スーパーヒーローになりきる人は善人であろうとする傾向がある
映画や漫画、アニメの世界では、世界を救うために超自然的な能力を持つスーパーヒーローが日々戦っています。そんなスーパーヒーローを見たり、スーパーヒーローのような体験や振る舞いをしたりするだけで、人は他人のために行動しようとすることを示す実験結果がこれまでに発表されています。
Superhero cosplay makes you a better person for one science-backed reason
https://www.inverse.com/mind-body/superhero-cosplay-scientific-benefits
2018年に発表された論文では、女性110人・男性136人の計246人を対象に行われた実験が報告されています。この実験では全体の半分に当たる123人をスーパーマンのポスターが貼られた部屋で待機させ、残り半分の被験者を自転車のポスターが貼られた部屋で待機させました。その後、研究チームは被験者に周囲の環境を文章で説明させた上で、「このまま部屋に残って別の研究に協力してくれますか?」と質問しました。
その結果、スーパーマンのポスターが貼られた部屋で待機した被験者群は91%が研究への協力を申し出たのに対して、自転車のポスターが貼られた部屋で待機した被験者群で研究への協力を申し出たのは75%だったそうです。この結果から、研究チームは「スーパーヒーローを見ただけでも、人を助けたいという気持ちに影響を与える可能性がある」と論じています。
2013年には、仮想現実(VR)を利用した実験が行われました。この実験では30人前後の被験者の半分はVR空間の中でスーパーマンのように空を飛ぶことができました。そして、もう半分の被験者はヘリコプターに乗るバーチャル体験で、空を飛び回ることができました。そして、研究チームは被験者がVRヘッドセットを取り外す際にわざとコップを倒し、5秒間で被験者がどう反応するかを調査しました。
その結果、コップを拾わなかった6人はいずれもヘリコプターの体験をした被験者でした。また、スーパーマンのように空を飛ぶ体験をした被験者は、ヘリコプターの被験者よりも素早く反応し、コップを拾い上げたそうです。
心理学者のジョナサン・ハイト氏は、徳の高い行為や道徳的な美しさなど、ヒロイックな要素が人の「高揚感」を引き起こすと述べ、高揚感がより徳の高い行動を取る動機になると解説しています。また、臨床心理学者であるロビン・ローゼンバーグ氏は、VRで空を飛ぶことによって、スーパーヒーロー、特にスーパーマンに関する概念やステレオタイプが促進され、現実世界で人を助けようとする気持ちにつながると述べています。また、ローゼンバーグ氏は「スーパーヒーローを連想することが、被験者のアイデンティティを『他人を助ける人』にシフトさせるのかもしれません」と答えました。
この「道徳的な内容と高揚感の関連」の背景には生理的なメカニズムが存在することを示唆する研究も存在します。2008年に行われた実験では、母乳育児中の女性に「道徳的な内容の映像」を見せた場合、「楽しいコメディ映像」を見せた場合に比べて乳児を守ろうとする意志が強くなり、抱きしめる可能性がわずかに高くなったことがわかりました。同時に、道徳観念が高揚する映像を見た女性は社会行動に関与するホルモン「オキシトシン」の放出量が上昇し、研究チームが道徳観念の高揚と関連している可能性を指摘しています。
コスプレイヤーで作家でもあるルーシー・サクソン氏は「私はキャプテン・アメリカのコスプレをすると、まるで別人になったように感じます。コスチュームを脱いだ後も、強くなったような気分のままであるように感じます。スーパーヒーローは、人々に力を与え、不可能だと思れるようなことを実行できるようなもう1つの姿を与えてくれる存在です。コスプレは、そのスーパーヒーローの力を探究するもう1つの方法なのです」とコメントしました。
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