生き物

蚊の交尾における「音」に関する研究結果がマラリアとの戦いで重要な意味を持つ


世界保健機関(WHO)は2020年だけで推定2億4100万人がマラリアに感染し、62万7000人もの人々が亡くなったと推定しています。イギリスのユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドンの研究者が中心となった研究チームが、2022年1月に蚊の交尾において重要な「音」についての研究結果を発表しています。

Hitting the right note at the right time: Circadian control of audibility in Anopheles mosquito mating swarms is mediated by flight tones
https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.abl4844

We studied the sounds of mosquitoes’ mating rituals – our findings could help fight malaria
https://theconversation.com/we-studied-the-sounds-of-mosquitoes-mating-rituals-our-findings-could-help-fight-malaria-174797

蚊はマラリアやデング熱などの感染症を媒介するため、「最も多くの人間を殺している生き物」ともいわれています。すでにマラリアのワクチンが開発されており、WHOも子どもへの接種を推奨しているものの、依然として蚊が媒介する感染症が人間に及ぼす影響は深刻です。

近年では気候変動によって蚊の生息域や個体数が変化していることも指摘されており、蚊の個体数を減らすために「子孫が死ぬ遺伝子を組み込んだ遺伝子組み換え蚊を放つ」という実験も行われています。

遺伝子組み換えした数千万匹の蚊を放つ大規模な実験がアメリカで実施へ - GIGAZINE


そんな中、ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドンやタンザニアの機関からなる研究チームは、「蚊の繁殖行動」に着目した研究を行いました。蚊のオスは飛行しながら交尾相手のメスを見つけますが、この際にメスを見つける手がかりとなるのが「メスの飛行音」だそうで、もしオスがメスの飛行音を聞き取れなかった場合は交尾に失敗してしまうとのこと。

しかし、蚊のオスとメスが持つ聴覚では、お互いの飛行音は周波数が高すぎるため聞き取ることができません。そこで蚊は、お互いの飛行音を聞き分けるために、「distortion product(歪成分耳音響放射)」という物理学的な現象を利用しています。歪成分耳音響放射とは、2つの音が同時に聴覚器官を刺激した場合に追加の周波数成分が放射される現象のことで、新たに追加される周波数成分は元の音には存在していません。

蚊は「オスの飛行音」と「メスの飛行音」が合わさって生成される周波数成分を頼りに、異性が周囲を飛んでいることを感じ取っています。蚊のオスは、歪成分耳音響放射を利用してメスの飛行音を聞くために自らも飛行する必要があり、自分自身が生み出す飛行音も適切な周波数でなくてはならないと研究チームは指摘しています。


研究チームは感度の高いマイクを装着した繁殖器を複数用意し、その中に「オス100匹」「メス100匹」「オス50匹・メス50匹」を入れて羽音を録音しました。インキュベーター内では自然環境と同じように照明環境を再現し、温度や湿度についても制御されていたとのこと。

数日間にわたって測定したデータから、「オスは時間帯によって飛行音を変化させる」ことが判明。具体的には、夕方の時間帯になるとオスの蚊が羽ばたく速度は通常時よりアップし、「メスの蚊の1.5倍」の速度で羽ばたいていました。この羽ばたく速度で生成されたオスの飛行音が、付近を飛ぶメスの飛行音と組み合わさることで、適切な歪成分耳音響放射が発生すると研究チームは述べています。また、オスが羽ばたく速度を変えるのは「オス100匹」だけが入れられた繁殖器でも同様に発生したため、付近にメスがいなくても概日リズムに合わせてオスは羽ばたく速度を変えていることもわかりました。


オスが羽ばたく速度を変えるのは夕方の時間帯だったそうで、これは蚊が繁殖のための蚊柱を作る時間帯が夕方であることとも一致します。蚊柱を形成するのは主にオスであり、そこに散発的にメスの蚊が入り込み、いち早くメスを見つけ出したオスが交尾に成功するとのこと。蚊が1日のうち特定の時間帯しか羽ばたく速度を変えないのは、羽ばたく速度を上げるにはエネルギーを使うため、1日中やっているとエネルギーが足りなくなってしまうからだとみられています。

研究チームは今回の研究結果を基に、タンザニアに住む野生の蚊でも同じ現象が確認できるかどうかを調べています。蚊の交尾に音が果たしている役割を理解することは、「子孫が死ぬように遺伝子組み換えした蚊」の交配確率を高めることにもつながるため、マラリアなどの感染症との戦いにおいて重要だと研究チームは述べました。

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in サイエンス,   生き物, Posted by log1h_ik

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