生き物

ハエトリグモが無脊椎動物として初めて「生物と無生物を識別する能力」を有していると確認される

By Daiju Azuma

ハエトリグモが「生物と無生物を識別する能力」を有しているという研究結果を、ハーバード大学の研究チームが発表しました。この能力はこれまで脊椎動物でしか確認されてこなかったことから、研究チームは「人類が考えている以上に、生物界では広く見られる能力かもしれない」と語っています。

Perception of biological motion by jumping spiders
https://journals.plos.org/plosbiology/article?id=10.1371/journal.pbio.3001172

A new spidey sense | EurekAlert! Science News
https://www.eurekalert.org/pub_releases/2021-07/hu-ans071521.php

Jumping Spiders Seem to Have a Cognitive Ability Only Previously Found in Vertebrates
https://www.sciencealert.com/jumping-spiders-seem-to-have-a-special-ability-only-seen-in-vertebrates

大半の生物の体は相互に連結された関節で構成されており、運動時に関節の位置は変化しますが、関節同士の距離は変化しません。この関節の動き方は「Biological motion(バイオロジカル・モーション)」と呼ばれ、人間などの脊椎動物の多くはバイオロジカル・モーションを用いて生物と無生物を視覚的に識別していると考えられています。

ドイツ・レーゲンスブルク大学のマッシモ・デ・アグロ氏率いる研究チームが行った実験は、北半球の広域に分布するごく一般的なクモであるハエトリグモの一種Menemerus semilimbatusがバイオロジカル・モーションを認識する能力を有しているかを調べるというもの。研究チームは60匹のMenemerus semilimbatusを対象として、バイオロジカル・モーションの実験によく用いられる「生物のように動く点の集合」をみせ、識別能力の有無を調べました。

バイオロジカル・モーションの実験に用いられる「生物のように動く点の集合」の実例が以下。以下は人間の顔面や関節などに設置したライトの動きだけを抽出したもので、このライトの動きだけで「動いている人間」を想像する能力が人間には備わっています。

Walking Dots - YouTube


今回の研究対象はクモであるため、「クモのように見える動く点の集合」のムービーを研究チームは設計しました。その実物が以下で、クモの主要関節を模した11個の点が、水平移動するクモの動きを再現しています。

S1 Video. Biological motion point-light display.
(MP4ファイル)https://doi.org/10.1371/journal.pbio.3001172.s003

ムービーから抽出した画像はこんな感じ。クリックすると、点が動く様子をGIFアニメーションで見ることができます。


また、比較対象として、(MP4ファイル)先ほどの点の集合と同じ動きをするクモのアニメーションも研究チームは用意。アニメーションはこのリンクからダウンロードすることが可能で、ダウンロードサイズは約64KBです。


このムービーを見たMenemerus semilimbatusの反応を調べるため、研究チームはMenemerus semilimbatusを宙づりにした上で前後左右どの方向にも動ける専用のトレッドミルの上に脚だけを置いた状態に固定。トレッドミルの駆動状況から、ムービーを見たMenemerus semilimbatusの脚の動きを測定できるようにしました。

60匹のMenemerus semilimbatusに対してムービーを見せたところ、Menemerus semilimbatusはクモのアニメーションと同様に点の集合も体を回転させてじっと見つめると判明。点の集合の動かし方を変化させたところ、11個の点がランダムに動くという生物ではあり得ない動きの場合に最も執着することがわかりました。


研究チームによると、クモは認識できるものと認識できないものを同時に見た場合は認識できないものを優先して見続ける傾向があるとのこと。アグロ氏は「クモは生物の動きを模した点の集合を複眼で追って知っているものだと判別できますが、ランダムな動きは奇妙であるため、何がそこにあるか理解できません」と説明。研究チームは、これまで考えられてきた以上に多様な動物がバイオロジカル・モーションを認識し、生物と無生物を識別する能力を有していると主張し、昆虫や軟体動物で同様の実験を行う予定だとコメントしています。

なお、実験に用いられたMenemerus semilimbatusは無傷で元の場所に戻されたそうです。

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in サイエンス,   生き物,   動画, Posted by darkhorse_log

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