サイエンス

リモートワークの従業員を「月に1日」だけ出社させるとどうなるのか?


2020年に発生した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックに伴い、さまざまな企業でリモートワークが導入され、一部の企業ではパンデミックの終息後もリモートワークが継続しています。全米経済研究所が発表した新たなワーキングペーパーでは、「完全リモートワークの従業員を月に1日だけ出社させるとどうなるのか」が検証されました。

The Value of One Office Day a Month | NBER
https://www.nber.org/papers/w35331

One office day a month? A remote-work experiment finds surprisingly large gains
https://www.scienceofmoney.org/one-office-day-a-month-a-remote-work-experiment-finds-surprisingly-large-gains-1014/

パンデミック中には主にIT業界を中心に、オフィス勤務からリモートワークへ移行する動きが進みました。しかし一部の企業では、「リモートワークは生産性や士気が下がる」といった理由でオフィス勤務への回帰を進めています。


研究チームはトルコの大手アウトソーシング企業と協力し、通信会社の顧客からの電話に対応するカスタマーサービス担当者を対象に、9カ月間にわたる無作為化(ランダム化)比較試験を行いました。同社は2020年以来リモートワークを基本としていましたが、管理職からは「チームの結束力の低下」「コーチングの減少」「人材定着率の低迷」といった問題が報告されていたとのこと。そこで研究者らは、リモートワークの利点を損なわない程度に対面で交流することが、こうした問題を解消できるのかどうかを調査しました。

実験には、希望者のうち勤続年数やオフィスからの通勤距離などを考慮して選ばれた248人が参加し、124人ずつ2つのグループに分けられました。1つのグループは引き続き完全リモートワークを行い、もう1つのグループは2024年8月~2025年4月にかけて「月に1日、決まった日に出社すること」が義務づけられました。

一連の実験では月に1日出社する以外の、給与・労働時間・業務量・業務用ツール・インセンティブ・研修といった点に変更はありませんでした。対象者は会社のシャトルバスでオフィスに通勤し、普段通りの勤務時間にいつも使っているノートPCを使用して仕事を行い、同僚と食事やコーヒーブレイクをともにしました。なお、実験期間中の対象者の出社率は約95%だったとのこと。


従業員の主な生産性指標として用いられた「1時間あたりの通話処理件数」を比較したところ、実験開始前は両グループとも1時間あたり平均10.8件であり、実験開始から数カ月間は変化がありませんでした。ところが実験開始から6~9カ月が経過すると、出勤するグループの生産性が徐々に上昇し始めたとのこと。実験終了時には、完全リモートワークの就業員における平均処理件数は平均11.5件だったのに対し、月1日だけ出勤する従業員では平均12.4件となりました。

出社するグループの平均通話時間は実験開始前より短縮された一方で、事務作業や電話の保留、休憩などに費やす時間はほとんど変化していませんでした。また、顧客満足度や内部監査スコアも横ばいであり、処理速度の向上はサービス品質の低下を引き起こさなかったと報告されています。

グループ単位での生産性の向上には、従業員1人あたりの生産性が向上したことに加え、優秀な人材が離職しにくかったことが影響していると考えられます。また、成果が出社日の導入後すぐではなく徐々に積み重なっていったことから、単なる目新しさや一時的な士気の高まりが原因ではないことが示唆されています。

続いて研究チームは、実験期間が終了した時点で、従業員のコミュニケーションにどのような変化が生じたのかも調査しました。その結果、出社グループに割り当てられた従業員はそうでない従業員と比較して、「最も頻繁に連絡する3人の同僚」とのコミュニケーションに費やす時間が週あたり36分多いことが判明しました。また、出社する際にランダムで配置された座席位置に基づいて分析したところ、「たまたま隣同士の席になった相手」との交流が増えることも確認されました。

さらに、出社グループの従業員は職場環境についてのアンケートに対し、「上司から定期的にフィードバックを受けている」「チーム内のコミュニケーションがうまくいっている」「会社の文化に馴染んでいると感じている」と回答する傾向が有意に高かったとのこと。一方で、生活満足度やワークライフバランスといったより広範な幸福度に関する指標では、統計的に有意な介入効果は認められませんでした。


月1日出社の注目するべき成果のひとつに、従業員の定着率の向上が挙げられます。実験期間中、完全リモートワークのグループでは累積離職率が21%に達したのに対し、月1日出社のグループではわずか13.7%にとどまりました。この差は最終出社日の後も続いており、単に「次にあの人と会うまで離職しないでおこう」という心理による遅延ではないことが示唆されています。

さらに退職者を調べてみると、完全リモートワークのグループでは、退職した従業員の方が残った従業員より生産性がやや高かったとのこと。一方で月1日出社のグループで離職した従業員は、残った従業員の方が著しく生産性が高かったと報告されています。研究チームはこの結果について、月1日の対面接触によって管理職が優秀な人材を特定しやすくなり、引き留めるのに役立ったのではないかと考えているそうです。

費用対効果の分析では、従業員124人の月1日出社にかかった交通費・飲食費・オフィススペース代といった費用は、9カ月間で約1万3000ドル(約208万円)に達しました。一方、離職率の低下によって推定9件の離職を止められたため、約6400ドル(約102万円)のコスト削減につながったほか、生産性の向上を人件費換算すると約6万300ドル(約963万円)となりました。これらを合計すると、月1日出社によるコスト削減はかかった費用のおよそ5倍に相当しており、費用対効果は十分なことがうかがえます。

なお、今回の研究は高度に標準化されたインバウンド顧客サービス業務という環境で実施されたものであり、従業員間の業務内容は均一でした。そのため、より自由度の高い労働やリモートワーク導入の経緯が異なる企業でも同じ効果が出るのかを知るには、さらなる研究が必要だとのことです。

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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