サイエンス

男女の性欲格差を縮めるには女性の性欲を高めようとするのではなく「快楽格差」を縮めるべきだとの指摘


女性は男性より性欲が低いと考えられがちですが、性欲の男女差には若い頃の性体験が関係している可能性があると専門家が指摘しています。

Least Equal When Most Teachable: The Biodevelopmental Learning Opportunities and Outcomes Model of Gender Differences in Sexuality
https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/10888683251391836

Learned, not broken: Why we need to fix the pleasure gap, not women’s libido
https://theconversation.com/learned-not-broken-why-we-need-to-fix-the-pleasure-gap-not-womens-libido-289179


トロント大学の心理学者であるエミリー・インペット氏とダイアナ・ペラジーン氏によると、若者がセックスをする頻度は以前の世代の約半分に減っているとのこと。ところが、セックスの頻度を増やすために提案される対策の多くは女性の性欲を高めることに焦点を当てています。これでは女性の性欲が理由もなく壊れ、修理が必要になったかのように扱われてしまうとインペット氏らは批判しています。

女性の性欲が男性より低いのは進化やホルモンに由来する生物学的な違いだという説明が長年受け入れられてきました。これに対しインペット氏らは、性欲の男女差は成人になってから生じるのではなく、若い頃の性体験を通じて形作られる可能性があると論じています。人は若い頃の性体験から「セックスは楽しいものなのか」「誰の快楽が重視されるのか」を学び、そこで形作られたセックスへの印象が後の性欲に関わるという考えです。


インペット氏らが特に重視するのは思春期です。思春期の脳は楽しいことや心地よいこと、同年代の人とのつながりに敏感です。この時期にどのような性体験をしたかによって、その後セックスに安心感や自信、関心を持てるかどうかが長期的に左右される可能性があります。特に、相手との親密さや十分なコミュニケーションがあり、快楽も得られる体験だったかどうかが重要だとのこと。

しかし、異性との初めての性体験を男女で比べた北米やヨーロッパの研究では、若い女性は若い男性よりも痛みを感じやすく快楽を得にくいことが報告されています。また、女性は初体験に対して肯定的な気持ちと否定的な気持ちの両方を抱きやすいとのこと。初体験でオーガズムに達した女性は10人に1人未満で、男女の「オーガズム格差」は成人後の性体験で見られる格差よりもはるかに大きくなっていました。


ペラジーン氏らが2022年に発表した研究では、カナダの18歳~25歳の異性愛者の男女838人にパートナーとの初めての性交を振り返って回答してもらった結果、初体験でオーガズムに達した割合は女性が8.2%、男性が69.5%で、初体験に満足した割合は女性が21.0%、男性が45.1%でした。

現在の「パートナーとセックスしたい」という気持ちの強さを比べると、初体験でオーガズムに達した女性は男性と同程度でした。これに対し初体験でオーガズムに達しなかった女性は、オーガズムに達した女性と男性のどちらよりも性欲が低くなっていました。男性では、初体験でオーガズムに達したかどうかによる現在の性欲の違いは見られませんでした。研究チームは、性欲の男女差には性別そのものよりも、初期の性体験で快楽を得られたかどうかが関わっている可能性があると述べています。

思春期は性体験で得た快楽と「また経験したい」という欲求が結び付く時期だとインペット氏らは説明しています。この時期に若い女性が「セックスは楽しむものではなく耐えるものだ」と学べば、体験によって形作られた性欲の違いが、やがて生まれつきの男女差に見えてしまうとのこと。一方、若者がセックスを互いの体や好みを知る機会と捉え、何が気持ちいいかを安心して伝えられるなら、快楽格差だけでなく性欲の男女差も小さくなると述べています。

また、女性同士の性体験では、女性が男性と持つ性体験に比べて互いの体を刺激する行為が多く女性の満足度も高いことが報告されています。インペット氏らはパートナーが男性か女性かではなく、双方の快楽が同じように重視されているかどうかが女性の快楽を左右すると説明しています。


インペット氏らは、女性は若い頃から矛盾するメッセージにさらされていると指摘しています。例えば、「性的に魅力的であることは求められるが、自分からセックスを求めてはいけない」「セックスには応じても、自分の快楽を求めすぎてはいけない」「不快でも黙って耐えるべきだ」といったものです。

その一方で男性は「セックスには相手の同意が必要だ」と学んでも「双方が同じように快楽を得る必要がある」とは学ばないため、男性がオーガズムに達した時点でセックスは終わるものだと考えやすくなるとのこと。女性の性欲の低さを個人の問題だとみなして薬や器具などで性欲を高めようとするだけでは、問題の全体像を見落としてしまうとインペット氏らは述べています。

インペット氏らは、成人後も経験によって性欲が増減する可能性があるとして、過去の性体験は変えられなくても現在の人間関係や、社会が性について発するメッセージ、若者が親密な関係について学ぶ環境は変えられると説明しています。

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in サイエンス, Posted by log1b_ok

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