100年以上前から知られていた植物が実は「食虫植物」だったことが判明、葉ではなく茎で虫を捕獲していた
by Danilo Lima
100年以上前から知られており、北アメリカの都市近郊にも広く生息しているオモダカ目チシマゼキショウ科のTriantha occidentalis(western false asphodel)という植物が、実は虫を捕獲して栄養分とする食虫植物であることをウィスコンシン大学マディソン校とブリティッシュコロンビア大学の研究チームが発見しました。Triantha occidentalisは特殊な葉を使って虫を捕らえる一般的な食虫植物とは違い、粘着性のある茎で小さな虫を捕獲しているとのことです。
A new carnivorous plant lineage (Triantha) with a unique sticky-inflorescence trap | PNAS
https://www.pnas.org/content/118/33/e2022724118
New carnivorous plant must balance trapping prey and being pollinated | EurekAlert!
https://www.eurekalert.org/news-releases/924735
A Common North American Plant Was Just Discovered to Be Secretly Carnivorous
https://www.sciencealert.com/a-new-carnivorous-plant-has-been-discovered-in-north-america
1st Carnivorous Plant Identified In 20 Years Grows Near Vancouver : NPR
https://www.npr.org/2021/08/09/1026091196/this-sweet-white-flower-is-actually-a-sneaky-carnivore-scientists-discovered
Triantha occidentalisは北アメリカ大陸の西海岸や内陸のモンタナ州などに広く分布する植物であり、主に沼地や湿地帯で育ちます。バンクーバーなどの主要都市からほど近い場所にも生えているTriantha occidentalisは、1879年に初めて科学文献に記載されましたが、これまで食虫植物であるとは考えられていませんでした。
ところが、ブリティッシュコロンビア大学の植物学者であるSean Graham教授らの研究チームは、植物遺伝学に関するプロファイルの作業中に、Triantha occidentalisの遺伝子に食虫植物でよく見られる変異があることを発見しました。この発見に加え、Triantha occidentalisが育つ場所は食虫植物が生育する条件を満たしている点や、茎に粘着性があって小さな虫が付着する点から、研究チームはTriantha occidentalisが食虫植物である可能性を考え始めたとのこと。
以下の写真で白い花を咲かせているのが、Triantha occidentalisです。太い茎は粘着性があり、ここに小さな虫がくっつくそうです。
by Danilo Lima
Triantha occidentalisが食虫植物かどうかを確かめるため、研究チームはミバエに窒素の安定同位体である窒素15を取り込ませ、Triantha occidentalisの茎に付着させる実験を行いました。その後、Triantha occidentalisに含まれている窒素を分析したところ、ミバエが取り込んだ窒素15が発見され、実際に虫からの栄養を取り込んでいることが確認されたとのこと。研究チームの推定によると、Triantha occidentalisは窒素の約64%を捕獲した虫から得ていたそうです。
また、研究チームはTriantha occidentalisの茎に生えている粘着性の毛が、ホスファターゼという消化酵素を分泌していることも発見。ホスファターゼはその他の食虫植物も使用している消化酵素であり、獲物のリン含有栄養素を分解するとのこと。
研究チームのQianshi Lin氏は、「この食虫植物のユニークな点は、虫によって花粉が媒介される花の近くで虫を捕まえることです」とコメント。通常、ハエトリグサなどの食虫植物は虫による花粉の媒介を妨げないように、花から遠い場所にトラップが存在します。
ところが、Triantha occidentalisは茎の粘着性が「花粉の媒介にそれほど有益でない小さな虫は捕まえられるが、花粉媒介者として機能するハチやチョウなど大きめの虫は捕まえられない」程度になっており、花粉を媒介しない虫だけを選別して捕らえることができるそうです。
by Qianshi Lin
オモダカ目に含まれる食虫植物が発見されたのはこれが初めてであり、Graham教授は「Triantha occidentalisが肉食性であるとは思いもしませんでした」と述べています。都市の近くにも生えている食虫植物が長年にわたり見過ごされてきたことから、他にも食虫植物であると気付かれていない植物が数多く存在する可能性があるとのこと。
今回の研究には関与していないハーバード大学の植物学者であるAaron Ellison氏は、今回の発見が「科学的思考の本当に素晴らしい連鎖」の結果であるとコメント。既知の食虫植物は特殊な葉を使って虫を捕らえるため、茎を利用して虫を捕らえるTriantha occidentalisの発見は「かなりの驚きです」と述べました。
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