サイエンス

蚊に砂糖水を飲ませて「ウイルスに対抗する免疫力」を強化することで感染症の媒介を防げるかもしれない

by jentavery

蚊はマラリアをはじめとするさまざまな感染症を媒介するため、科学者らは蚊を撲滅する方法について研究しており、「子孫が繁殖できないように遺伝子組み換えした蚊を放つ」という実験も行われています。新たに、MRC・グラスゴー大学ウイルス研究センターが主導した研究により、「蚊に砂糖水を飲ませると感染症の媒介を抑えられる」ことが示唆されました。

Sugar feeding protects against arboviral infection by enhancing gut immunity in the mosquito vector Aedes aegypti
https://journals.plos.org/plospathogens/article?id=10.1371/journal.ppat.1009870

Sugar feeding may inhibit mosquitos' ability to get infected, transmit arboviruses
https://phys.org/news/2021-09-sugar-inhibit-mosquitos-ability-infected.html

蚊はマラリアやデング熱ジカ熱など時には人を死に至らしめる感染症を媒介するため、「人間を最も多く殺している動物」とも言われています。近年では遺伝子組み換え技術で「致死遺伝子」を組み込みんだオスの蚊を野生に放ち、子孫の繁殖を防ぐ試みも行われていますが、「人や生態系への影響があるのではないか」と懸念する声も上がっています。

そもそも、蚊が感染症を媒介するのは栄養源として動物の血を吸うからですが、蚊は常に血を主要な栄養源としているわけではなく、オスや繁殖期以外のメスはエネルギー源となる糖分を含んだ花の蜜や樹液を吸っています。既に食事は動物の免疫系と密接に関係していることが知られていますが、食事と免疫系の関係は主に人間やモデル生物で研究されており、感染症の媒介者となる蚊の免疫系と食事に関する研究は十分に調査されていないとのこと。

そこでMRC・グラスゴー大学ウイルス研究センターが率いる研究チームは、「さまざまな感染症を媒介することで知られるネッタイシマカが、感染症のウイルスを含んだ血液を吸う前に砂糖水を飲むとどうなるのか?」という実験を行いました。


まず、研究チームはネッタイシマカを「48時間砂糖水を飲んでいないグループ」と「1時間にわたり砂糖水を飲む機会を与えられたグループ」に分け、死んだネッタイシマカの消化管を調査しました。その結果、メスのネッタイシマカの消化管では、砂糖水を飲むことによって抗ウイルス遺伝子が発現することがわかりました。この反応は、砂糖を加水分解して得られるグルコースフルクトースによって促進されていたとのこと。

続いて研究チームは、「砂糖水を飲むことでネッタイシマカの免疫力が向上し、感染症にかかりにくくなるのではないか?」という仮説を立てて、新たな実験を行いました。研究チームは砂糖水を飲ませてから16時間後のネッタイシマカに、蚊の吸血によって脊椎動物に感染するアルボウイルスの一種・セムリキ森林ウイルスを含んだ血液を飲ませ、その後どれほど体内でウイルスが増殖するのかを確かめました。

その結果、砂糖水を飲んだメスのネッタイシマカでは、本来であればセムリキ森林ウイルスが増殖する腸内のウイルス量が、対照群のネッタイシマカより大幅に少ないことが判明しました。砂糖水を飲んだ後のネッタイシマカの体内でウイルスが増殖しにくくなる現象は、セムリキ森林ウイルスだけでなくジカウイルスでも確認されたとのことです。

by Sanofi Pasteur

今回の研究結果は、砂糖水を吸ったネッタイシマカでは腸内の免疫力が向上するため、ウイルスを含んだ血液を吸っても体内でウイルスが増殖せず、結果として感染症の媒介が抑えられることを示唆しています。ネッタイシマカのメスは一部の環境において栄養をほぼ動物の血液に頼っているため、砂糖の摂取量が低下して感染症の媒介が増加している可能性があるとのこと。

研究チームのEmilie Pondeville博士は、「私たちの調査結果は全体として、蚊の抗ウイルス免疫において砂糖の接種が重要な役割を果たすことと、それが人に重大な脅威をもたらすアルボウイルスが拡散する可能性を減らすことを明らかにしました」とコメント。今後、ウイルスの感染を減らすことを目的として、砂糖を用いた新たな戦略が開発される可能性があると主張しました。

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in サイエンス,   生き物, Posted by log1h_ik

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