サイエンス

愛情ホルモンが「戦闘モード」を誘発している可能性が研究で判明


社会性生物は互いに協力する能力に優れていますが、ライバルの集団に遭遇した際は断固として反社会的な行動を取ることがあります。この行動に、「愛情ホルモン」という呼び方で知られる化学物質のオキシトシンが関与している可能性が示されました。

Us against them: oxytocin response to competition in a small-scale human society | Proceedings B | The Royal Society
https://royalsocietypublishing.org/rspb/article/293/2070/20260242/481564/Us-against-them-oxytocin-response-to-competition

Love hormone enters battle mode, exposing rivalry and group lines in Amazon study
https://phys.org/news/2026-05-hormone-mode-exposing-rivalry-group.html

体内でオキシトシンが増加すると、家族や仲間といった集団内の協力関係を高めると同時に、集団外に対する警戒心や攻撃性を高める可能性があることが知られています。過去の研究ではオキシトシンを点鼻スプレーで接種することが集団内の協力関係を高めることが分かっていましたが、集団外に対する警戒心や競争心が芽生えることでオキシトシンが自然に増加するかどうかは分かっていませんでした。


そこで、チューリッヒ大学のシャーロット・デブラ氏らは、特に強い民族的アイデンティティーを持つボリビアの先住民族・ツィマネ族を対象に、人の感情とオキシトシンの関係について詳しく調査しました。

ツィマネ族はアマゾン川流域に住む採集農耕民です。20世紀半ばまでボリビア社会全体からほぼ孤立していましたが、宣教師が到着し、道路が高地と繋がったことで、社会との繋がりが強くなりました。核家族や大家族を中心とした数十人から数百人規模の約95のコミュニティに分散しており、機械化された農業が出現する以前の自給自足生活を送っていた人々と比較的似た生活様式を維持しています。

コミュニティ内のつながりは強く、また異なるコミュニティ同士の戦争の歴史は記録されていません。今でも定期的にコミュニティ間で共同の宴会を開いたり、集団で狩猟や漁業、インフラ整備事業をしたりするほか、定期的にサッカーの試合を行っています。ツィマネ族の男性は平均して週に3.1回サッカーをし、週に1回は近隣のコミュニティ同士で試合を行うことがあるそうです。

そこで、デブラ氏らは研究に参加した90名のツィマネ族にサッカーをしてもらい、尿中のオキシトシン濃度を測定することにしました。デブラ氏らは異なる条件を設定するため、同じコミュニティの選手による試合、異なるコミュニティの選手による試合、そしてツィマネ族と非ツィマネ族の選手による試合の3パターンで測定しました。


その結果、ツィマネ族の男性は「同じコミュニティの選手による試合」および「ツィマネ族と非ツィマネ族の選手による試合」に参加することで、オキシトシン濃度が大きく上昇することが判明しました。逆に、「異なるコミュニティの選手による試合」に参加した男性のオキシトシン濃度はあまり上昇しませんでした。

同じコミュニティの選手による試合においてオキシトシン濃度が上昇したことについて、デブラ氏らは動物行動学における「Nasty neighbour effect(厄介な隣人効果)」という現象と結びつけています。この現象は、見知らぬ個体や遠くにいる縄張りの個体は脅威が少ないため注意を向けにくく、近くにいる見慣れた同種個体には自分の資源を奪う可能性があるため強い攻撃行動を示すというものです。

今回の調査において、チーム分けは主に家族を基準として行われました。同じ家系の人間と一緒に、同じコミュニティのよく知った人と試合をするという行為により、こうした現象と似たものが起こったのではないかとデブラ氏らは推測しています。特に、試合の賞品をめぐって競争が生じたほか、試合に勝つと他のコミュニティメンバーに地位を示せる可能性があったため、協力関係を高めようとオキシトシンの発生が促進されたのではないかと考えられています。


ツィマネ族と非ツィマネ族による試合は、異なる民族集団という完全な部外者との競争だったため、集団内の協力を促進するためにオキシトシンが発生した可能性があります。

近隣のツィマネ族との試合では、普段から対戦相手として競い合っているわけでもなく、かといって全くの他人でもないという関係でしたが、オキシトシン濃度の顕著な上昇は見られませんでした。このことについてデブラ氏らは「このレベルでの競争は、直接的な社会的地位や集団防衛にとってそれほど重要ではないと認識されていることを示唆しています」と考察しました。


今回の調査には女性も参加していましたが、女性はサッカーの試合後にオキシトシン濃度の上昇を示しませんでした。この結果は、男性は集団レベルの競争により敏感であるとする「男性戦士仮説」か、ツィマネ族の女性はもともとオキシトシン濃度が男性より高く、上昇幅が小さかったという結果で説明できる可能性があるとデブラ氏らは記しています。また、女性は男性ほど頻繁にサッカーをしないため、サッカーが女性にとって重要な意味を持たないという可能性も考えられるそうです。

この研究だけでは、オキシトシン濃度の上昇が主にチーム内の結束を促進するためなのか、それとも対戦相手との競争を促進するためなのかを判断することはできません。デブラ氏らは「協力は人生というゲームにおいて競争に勝つための有効な手段となり得ます。オキシトシンはこの関係に関与する重要な要素であるようです」と述べました。

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in サイエンス, Posted by log1p_kr

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