文学賞はどのような仕組みで決まるのか?ピューリッツァー賞審査員が文学賞の裏側を語る

イギリスの児童文学賞「カーネギー賞」の受賞やアメリカの「ピューリッツァー賞」最終候補選出などの経歴を持つ小説家のレベッカ・マカーイ氏が、「文学賞はあなたが考えているような仕組みではない」というブログで文学賞の審査の舞台裏を明かしています。
Book Prizes Don't Work How You Think - by Rebecca Makkai
https://rebeccamakkai.substack.com/p/book-prizes-dont-work-how-you-think
マカーイ氏によると、作家や読者は賞の審査プロセスがどのように行われるかについて、大きな誤解を抱いている傾向があるとのこと。そのためマカーイ氏は、過去8年間でピューリッツァー賞を含む6つの文学賞の審査員を務めた経験から、いくつかの誤解を解消したいと述べています。
まず誤解されがちな点として、文学賞の審査はほとんどの場合、賞を運営する団体が受賞作品を決めているのではなく、「作家、批評家、書店員など数人の審査員」によって行われます。文学賞を主催するのは団体であることが多いですが、応募資格を満たしているか確認する責任のみを負うため、どの作品を受賞させるかという判断には基本的に関与しません。そのため、「この賞はこういう作品を好む」といったイメージや過去のデータは必ずしも当てはまらないとマカーイ氏は述べています。
また、「審査員は応募されたすべての本を最初から最後まで読んでいる」という認識も実態とは異なるとマカーイ氏は指摘しました。マカーイ氏が過去に審査員を務めた賞では、約半年で数百冊の本を読むことを求められたこともあり、「すべての審査員がすべての本に目を通すことはできない」「審査員は、気に入らない本を見つけたら、途中で読むのをやめることが認められている」という2点を審査の実態だとマカーイ氏は明かしています。

さらに、最初の読書段階ではたいてい1人の目で本を見るだけなので、次の段階に進むかどうかは、たった1人の好みに左右されることがあります。マカーイ氏は「自分はその本をそこまで気に入らなかったけれど、気に入る審査員がいるかもしれない」という理由で他の審査員に渡すこともあり、実際にそうした本が賞の最終候補に残ったこともあるそうですが、その後ほかの審査員へ回すかどうかは、最初に読んだ審査員の判断に委ねられるケースもあります。中には、審査員の1人が十分な量を読まず、他の審査員がその不足分を補いきれなかったために、提出された書籍がほとんど審査されなかった審査委員会の話もマカーイ氏は耳にしたことがあるとのこと。
近年は文学賞における多様性も議論になりますが、マカーイ氏は「特定の属性を理由に受賞作を決めているわけではない」と述べています。審査ではあくまでも作品そのものを評価した上で、最後の段階で候補作全体に無意識の偏りがなかったかを確認する程度にとどまっているそうです。また出版者が応募する形式の場合、優れた作品であっても出版社が応募し忘れたり締め切りを遅れたりしたことで審査の対象にならなかったケースや、逆に賞の趣旨に合わない作品が応募されることも珍しくないとマカーイ氏は述べています。

ただし、ピューリッツァー賞だけは少し仕組みが異なります。ピューリッツァー賞では5人の作家と批評家からなる審査団員が3作の最終候補作品を選出しますが、審査員が受賞作を直接決めるのではなく、選出した作品をコロンビア大学の「ピューリッツァー賞委員会」に送ります。この委員会は主にジャーナリストで構成された中に詩人や小説家などが数名加わり、最終候補作をすべて読み終えた後、コロンビア大学のキャンパスで2日間会合を開いてあらゆる分野の最終決定を下すという流れです。
選考委員会が審査員のノミネートに不満がある場合は、事務局長に委員長と協議して他にふさわしい作品があるかどうかを確認するよう依頼することもできます。そのため、審査員自身も自分たちが推薦した作品のうちどれが受賞するのかを知らないこともあります。また、ほとんどの賞では審査員の身元が公表されているのに対し、ピューリッツァー賞の各部門の審査員は、受賞者が発表されるまで秘密にされます。
マカーイ氏は、文学賞は多くの偶然や制約の中で運営されているとしつつも、そのプロセスは想像以上に純粋だとしています。縁故により作品が選ばれるということはなく、逆に一度何かの審査で選ばれなかったからといってその後不利になることもありません。「出版業界に冷遇などというものは存在しません」とマカーイ氏は述べています。マカーイ氏は多くの審査員を務めたことで疲弊したほか、文学界が1人の意見であふれるべきではないとして文学賞の審査員はしばらく辞めるつもりだと話していますが、文学賞審査は執筆において自分にとって何が最も重要なのかを明確に表現できるようになる意味でも価値のあることだと語りました。
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