ハードウェア

ドローン配達サービスで大手スーパーのウォルマートやGoogleの姉妹企業WingはAmazonの先を行っている、各社の取り組みや規制当局の問題とは?


近年では「ドローンによる無人配達サービス」が実用段階に入りつつあり、大手スーパーマーケットチェーンのウォルマートやGoogleの姉妹企業であるWingは、すでに商用のドローン配達サービスを一部地域で展開し始めています。一方、早い段階からドローン配達サービスの野望を打ち出してきた大手ECサイトのAmazonはドローン配達サービスで遅れを取っているとのことで、テクノロジー系メディアのArs Technicaが各社の取り組みや現状についてまとめています。

How Walmart and Alphabet jumped ahead of Amazon in drone delivery | Ars Technica
https://arstechnica.com/tech-policy/2022/04/how-walmart-and-alphabet-jumped-ahead-of-amazon-in-drone-delivery/

2022年4月7日、Googleの姉妹企業でありドローン配達サービスを事業とするWingが、アメリカ・テキサス州のダラス近郊でドローン配達サービスを開始しました。このサービスでは、薬局チェーンのウォルグリーンをはじめとする小売店がドローンに配達物を載せ、小売店の駐車場からドローンが離陸し、付近に住む顧客に配達物を届けるとのこと。Wingはすでにオーストラリアフィンランドでサービスを開始しており、ダラスでの展開は「アメリカの主要都市圏で初となる商業ドローン配達サービス」とアピールしています。

Google姉妹企業「Wing」がドローンによる無人配達サービスをテキサス州で開始 - GIGAZINE


Wingがダラスでの展開について「アメリカの主要都市圏で初」と注釈を付けたのは、すでにウォルマートが本部を置くアーカンソー州の一部でドローン配達サービスを展開しているからです。すでに2店舗のウォルマートでドローン配達サービスが導入されており、間もなく3店舗目の導入が進む予定だとされています。

Wingとウォルマートのドローン配達サービスは限定された地域のみで提供されており、各サービスの配達回数は1日あたり100件ほどだとのこと。しかし、これらは実際に顧客まで商品を配達しているサービスであり、明らかに研究開発段階を越えているとArs Technicaは指摘しています。


その一方で、2013年にドローン配達サービスを発表したAmazonは依然として商用段階に達することができていません。2022年4月には、Amazonのドローン配達プロジェクトが開発遅延や墜落事故といった課題に直面していることや、Amazonの安全対策を問題視する元従業員の証言などが報じられました。

Amazonの「ドローン配達」プロジェクトが遅延や墜落事故といった課題に直面、大量の従業員が離職する事態も - GIGAZINE


Ars Technicaは各社のドローン配達サービスについて取材するため、ウォルマートと提携してドローン配達サービスを提供するスタートアップ・DroneUpの創設者兼CEOであるトム・ウォーカー氏にインタビューしました。アメリカでは連邦航空局による厳しいドローン規制が課せられており、その中でも特に重要なものとして「ドローンが人間のオペレーターの視界内で操作されなければならない」という規制があります。規制免除を申請することもできるもののプロセスに時間がかかることから、ウォーカー氏が率いるDroneUpはこの課題を乗り越えるために「明らかにローテクなソリューション」を選択したとのこと。

DroneUpが選択したソリューションとは、「ウォルマートの駐車場に高さ約9mのミニチュア管制塔を建設し、人間のオペレーターが配達中のドローンを視認できるようにする」というもの。ウォーカー氏によると、オペレーターは約2.4km離れたところのドローンまで視認できるそうです。ウォーカー氏は最終的に連邦航空局が要件を放棄し、ドローンの飛行可能範囲である5km先まで配達可能になることを望んでいます。

また、ミニチュア管制塔のソリューションはローテクだとしても、ドローン自体は完全に自律的だとのこと。連邦航空局はドローンが人や動いている車両の上を飛行することを禁じていますが、DroneUpのドローンは危険なエリアを自動で回避する機能や、地上のどこに人がいるのかを知らせるセンサーも備えているそうで、一部に不具合が起きてもクラッシュしない冗長性もあるとのこと。1件の配達には平均約27分かかるそうで、ドローンが顧客の家に到着すると搭載カメラを通じて遠隔地のオペレーターが安全を確認し、高さ約24mからケーブルを使ってウォルマートの箱を地面まで下ろします。顧客やペットは配達が完了してドローンが飛び去るまで屋内にいることが求められ、付近に誰かがいる場合はフライトが中止されるそうです。

DroneUpのドローンには8つのプロペラがあり、重量を連邦航空局の特別な許可がいらない約25kg未満に抑えつつ、最大1.4kgの貨物を運べると宣伝されていますが、ウォーカー氏は実際にはもっと重い荷物も運べると主張しています。また、ウォーカー氏は「今年や来年、どれほど多くの店舗でドローン配達サービスが展開されるのかは言えません」と述べ、今後1、2年でさらにウォルマートのドローン配達サービスが成長するとほのめかしています。なお、DroneUpは2022年に従業員数を200人から600人に成長させる計画であり、新たな従業員の多くがドローンオペレーターだとみられています。

by Mike Mozart

一方、アメリカでのドローン配達サービス展開ではウォルマートに遅れを取ったWingですが、すでにオーストラリアやフィンランドでサービスを展開しているため、2022年3月には「合計20万件の商業配達を達成した」と発表しています。今回サービスを開始したダラス近郊には多くの住人がいるため、Wingの従業員は「(ダラスの)大都市圏には700万人以上の人々が住んでいます。この1つの大都市圏で私たちがサービスを提供できる人の数を考えると、信じられないほどエキサイティングです」と語っています

なお、WingはDroneUpと異なり「人間のオペレーターの視界を越えた範囲でドローンを運用してもよい」という免除を取得しているため、本拠地から約6.4km先まで配達することができるとのこと。また、ドローンが人の上を飛行することも許可されているとのことで、規制要件についてはDroneUpよりかなり緩くなっています。Wingのドローンは配達地点の約7m上空でホバリングし、地面まで荷物を下ろすとのことです。


ウォルマートやWingに対してAmazonは大きな遅れを取っていますが、すべての企業にとって大きな障害となっているのが連邦航空局の厳しい規制です。航空業界では新たな航空機の販売、会社の設立、パイロットになるといったさまざまな事柄について連邦航空局の承認が必要であり、既存の航空業界の枠組みに収められたドローンでもこれは同様です。ウォーカー氏によると、連邦航空局はドローンサービスを開発する企業に対して民間航空会社と同じ規制を順守するよう求めてきたそうです。たとえば初期のドローン企業は、「すべての航空機にシートベルトの着用を義務づける」という規制の免除を申請する必要があったとのこと。

また、新しい航空機の設計においては型式証明というプロセスがありますが、ドローンでも同様に型式証明が行われます。ウォーカー氏は「型式証明のプロセスに入ると、技術を凍結する必要があります。構成の大幅な変更はプロセスをリセットします」と述べ、型式証明が開始されると新技術をドローンに追加できなくなってしまうと指摘しています。もともと、多くの企業は「6~9カ月で型式証明を通過できるだろう」と考えていたそうですが、実際には2年以上もプロセスを通過できない企業もあるそうで、こうした状況がドローン配達サービスの展開を妨げているそうです。

それでも、近年の連邦航空局は次第にドローンの規制環境を改善しつつあるとのこと。ウォーカー氏はArs Technicaに対し、「連邦航空局が本腰を入れて『これは本物だ。ドローンの流行はなくならない』と言い出したのは本当に大きかったです」とコメント。2022年3月には、航空規則制定委員会による「ドローン規制の標準化および合理化を求める勧告」が発表され、これにより審査プロセスが明確かつ合理的になることが期待されています。

しかしArs Technicaは、「連邦航空局の緩慢なアプローチが、過去10年間でどれほどドローンの革新を妨げてきたのでしょうか」と述べ、よりよいルールと適応性の高い規制当局があれば、記事作成時点でドローン配達サービスを展開していたのはウォルマートとWingだけではなかっただろうと主張しました。

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
Google姉妹企業「Wing」がドローンによる無人配達サービスをテキサス州で開始 - GIGAZINE

ドローン配達サービス「Wing」がオーストラリアで商用サービス開始、運営はGoogleの兄弟会社 - GIGAZINE

Amazonの「ドローン配達」プロジェクトが遅延や墜落事故といった課題に直面、大量の従業員が離職する事態も - GIGAZINE

Amazonのドローン配送サービス「Amazon Prime Air」に暗雲、100人以上の従業員が退職してプロジェクトが崩壊寸前か - GIGAZINE

AmazonやAlphabetの「ドローン配達」はどこまで来ているのか? - GIGAZINE

ドローン配達サービスが「住宅のデザイン」を変えるとの指摘 - GIGAZINE

in ハードウェア, Posted by log1h_ik

You can read the machine translated English article here.