「交通事故死者数を表示する電子看板」は逆に交通事故を増やしてしまうという研究結果
高速道路に設置されている電子看板(デジタルサイネージ)には、渋滞や制限速度変更などの道路状況に関するメッセージが表示されるほか、時には安全運転を促すメッセージが含まれていることもあります。アメリカでは28の州で「州全体の交通事故死者数」を表示して安全運転を促す試みが実施されていますが、新たな研究では「交通事故死者数の表示は逆効果であり、交通事故を増やしてしまう」との結果が示されました。
Can behavioral interventions be too salient? Evidence from traffic safety messages
https://www.science.org/doi/10.1126/science.abm3427
Highway warnings about traffic deaths may increase crashes, study finds | Ars Technica
https://arstechnica.com/cars/2022/04/highway-warnings-about-traffic-deaths-may-increase-crashes-study-finds/
研究チームは、交通事故死者数を表示するデジタルサイネージが実際にどのような影響を及ぼすのかを調べるため、2012年からデジタルサイネージによる交通事故死者数の表示を開始したテキサス州のデータを分析しました。研究対象としてテキサス州が選ばれたのは、2012年という比較的最近になってから交通事故死者数の表示を始めたという点に加え、「1カ月のうち交通安全キャンペーンが行われる1週間だけ交通事故死者数の表示を行う」という点が、研究に適していたからだそうです。
交通事故死者数の表示が始まる前の2010年1月1日から2017年12月31日にかけて、デジタルサイネージおよびその周辺で発生した交通事故のデータを分析した結果、研究チームは「交通事故死者数をデジタルサイネージに表示すると、その先の道路で交通事故が増加する」ことを発見しました。
具体的には、交通事故死者数が表示されるデジタルサイネージを通過後の最初の1kmで2.7%増加し、10kmで合計4.5%増加していたと研究チームは述べています。これはわずかに見えますが統計的に有意な増加であり、概算ではテキサス州全体で年間2600件の交通事故件数増加と16人の死亡を引き起こし、年間約3億7700万ドル(約480億円)の社会的損失につながっていることが示唆されています。この影響は、デジタルサイネージによる交通事故死者数の表示が導入された2012年から2017年にかけて、持続的に観察されたとのことです。
交通事故死者数の表示が逆効果になってしまう理由として、研究チームは「交通事故死者数の表示がドライバーの不安と認知負荷を増大させ、運転に必要な注意力や情報処理能力を低下させてしまう」という仮説を提案しています。
この仮説を支持するものとして、「表示される交通事故死者数が増えるほど交通事故の発生確率が高くなる」というデータが挙げられます。以下のグラフは、横軸が交通事故死者数(882人以下、883人~1736人、1737人~2621人、2622人以上)を示し、縦軸が交通事故の増加率を示しており、交通事故死者数が増加するほど交通事故が増加する関係が見て取れます。
また、以下のグラフは横軸が月、縦軸が交通事故の増加率を示したもの。交通事故死者数が累積する年の後半になるにつれて交通事故が増加し、前年の死亡者数が表示される翌年1月までその影響が持続した後、死亡者数がリセットされる2月になると交通事故が一気に減少していることがわかります。
さらに研究チームは、デジタルサイネージに交通事故死者数が表示された週には複数車両が絡む事故が増加していた一方、単独事故は増加していないことも発見しました。研究チームは、「単独事故は大きなミス(道路外走行など)の結果である可能性が高いです。そのため、複数の車両が絡む事故の増加は、交通事故死者のメッセージを表示すると注意散漫な運転(車線の逸脱など)に最も関連する、より小さな運転ミスを引き起こすことを示唆しています」と述べました。
今回報告された結果は、「死亡者数を示すデジタルサイネージがどの程度の頻度で設置されているのか」「交通事故による死亡者数がどれほど多いのか」といった要素にも影響されるため、交通事故死者数の表示を導入するすべての州で同じ影響が出るとは限らないとのことです。
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