サイエンス

たった45日で宇宙船が火星に到達する「レーザー熱推進」を利用した航法が考案される


近年では無人探査ローバーによる火星探査活発化しており、NASA中国は火星の有人探査も計画しています。有人宇宙船を火星に送り込むには既存の技術だと6~9カ月ほどかかると考えられていますが、カナダ・マギル大学の研究チームは「レーザー熱推進」という手法を利用して移動時間をわずか45日に短縮できるとの論文を発表しました。

Design of a rapid transit to Mars mission using laser-thermal propulsion - 2201.00244.pdf
(PDFファイル)https://arxiv.org/pdf/2201.00244.pdf

Lasers Could Send Missions to Mars in Only 45 Days - Universe Today
https://www.universetoday.com/154487/lasers-could-send-missions-to-mars-in-only-45-days/

Scientists develop laser guided system that could send a spacecraft to Mars in 45 days | Daily Mail Online
https://www.dailymail.co.uk/sciencetech/article-10520147/Scientists-develop-laser-guided-send-spacecraft-Mars-45-days.html

火星に有人宇宙船を送り込む場合、既存の技術だと地球から火星まで6~9カ月ほどかかり、核熱ロケット推進(NTP)原子力電気推進(NEP)といった技術を使っても片道で100日ほどかかるとみられています。しかし、研究チームは水素燃料とレーザーを利用するレーザー熱推進システムを使うことにより、火星までの移動時間をわずか45日に短縮できると主張しています。

近年では指向性と収束性に優れたレーザーをエネルギーとする推進システムに注目が集まっており、レーザー光を帆で受けて微小探査機を光速の20%で飛ばすという計画や、クマムシをのせた超小型船をレーザー光で加速して星間飛行を実現できるという研究結果が話題を呼んでいます。マギル大学の研究チームは、レーザーを無人探査機や星間飛行ではなく、惑星間航行に応用する可能性を探りました。

レーザー光を使って宇宙船を推進する方法はいくつか考案されており、前述した通り帆にレーザー光を当てて推進する方法や、照射されたレーザー光を集約して太陽光発電アレイで発電し、電力を使って推進システムを駆動する方法などがあります。しかし、研究チームが提唱するのは「レーザー光を集約して推進剤を直接加熱し、その膨張を利用して宇宙船を推進させる」という方法です。

論文の筆頭著者であるエマニュエル・デュプレ氏は、レーザー光で直接推進剤を加熱することで宇宙船を地球の付近で急速に加速させることができるため、宇宙空間でもレーザー光を当て続ける必要がないというメリットがあると主張。「私たちの宇宙船は地球の近くで非常に素早く加速するドラッグスターのようなものです。また、同じレーザーエンジンを使って、メインの宇宙船を火星に打ち上げた後のブースターを地球軌道に戻し、次の打ち上げでリサイクルすることも可能だと信じています」と述べています。


デュプレ氏らの提案した宇宙船では、100MWの出力を持つ直径約10mのレーザーを地球に建設する必要があるほか、加熱チャンバーにレーザー光を集約させる装置、火星着陸時に高温から宇宙船を保護する材料なども必要です。特に、反射性の高いレーザー光集約装置は、太陽光発電アレイよりも面積当たりが維持できるレーザー光エネルギーを増やすため、地上に設置するレーザー光照射システムを小型化できるとのこと。

今回のアイデアに関わる多くの技術は記事作成時点でテストされておらず、レーザー熱推進システムの実現には課題が残っています。デュプレ氏は、「レーザー加熱室が最も大きな課題でしょう。レーザービームによって1万度以上の高温に加熱される推進剤(水素ガス)を封じ込め、同時にチャンバーの壁面を冷却できるでしょうか?私たちのモデルによるとこれは実現可能ですが、まだ100MWのレーザーが完成していないため本格的な実験はできません」と述べました。


火星への移動時間を数カ月から数週間まで短くすることは、放射線や微小重力といった宇宙飛行士への危険を軽減させ、火星探査ミッションにおける最大の課題である物流の障壁も減らすことにつながります。地球と火星との高速輸送システムが確立すれば、火星のインフラストラクチャー構築が加速し、火星へやってくる宇宙船を減速させるためのレーザーアレイを建設することも可能かもしれません。

研究チームのアンドリュー・ヒギンズ教授は、「私たちの研究はレーザー熱推進アプローチを検討したものであり、その結果は非常に心強いものでしたが、レーザー技術そのものが真のゲームチェンジャーです」と述べ、今後は宇宙探査におけるレーザーの存在感が増すとの見通しを示しました。

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
光速の20%で宇宙船をアルファ・ケンタウリに送りこむ「ブレイクスルー・スターショット」計画の技術的課題とは? - GIGAZINE

光速の20%の速さで飛ぶ小型探査機計画「ブレイクスルー・スターショット」が直面せざるを得ない危険とは? - GIGAZINE

アルファ・ケンタウリへ20年で到達する宇宙船を射出する計画をホーキング博士らが始動 - GIGAZINE

燃料なしで宇宙船を半永久的に航行させる常識破りの推進装置「EMドライブ」と、謎だった原理を解明する新しい理論とは? - GIGAZINE

NASAは宇宙船のナビゲーションに18世紀の発明品「六分儀」を使用するかもしれない - GIGAZINE

火星への有人探査ミッションでは「セックス」の問題は避けて通ることができない - GIGAZINE

火星で使われるコンクリートは宇宙飛行士の「血と汗と涙」で作られる可能性 - GIGAZINE

in 乗り物,   サイエンス, Posted by log1h_ik

You can read the machine translated English article here.