サイエンス

メスのハエをゾンビ化させた上にオスに「屍姦」させる恐怖の寄生菌の習性が明らかに


昆虫に寄生する菌類の中には、アリの脳を操って宿主の都合がいい場所で死なせるものや、ハエを生きた胞子散布ドローンにしてしまうものがあることが知られています。新たな研究により、ハエカビと呼ばれるハエの寄生菌には、感染したメスの死骸からオスを誘惑するフェロモンを出して交尾させ、濃厚に接触させることでより確実に感染を広げる能力があることが判明しました。

A pathogenic fungus uses volatiles to entice male flies into fatal matings with infected female cadavers | bioRxiv
https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2021.10.21.465334v1.full

'Zombie' fungus turns insects into necrophiles using potent compounds | Daily Mail Online
https://www.dailymail.co.uk/sciencetech/article-10164437/Zombie-fungus-turns-insects-necrophiles-using-potent-compounds.html

デンマーク・コペンハーゲン大学の化学生態学者であるAndreas Naundrup氏らの研究チームは、プレプリントサーバーのbioRxivで公開された査読前の論文の中で、「Entomophthora muscae(ハエカビ)」という菌に注目した研究を発表しました。なお、「Entomophthora」は昆虫を意味する「entomo」と破壊者を意味する「phthora」から作られた言葉で、「muscae」はハエのことを指すとのこと。

by Hans Hillewaert

以前から、ハエカビには感染したハエが木の枝先などに登って死ぬ「頂上病(summit disease)」という行動を誘発する能力があることが分かっていました。これは、できるだけ高い場所で死なせることで、死骸から発生した胞子を広範囲に散布させるためだと推測されています。

このハエカビの感染が拡大するメカニズムを調べていたNaundrup氏らの研究チームは、まず健康なオスのイエバエに「ハエカビに感染したメスの死骸」と「感染していないメスの死骸」を与えて、その行動を観察しました。その結果、オスのハエがハエカビに感染したメスの死骸と交尾しようとした回数は、そうでないメスの死骸に比べて有意に多かったことが判明しました。さらに、メスの死骸が「感染初期に死んだ個体」か「感染後期に死んだ個体か」に着目して集計したところ、感染後しばらく経過したメスの死骸ほどオスから人気だったことも分かっています。

以下のうち、上の2枚はハエカビに感染したメスの死骸と交尾しようとしているオスの写真で、左下は胞子とメスの死骸を食べようとしているオスの写真です。また、右下のメスの死骸と接触した後で毛づくろいしているオスの写真には、オスの腹部や脚部に胞子がしっかり付着しているのが写っています。


研究チームは実験結果について、「オスのハエはハエカビに感染したメスの死骸に引きつけられ、求愛や交尾を行います。これにより感染の確率が大幅に増加し、より確実に感染が拡大します」「分生子柄の成熟が進む感染後期に濃密な物理的接触が発生すると、感染初期に比べて感染の確率が高くなります」と説明しています。実際に、感染初期のメスに接触したオスがハエカビに感染した確率は15%しかなかったのに対し、感染後期では73%もあったとのこと。

ハエのオスがハエカビに感染したメスの死骸に引きつけられることを確かめた研究チームは、次にガスクロマトグラフィー質量分析法を用いて、感染したメスの死骸から放たれる化学物質を調べました。

その結果、ハエカビに感染したメスの死骸からは、セスキテルペンを含む揮発性の化学物質が放出されていることが確認されました。セスキテルペンは、これまでハチなどを引きつけることが知られていましたが、ハエとの関係性は分かっていなかったそうです。

研究チームは、論文の中で「イエバエは100種類以上の病気を媒介するので、不衛生な環境などイエバエの数を減らすことが重要な場面も想定されます。今回得られた知見は、こうした状況での害虫駆除に利用できる誘引物質やフェロモンの開発につながる可能性があります」と述べました。

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in サイエンス,   生き物, Posted by log1l_ks

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