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光速の20%の速さで飛ぶ小型探査機計画「ブレイクスルー・スターショット」が直面せざるを得ない危険とは?


宇宙に打ち上げた超小型の宇宙探査機に地上から強力なレーザー光を照射することで、実に光の速さの20%にまで加速させ、数光年離れた惑星に到達させようという「Breakthrough Starshot (ブレイクスルー・スターショット)」計画が進められています。かのホーキング博士やFacebookのザッカーバーグCEOも支持を表明しているこの計画では、地球から4.37光年離れた場所にある恒星系のアルファ・ケンタウリ20年で到達させることが目指されており、実現に向けた研究も進められているのですが、その一方で避けては通れない問題の存在も指摘されています。

Just how dangerous is it to travel at 20% the speed of light? | Ars Technica
http://arstechnica.com/science/2016/08/could-breakthrough-starshots-ships-survive-the-trip/

Breakthrough Starshot計画はロシアの富豪ユーリ・ミルナー氏が率いるチームが進めているもので、前述のホーキング博士やザッカーバーグCEOは同チームの役員に名を連ねています。この計画の要となるのが、ナノテクノロジーを駆使した超小型・超軽量の探査機と、地上から宇宙に向けてレーザーを照射することで探査機に推力を与えるレーザービーム照射施設です。

探査機はコア部分の大きさが数ミリ、重量がわずか数グラム程度という極めて小さなもので、「ムーアの法則」にのっとって進化してきたナノテクノロジーを駆使することでシリコンウェハー上にカメラやセンサー、アンテナなど観測に必要な機器を実装することが計画されています。そしてそのコアには、レーザー光を受ける帆が取り付けられます。この帆は数メートル規模の大きさですが、膜の厚みがわずか原子数個レベルという極めて薄いものが使われることになっており、コア部分と帆をあわせた全体の重量でも数グラム程度に収めることが計画されています。


そして探査機に推力を与えるのが、地上に設置されたレーザービーム照射施設。100ギガワット時級の電力で強力なレーザー光を正確に探査機に照射することで、推力を発生させる仕組み。


強力な推力を得た探査機は数分以内に目的の速度に達し、20年にも及ぶアルファ・ケンタウリへの航海へと旅立つという計画です。一度の打ち上げにあたり、およそ1000個の探査機が宇宙空間に放たれることになるとのこと。


この概要は以下のムービーを見ればよくわかります。

Breakthrough Starshot Animation (Full)


およそ人類が実現したことがない超高速で飛行し、太陽系を大きく離れて深宇宙へと旅立とうという壮大な計画ですが、そこには解決しなければいけない大きな問題が立ちはだかることになりそうです。

重さわずか数グラムの超小型探査機とはいえ、光速の20%=秒速約6万キロメートルというとてつもないスピードで突き進むことで、探査機と帆は大きなエネルギーを持つことになります。その際に大きな問題になってくるのが、「星間ガス」と呼ばれる、宇宙空間を漂う原子や分子の存在です。宇宙空間は真空ではあるものの、まったく物質が存在しない状態ではありません。星が誕生するプロセスに取り残され、引力に引き寄せられることがなかった水素やヘリウム、場合によっては酸素や鉄などの原子や分子がごくわずかに残っており、高速で飛行する物体が衝突することで、通常では起こりえない被害が発生する危険性が潜んでいます。

By Porter Hall

この危険性は、光速よりも速いスピードで空間を超越する「ワープ」を語る際に大きな問題とされることが多かったのですが、実際には光速の20%程度のスピードでも問題を生じさせることが計算から明らかにされています。超高速で飛行する探査機が空間を漂う星間ガスに衝突すると、衝撃により熱が発生します。この熱により、物質が衝突した部分の素材が溶融するほか、場合によっては一瞬で蒸発してしまうことが考えられます。

素材が蒸発するとその部分が欠損して大きな影響を与えることはもちろんですが、溶融が発生した場合にも影響は発生します。運良く蒸発を免れ、再び温度が下がることで凝固した場合であっても、素材の物性が大きく変化してしまい、所定の性能を発揮できなくなってしまうことが十分に考えられるのです。星間ガスによる影響は、探査機の表面に0.1ミリメートル程度の凹みを与えることになるとみられますが、形状と同様に物性の変化による影響も無視できるものではありません。

さらに、原子や分子よりも大きい「塵 (チリ)」になると被害は顕著になります。科学者の試算によると、チリが衝突すると表面から1.5ミリメートルの部分が蒸発で吹き飛ばされ、溶融は10ミリメートル程度にまで達するとのこと。さらにチリの大きさが増すと被害は大きなものになり、直径が15ミクロン(0.015ミリメートル)ほどのチリが衝突するだけで、探査機は粉々に破壊されてしまうと見られています。ただし、チリが探査機に衝突する確率は非常に低く、10の50乗分の1の確率と見積もられてはいますが、20年にもわたる宇宙の旅では何が起こっても不思議ではないと考えるべきなのかもしれません。

By Joe

これらの問題を解決するために、いくつかの策も考えられています。そのひとつが、探査機そのものの直径を小さくすること(=前方投影面積を小さくすること)で衝突のリスクを下げたうえで、防護材で前面を覆う方法。さらに、形状を砲弾型にすることで衝突が起きた際にもうまく衝撃を逸らす構造にすることも考えられますが、これは機体そのものはもちろん、推力を受ける帆の部分までをも小さくする必要があります。帆は推力を生むための重要な構造物であるうえに、地球との通信を行うアンテナの役目も果たすようになっているため、小型化には限界が存在。そのため、機体の小型化による衝突回避策には、一定の限界が存在することになりそう。

また、衝突時の熱による問題を回避するために、研究チームは機体の構造に「グラファイト」の層を追加する手段も検討しています。グラファイトは熱を効果的に分散することができ、シリコンウエハーむき出しの状態よりも良好な熱対策を施すことができるようです。


なお、熱問題以外にも、衝突によって生じるモメンタム(運動量)の変化も無視できないポイントとのこと。蒸発によって生じたガスは探査機を押し戻そうとする力を生みます。この力が繰り返し加えられることで、探査機が減速したり、所定のコースから逸れて目的地に到達できなくなってしまったりする可能性も無視することはできません。

このように、人類初となる壮大な計画には、一方で解決しなければならない問題が立ちはだかっていることも事実である模様。とはいえ、科学は困難への挑戦の歴史であったわけで、この問題を解決できる可能性を信じて取り組みを続けることで、問題がクリアされることを期待したいところです。

By Ars Electronica Center

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in サイエンス,   動画, Posted by darkhorse_log