その結果、0.2~5%(平均で約2%)の確率で、合計75匹のクローンマウスを作り出すことに成功。最初に作られたクローンマウスは「ドラミ」と名付けられ、メスとしての妊娠能力が正常であることや、676日間生存して寿命も正常の範囲内であることが確認されたとのこと。その他のクローンマウスも、調べられた個体はすべて正常な生殖能力を持っていました。

以下の画像の左端に写っている黒い個体が「ドラミ」です。

by 国立大学法人山梨大学

今回の研究において、体細胞からクローンES細胞を樹立するステップの成功率が約1%、クローンES細胞からクローンマウスを作り出すステップの成功率が約2%だったため、最初のドナー細胞からクローンマウスを作り出す成功率は0.02%に過ぎないと研究チームは指摘。この成功率は哺乳類初のクローン動物であるヒツジのドリーの成功率(0.4%)よりも低いため、信頼を得るためにも今後は成功率の改善が必要だと述べています。

また、今回はフリーズドライ細胞をマイナス30度の冷凍庫で保管しましたが、大災害などで電力供給が止まっても安全に保存できるようにするため、室温保存も可能にする必要があるとのこと。この点については、フリーズドライ精子ですでに室温保存が実現されているため、フリーズドライ体細胞の室温保存も実現可能だとみられています。

さらに、1例だけフリーズドライ保存したオスの体細胞からY染色体が抜け落ち、メスのクローンマウスがたくさん産まれたケースが偶然発生したそうです。これを再現することで、オスしか生き残っていない絶滅危惧種からメスのクローンを作り出して種を存続させられる可能性も示されたと、研究チームは述べました。

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in サイエンス,   生き物, Posted by log1h_ik

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