花粉を媒介させるために「死んだ虫の臭い」を放出する植物が報告される
by Rupp, et al., Frontiers in Ecology and Evolution, 2021
いくつかの植物は花粉を媒介するために昆虫を利用しており、甘い蜜などをエサにしてミツバチやガなどをおびき寄せています。新たな研究により、甘い蜜ではなく「死んだ虫の臭い」を利用してハエをおびき寄せ、花粉を媒介させている植物が存在することが判明しました。
Frontiers | Flowers of Deceptive Aristolochia microstoma Are Pollinated by Phorid Flies and Emit Volatiles Known From Invertebrate Carrion | Ecology and Evolution
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fevo.2021.658441/full
First-of-its-kind flower smells like dead insects to imprison 'coffin flies'
https://phys.org/news/2021-05-first-of-its-kind-dead-insects-imprison-coffin.html
This Unique Flower Smells Like Dead Insects to Attract And Trap Coffin Flies
https://www.sciencealert.com/this-unique-flower-smells-like-dead-insects-to-attract-and-trap-flies
全ての花がバラのようないい香りを発しているわけではなく、中にはラフレシアのように「くみ取り便所の臭い」にたとえられる腐臭を発してハエをおびき寄せる植物も存在します。多くの植物は実際にミツバチやチョウのエサとなる蜜を持っていますが、ラフレシアはハエのエサとなる腐肉やふん便を有しているわけではないため、ハエはラフレシアにだまされていると言えます。顕花植物の4~6%はラフレシアと同様に「欺瞞(ぎまん)的な受粉戦略」を採用しており、香りや色などを用いて花粉を媒介する虫をおびき寄せているものの、虫が求める報酬を与えることはないとのこと。
by Sumeet Luktuke
そんな欺瞞的な受粉戦略を採用する植物の1つであるウマノスズクサ属(アリストロキア)には、熱帯や亜熱帯を中心に分布する550種以上が含まれています。ウマノスズクサ属は筒状の花の中におしべとめしべを持っており、虫を花の中におびき寄せて受粉させ、やがて虫を解放して再び受粉に利用します。
オーストリア・ザルツブルク大学の博士課程に在籍するThomas Rupp氏は、「多くのウマノスズクサ属は動物の腐肉やふん便、腐った植物、菌類などの香りでハエを引きつけることが知られています」とコメント。Rupp氏の研究チームはそんなウマノスズクサ属の中でも、ギリシャでのみ発見されている「Aristolochia microstoma」という種類に目を付けました。
Aristolochia microstomaの花は他のウマノスズクサ属と比較すると地味な褐色をしていることに加え、その花は落葉や岩の間といった地表近くでひっそりと咲きます。また、花は腐肉のような異臭を発しているそうで、これまでは地表付近に住むアリなどの節足動物が主な花粉媒介者であると考えられていました。
by Rupp, et al., Frontiers in Ecology and Evolution, 2021
そこでRupp氏の研究チームは、ギリシャの3カ所で合計で1457個ものAristolochia microstomaの花を収集し、その中に閉じ込められている動物の種類を分析しました。その結果、ムカデやトビムシなどの節足動物も花の中から見つかったものの、主な花粉媒介者は「Megaselia scalaris(クサビノミバエ)」と呼ばれるハエであることが判明したそうです。
クサビノミバエは「棺おけバエ」とも呼ばれており、腐敗した植物や動物の腐肉などに卵を産み付ける習性で知られています。研究チームがAristolochia microstomaの花が発する揮発性成分を分析したところ、強い硫黄などの臭いを発する物質に加え、全組成の8~47%がアルキルピラジンの一種である「2,5-ジメチルピラジン」という物質であることが判明しました。
2,5-ジメチルピラジンはローストピーナッツなどに典型的なカビ臭さの源となる物質であり、自然界ではげっ歯類の尿や腐った甲虫の死体などで発生するとのこと。この臭い物質を生成する植物はほとんど知られていませんでしたが、今回の研究結果から、Aristolochia microstomaがクサビノミバエを引きつけるために特殊な物質を利用していることが強く示唆されました。
ザルツブルク大学の植物生態学者であるStefan Dötterl氏は、「私たちの研究結果は、これが脊椎動物の腐肉ではなく死んだ虫のような臭いで花粉媒介者をだます、最初の既知の例であることを示しています」とコメント。Aristolochia microstomaの花が地面にほど近い場所で咲くのも、繁殖場所を探すクサビノミバエに対し、虫の死骸と誤認させる役に立っている可能性があるとのことです。
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