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100億円超が投じられるも頓挫した「アルコール飲用に関する大規模研究」は何が問題だったのか?


アルコールは健康に害をもたらすというのはもはや常識ですが、「酒は百薬の長」ということわざがあるように、適量のアルコールが健康に良い影響をもたらすという研究結果も存在します。4年という歳月と1億ドル(約110億円)もの資金を投じて行われた「アルコールを毎日飲み続けたらどうなるのか」という大規模な臨床試験が頓挫した一件について、ブロガーのdynomight氏が「何が本当の問題なのか」を解説しています。

The big alcohol study that didn't happen: My primal scream of rage
https://dynomight.net/alcohol-trial/

アルコールは世界各国で愛されている飲料ですが、肝臓病・すい臓病・循環器疾患・口腔(こうくう)がん・咽頭がん・喉頭がん・食道がん・肝臓がん・大腸がん・各種消化管疾患・肝炎・痛風・糖尿病・高脂血症などのさまざまな病気に加えて、うつや自殺などに関連していることがわかっています。

アルコールによる健康障害 | Alcohols | e-ヘルスネット(厚生労働省)
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/alcohol-summaries/a-01


ではアルコールは100%体に悪いのかというとそうではなく、「男性ならば2杯、女性ならば1杯までなら心臓関連死のリスクが20%減る」「少量のアルコールは血圧を一時的に低下させる効果がある」という研究結果が存在しており、少量ならば特定の健康面に限り良い影響を与えるという見解も存在します。

こうしたアルコールを巡る科学的論争の中、アメリカ国内の公的な医学的研究を統括するアメリカ国立衛生研究所(NIH)傘下のアルコールを専門とする研究機関、国立アルコール乱用・依存症研究所(NIAAA)が2014年に予算1億ドルと10年の歳月をかけて「アルコールを毎日飲み続けたらどうなるのか」を調べる大規模研究を開始しました。

この実験は約4年にわたって続けられましたが、アメリカ大手紙のThe New York Timesの報道によって巻き起こったのが「アルコール業界に便宜を図った疑い」でした。この研究は前述のように巨額の予算を要する物でしたが、その半分以上にあたる6770万ドル(約70億円)がアンハイザー・ブッシュ・インベブ、ハイネケン、ディアジオ、ペルノ・リカール、カールスバーグという酒類会社5社から拠出されたものだったことが判明。NIHの設けている「寄付金・支援金などの募集・提案を禁じる」という規則に違反していたとして、大きな問題となりました。

アルコールに関する研究をしている科学者に対してアルコール飲料業界が資金の便宜を図った疑い - GIGAZINE


事件発覚後に行われた調査によって、研究に関わった人物がアルコール業界の従業員や外部の科学者、アルコールに関する研究機関の人物と頻繁にメールでやりとりしていた事実が確認されたため、実施中の大規模研究は打ち切りとなり、総予算1億ドルをかけて行われるはずだったプロジェクトは水泡に帰しました。

今回ブロガーのdynomight氏が解説しているのは、この大規模研究の発足から打ち切りに至るまでに存在した問題点の数々です。試験開始前にNIAAA職員がアルコール業界に送信したメールによると、この大規模研究は「適度な飲酒が安全なことを示す重要な研究結果が存在します」「アルコール業界から資金提供を受け取るものの、アルコール業界と研究チームの間のやりとりは一切行わないので、業界との癒着に当たる心配はありません」という触れ込みでした。


これについてdynomight氏が主張しているのが、これについてdynomight氏は「資金提供を受けたなら影響がないというのはあり得ない」「資金提供を受けたなら明言すべき」と主張しています。dynomight氏は、業界側が資金を引き揚げると圧力をかけることがあり得るため、研究チームが直接やりとりをしなくても影響は避けられないと主張。「個人的には利害関係者から資金提供を受けて行われた研究も受け入れられる」としながらも、資金提供があったこと踏まえて研究結果を吟味するためには、資金提供の有無が明言されている必要があると指摘しました。

また、dynomight氏は報道のあり方にも問題があると語っています。例えば偽造品や有害物質の混入が特に多いとされるサプリメント業界では、消費者は質の高いサプリメントを求めているため、サプリメント販売会社が独立機関に資金提供を行って安全性を調べてもらおうとするのは販売会社側にとっても消費者側にとっても有益です。


一方で、一連の問題の発端となったThe New York Timesの報道は、研究がアルコール業界から資金提供を受けていることと、問題の研究と関わりがある人物の見解に終始しており、資金提供は絶対悪だという結論ありきの「ジャーナリズムを装った社説」だったとのこと。こうしたことから、dynomight氏は「The New York Timesがこの一件を取り上げて研究の問題点を明らかにしてくれたのは喜ばしいと言えますが、業界から資金提供を受ける業界からの資金提供の問題は、少なくとも原理的には克服可能であるという前提に立った論調であるべきだったと思います」とコメントしています。

加えて、dynomight氏は事件発覚後のアルコール業界とNIHの対応にも落ち度があったと主張しています。dynomight氏によると、The New York Timesの報道が出た段階でアルコール業界は問題が生じたことを認識したはずですが、何も手を打たなかったとのこと。またNIHも、最低400万ドル(約4億4000万円)の税金がつぎ込まれていたにもかかわらず、「問題に関連した3人を解雇した」と述べただけで、何一つ再発防止策を講じる兆候はないそうです。

こうした点から、dynomight氏は「あらゆる点に腹が立つ」と見解を述べています。

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in メモ, Posted by darkhorse_log

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