サイエンス

太陽活動の影響で地球を周回する人工衛星が急降下する事態に、人工衛星にとって厳しい時期の到来か


太陽ではしばしば太陽フレアという爆発が起きており、これによって電磁波や粒子線などが地球近傍へ放出される太陽嵐が発生します。太陽フレアおよび太陽嵐は地球の磁場を乱してさまざまな悪影響を及ぼす可能性があり、日本の総務省は6月21日に「太陽フレアによって携帯電話やテレビが2週間にわたり断続的に使えなくなり、広域停電が起きる可能性もある」と報告しました。近年は太陽活動が活発化しつつあり、すでに地球を周回する人工衛星が想定以上のスピードで地球へ降下するなど、さまざまな影響が及んでいると宇宙系メディアのSpaceが報じています。

Unexpected solar weather is causing satellites to plummet from orbit | Space
https://www.space.com/satellites-falling-off-sky-solar-weather


2021年の後半、欧州宇宙機関(ESA)が2013年に打ち上げた地磁気観測衛星のSWARMのオペレーターは、SWARMを構成する3基の人工衛星がこれまでの10倍という異常なスピードで、地球に向かって降下し始めたことに気付きました。ESAでSWARMのミッションマネージャーを務めるAnja Stromme氏は、「過去5~6年の間にSWARMの人工衛星は年間約2.5kmのスピードで降下していました。ところが2021年12月以来、人工衛星は事実上『ダイビング』をしている状態です。2021年12月~2022年4月までの降下率は年間で約20kmになります」と述べています。

地球の高度100kmにあるカーマン・ラインを超えると地球の大気圏外、すなわち宇宙空間と定義されますが、それでもわずかな大気抵抗が人工衛星に影響しているため、地球の近くを周回する人工衛星は徐々に地球へと降下していきます。そのため、国際宇宙ステーション(ISS)など数年以上にわたり運用される人工衛星は、定期的にリブーストを行って高度を上昇させて高度を維持しなくてはなりません。SWARMは、ISSより約30km高い高度430kmの軌道の2基と、それより高い高度515km地点に1基の計3基の人工衛星から構成されています。2021年12月以降の急降下により、高度430km地点を周回する2基は非常に不安定な状態となったため、オペレーターは5月にリブーストを実施して高度を上昇させたとのこと。

人工衛星に対する大気抵抗の増加は、太陽活動によって吐き出されるプラズマである太陽風の量によって左右され、太陽風の量は約11年の太陽活動周期によって増減することが知られています。2019年12月に終了した前回の太陽活動周期は黒点の数も少なく、かなり活動は穏やかでしたが、2021年の秋以降は太陽活動が活発化しています。

Stromme氏は、「太陽風と相互作用する大気の上層では、まだ十分に理解されていない複雑な物理現象がたくさんあります」「この相互作用によって大気が吹き上がることがわかっています。つまり、密度の高い空気がより高い高度へシフトするということです」とコメント。空気の密度が高いほど人工衛星に対する抗力が強くなるとのことで、「まるで風に逆らって走っているようなものです」とStromme氏は形容しました。


太陽の影響を受けたのはSWARMだけでなく、イーロン・マスク氏が率いる宇宙開発企業のSpaceXは2022年2月、衛星インターネットのStarlinkの人工衛星38基が大気圏に再突入する事態に見舞われました。Starlinkの人工衛星はまず地上350kmという低い軌道へと打ち上げられた後、搭載された推進装置を使って、運用軌道である高度550kmの地点まで上昇する仕組みとなっています。ところが、この打ち上げでは2月4日に発生した磁気嵐の影響を受け、大気抵抗が通常時より50%も増加したため、人工衛星が適切に上昇できず大気圏へ再突入してしまったとのことです。

「Starlinkの人工衛星40基が地球の大気圏に再突入する可能性がある」とSpaceXが公表 - GIGAZINE


民間宇宙開発が活発化した過去10年間には、CubeSat(キューブサット)をはじめとする小型の人工衛星が数多く低軌道へ打ち上げられましたが、これらの人工衛星はコストや重量が少ない代わりにリブースト機構がないため、大気抵抗が増加すると予定より早く地球へ落下してしまいます。Stromme氏は、「これらの新しい人工衛星の多くは推進システムを持っていません。彼らには高度を上げる方法がなく、基本的に軌道上での寿命が短いのです。これらの人工衛星は太陽が活動極小期になるよりも早く再突入するでしょう」と述べています。

また、ISSなどの人工衛星は頻繁にリブースト操作を行うことで高度を維持できますが、いくつかのリブースト機構付き人工衛星はあらかじめ積載された燃料に依存しているため、可能なリブーストの回数にも限界があるとのこと。

2021年の太陽活動は多くの専門家が予測したものより激しかったそうですが、まだピークではありません。イギリス・サウサンプトン大学の物理学教授であるHugh Lewis氏は、「太陽活動は公式の予測が示唆したものよりはるかに活発でした」「現在の活動はすでにこの太陽活動周期のピークと予測されたレベルに近づいていますが、実際の太陽活動のピークは2~3年後に控えています」とコメント。Stromme氏もLewis氏の発言に同意し、これから太陽活動が減衰していく可能性もあるものの、今のところ太陽活動は急速に増加中だと述べました。


太陽活動の増加は人工衛星のオペレーターにとって頭が痛い問題ですが、地球近傍の宇宙ゴミ(スペースデブリ)の大気圏突入を早め、宇宙空間がきれいになるという利点もあります。地球近傍のスペースデブリは高速で宇宙空間を移動しているため、人工衛星に衝突すると機器の故障や破損を引き起こします。実際、2021年にはISSにスペースデブリが衝突してロボットアームが破損したことも報じられています。

ある人工衛星にスペースデブリが衝突したことでさらにスペースデブリが生じ、衝突が連鎖して大きな問題となるケスラーシンドロームというシミュレーション結果もあるなど、スペースデブリの増加は宇宙空間の安全を保つ上で重要な課題です。Lewis氏は、「一般的に言って太陽活動の増加による大気抵抗の影響は、スペースデブリが軌道に存在する期間を短縮し、有用な『清掃サービス』を提供するため、スペースデブリの観点からは朗報です」と述べています。

一方、スペースデブリの高度が一気に下がることで、より低軌道を周回する人工衛星に雨のようなスペースデブリが降り注ぐことも指摘されています。この場合、やはりスペースデブリとの衝突リスクが高まるため、潜在的に危険な状態になるとのことです。


Stromme氏のチームはSWARMの高度を45kmほど上昇させましたが、今後の太陽活動によっては2022年後半にも再びリブーストする必要に迫られる可能性があるとのこと。「うまくいけば、次の太陽活動周期を乗り越えるための燃料がまだ残っています。しかし、現在のように太陽活動が増加したら、太陽周期が終わる前に燃料を使い果たしてしまいます」と、Stromme氏は述べました。

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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