サイエンス

紙おむつにも使われる吸水材で細胞を膨らませて観察する「膨張顕微鏡法」とは?


顕微鏡で細胞を詳しく見たいなら、より高性能で高価な装置が必要というイメージをくつがえすのが「膨張顕微鏡法(Expansion Microscopy)」です。紙おむつにも使われる吸水材を応用して細胞や微生物の試料を大きくすることで、普通の顕微鏡でも細かい構造を見やすくする膨張顕微鏡法について、科学系ニュースサイトのQuanta Magazineが微生物研究での広がりや活用例をまとめています。

Expansion Microscopy Has Transformed How We See the Cellular World | Quanta Magazine
https://www.quantamagazine.org/expansion-microscopy-has-transformed-how-we-see-the-cellular-world-20260204/

膨張顕微鏡法 - Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%86%A8%E5%BC%B5%E9%A1%95%E5%BE%AE%E9%8F%A1%E6%B3%95

2015年にMITのエド・ボイデン氏らが開発した膨張顕微鏡法は、観察したい試料の中に水を吸って膨らむゲル状の材料を行き渡らせて、試料を物理的に拡大してから観察する手法です。見たい構造の位置関係を保てるように目印をゲル側につないだうえで水を吸わせると、もともと近すぎて見分けにくかった構造同士の距離が広がるため、通常の顕微鏡でも細かい違いを見分けやすくなります。試料を膨らませる材料には、紙おむつにも使われる吸水材のアクリル酸ナトリウムが使われます。


この手法の特徴は高価な超高性能顕微鏡がなくても、試料の準備を工夫することで見え方を改善できる場合がある点だとQuanta Magazineは説明しており、ジュネーブ大学のオマヤ・デュダン氏は膨張顕微鏡法を「低コストで習得しやすく、安価な顕微鏡でもより良い画像が得られる手法」だと評価しています。

デュダン氏はかたい細胞壁を持つ対象の内部構造を可視化するために、抗体を細胞内に通して特定のタンパク質を染め分ける作業に長年苦労していたとのことです。以前は凍結と解凍を組み合わせた複雑な処理で対応していたものの、最終的に使える試料は多くなかったそうですが、隣の研究室との共同研究の際に膨張顕微鏡法を試したところ試料が膨張した状態でうまく染色され、観察が一気に進んだといいます。


欧州分子生物学研究所のゴータム・デイ氏の研究室でも膨張顕微鏡法はうまく機能しました。細胞の中の構造がより見やすくなったほか、染料や抗体も入りやすくなったそうです。これを受けて、デュダン氏の研究室とデイ氏の研究室は共同で多様な微生物を調べるようになり、これまで見えにくかった細胞骨格構造の違いを比べやすくなったとされています。

下の画像はデュダン氏の研究室が膨張顕微鏡法で最初に撮像した、1つの細胞内に複数の核を持つ原生生物「Sphaeroforma arctica」です。上の2つの細胞は核分裂を行っている段階で、下の細胞は核分裂の後期で核が再び成長段階へ移行している段階とのこと。


捕食性の繊毛虫(せんもうちゅう)である「ラクリマリア」は微小管の渦からできた摂食構造を持っており、管状構造をすばやく伸ばして逃げる獲物を捕まえることができるそうです。


下の画像は主に海洋環境で見られる2本のべん毛を持つ単細胞の光合成藻類「リノモナス」です。デュダン氏とデイ氏は膨張顕微鏡法によってさまざまな予想外の構造を観察できるようになったそうで、規則的に並んだ配列を縁取るように特殊なタンパク質「セントリン」が現れる様子は、リノモナスの系統ではこれまで報告されていなかったとのこと。


珪藻は「被殻」と呼ばれるガラス殻に覆われているため、特に撮像が難しいそうです。デイ氏の研究室は「試料を膨張させてから、そのタンパク質に蛍光抗体で目印を付け、さらに急速凍結によって全体をその場に固定する」という別の膨張顕微鏡法プロトコルを使って以下の画像を撮像したとのこと。


試料をきれいに膨張させるための前処理にはコツがあり対象によっては条件の調整が必要になる場合があるとしつつも、Quanta Magazineは装置の性能だけに頼らず試料を膨らませるという発想で見える世界を広げられる点を大きな意義として位置づけています。

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in ハードウェア,   サイエンス,   生き物, Posted by log1b_ok

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