『るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning』監督・大友啓史&アクション監督・谷垣健治インタビュー、5年ぶりのタッグで作品を濃密に染め上げる
映画『るろうに剣心』シリーズの大きな見所の1つは、スピード感あふれる激しいアクションにあります。『The Final』と『The Beginning』では、緋村剣心という人物の違いがアクションにも現れています。どのように異なるアクションを生み出していったのか、大友啓史監督とアクション監督の谷垣健治さんに話をうかがってきました。
映画『るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning』公式サイト
https://wwws.warnerbros.co.jp/rurouni-kenshin2020/
GIGAZINE(以下、G):
谷垣さんは『京都大火編』『伝説の最期編』公開後の2015年実施のインタビューで、続編についての質問を受けて「もうキャストもスタッフも全員力を出し切って、今の状況で次回作を作るとしたら、死人が出ますよ、って感覚ですね」と答えていました。実際に続編として『最終章』2作品を作ってみて……
アクション監督・谷垣健治さん(以下、谷垣):
さすがに死人は出ませんでした(笑)。ひょっとすると「死にかけ」ぐらいまでは大変だったかもしれないけれど、幸いにして大丈夫でした。
G:
『The Final』公開前に大友監督にインタビューをした際、前3作と比べて演者やスタッフがそれぞれに成長していたとの話がありました。谷垣さんの目から見て、どうでしたか?
谷垣:
みんな、年は食いましたね(笑)。「成長」という点では、剣心役の佐藤健くんなんかはもう彼の中に自分なりの「剣心」があるので、前にも増して「剣心だったらどうするか」ということは話し合いました。左之助たちも同じで、そういう「役者たちの感覚」は以前にも増して信頼できると思いましたし、スタッフも一緒にやってきた人たちばかりだから、成長というか、わざわざ言わなくても通じる「暗黙の了解」ができていたと思います。チームワークですね。
G:
今回、『最終章』の2作品を見て、これまでよりもアクションが加速しているような印象を受けました。両作品とも、冒頭からすさまじいアクションがあったのでそういう印象を受けたのかもしれませんが、実際の動きとしても、向上した部分があるのでしょうか。
大友啓史監督(以下、大友):
『The Final』は、映画1本に2作品分のアクションを注ぎたいという思いを持って脚本を作りました。普通ならクライマックスに配置してもおかしくない東京への大規模襲撃は中盤において、最後は剣心と縁のタイマン勝負にするという構成ですね。バリエーションとしても、剣心1人対多数、瀬田宗次郎が加わっての2対多数、さらに集団戦といろいろあって、さらに四乃森蒼紫、巻町操らがまったく異なるアクションをやっています。
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大友:
僕は谷垣さんと前作以来5年ぶりの仕事だったので、アクションチームがとにかく暴れまくるシチュエーションを脚本で作ろうと考えていました。今まで僕の脚本の発想は、「緩急」の「緩」がドラマで「急」がアクション、割合としては7:3というイメージでした。アクションは本来、脚本上の分量は少なめですから。それを今回は逆転させて、アクションが7、他が3というつもりで書きました。恐ろしいことに、準備稿のときから考えると、これでもアクションシーンは1シーン2シーンは落ちているんですよ。
谷垣:
もっと多かったです。「どんだけやるんだ!」って(笑)
大友:
そのくらいの感覚で、「とにかく暴れてくれ!」と。
G:
(笑)
大友:
この5年間、谷垣さんと仕事をしていない僕自身のストレスも込められていたのかもしれない。「ため込んだものを注ぎ込んでくれ」という思いで現場に臨みました。その結果、僕が見た範囲で、谷垣アクションチームは新しい知恵や技術、いろいろなものを蓄えていましたよ。武器の扱い方を取ってみても全然違うんです。やっぱり、美術チームにアクションチームから1人入ってもらったというのも大きかったですね。
G:
アクションから美術……ですか?
大友:
前回は志々雄のスタントマンをやっていた佐久間という人間が、今回は美術チームで壊れ物とかを作っていたんです。そのおかげもあって、アクションをわっと盛り上げていくようなステージができあがって、しかも5年分の知恵やノウハウが注ぎ込まれて、圧倒的に濃密なものになりました。アクション監督の谷垣さんの目から見てどうかはわからないけれど、僕の目から見ると、間違いなく「世界最高峰」の領域に達していると思いました。生粋のアクション映画ファンという目線と、アクション映画を撮っている監督という立場からですけれど、今回の「るろうに剣心」のアクションは本当に、もしかしたら世界最高峰に行っちゃったんじゃないかと。それぐらいの進化でした。
谷垣:
その点では大友監督はちょっとかわいそうでもあるんです。昔はアクション映画を見て単純に楽しめたけれど、今は目が肥えてハードルが上がってしまっている上にそれを自分で撮らねばならないっていう(笑)。
大友:
「どうしてくれんだ!」って(笑)。ハリウッド映画を見て物足りなかったりする場合もあるというのは、『るろ剣』の現場を体験しているからですよね。現場で体験するというのは、作るプロセスも含めてすべて共有しているということだから。こうしてシリーズが終わってみると、なんか目が肥えちゃったな~と。
谷垣:
それは僕自身もそうです。特に『るろ剣』はいろいろな人に望まれている作品ですから、その人たちを楽しませ続ける責任がある。1作目のころは単純に僕らが「イケてる」というものを見せたら、ファンの人たちも「イケてる」と思ってくれたというのがあります。でも2作目、3作目となってくると、もうちょっと狙っていくというか、「こういうことをやったら喜んでもらえるだろう」とか「こう来ると思ったかもしれないけど、そうじゃないよ?」と驚かせようといった欲が出てくるんです。
G:
おお、なるほど!
谷垣:
今回は5年ぶりでしたから、『The Final』ではとにかく「剣心のここが見たかった」だとか「みんなが見たかった剣心の姿」というものを、飽きさせないようにあの手この手で増幅させていった感じです。剣心役の佐藤健くんとも、話すことはほとんど「こういうことだよね」といった確認事が多かったです。いろいろな引き出しがある中から、見て喜んでもらえるもの、求められているものを出そうと。たとえば、明日が誕生日だという人がいたとき、「何をあげたら喜んでもらえるかな」とプレゼントを選んだりするじゃないですか?それを、いろいろな部門を担当する人が何百人も集まって、しかも何百日もかけて考えるような感覚というのか。
G:
いかに相手を喜ばせられるか、と。
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谷垣:
そうです。「みんなが『るろ剣』に望んでいることはこうかな?」と。一方で、『The Beginning』は、そういう娯楽はわかった上で「本来はこういうのが見たかったでしょう?でも、今回のはちょっと違うよ」と、ガラッとベクトルを変えた感じ。それは『The Final』で徹底的にエンタテイメントを極めたからこそ、振り切れた方向でもあります。
G:
サービスという点では、宗次郎が片足でトントンとリズムを取るところや、剣心が「天翔龍閃」で一歩足を踏み出すところなどで「おっ、来た!!」という感覚がありました。
谷垣:
初見の人には純粋に「かっこいいアクションだな」と思ってもらえるとうれしいし、分かる人や縁がある人に「天翔龍閃……来たあ!」と思ってもらえたら満足です。
G:
『最終章』2作品を見ると、『The Final』の剣心のアクションが常人離れしたようなものだったのに比べて、『The Beginning』では落ち着いたような感覚を受けました。
谷垣:
それはそもそも「刀が違うから」というのがありますね。「逆刃刀」は斬っても斬れないから、相手が一発では死なないので何発でも連撃ができます。でも、『The Beginning』で剣心が持っているのは普通の刀だから、斬れば相手は死んでしまう。手数が多くなるとリアルじゃなくなってくるので、その分「斬り方をどうするか」は考えました。
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G:
時間軸でいうと1作目より前の剣心、「人斬り抜刀斎」ということで、バッサバサ斬っていましたね。
谷垣:
『The Beginning』では、やってるうちに一発で斬れる刀だからこそ、そこにいろいろな感情を表現できるということがわかってきましたね。
G:
斬れる刀だからこそできること……というと例えば?
谷垣:
たとえば、表面だけをピッと斬ってシャープに殺すこともできれば、バサっと斬って1回肉に刃が挟まり、そこに力を込めてグッと斬り倒すこともできる。肉が厚ければ「グググッ」と長く溜めることもできる。斬り方1つで、刃がどう体を通過したのかも分かるんだなと。「殺し方」にしてもすべて瞬殺だと面白くないですから。そこはその都度工夫ですね。例えば、冒頭の戦いでは剣心が口に刀をくわえて戦ったりしてます。
G:
そうでしたね(笑)
谷垣:
あの場面はちょっと『座頭市』とかで感じられるような外連味を意識しましたね。あとは、直接斬るのを見せるのではなく、想像させたり。剣心が膝で相手の顔を水の中に押し込んで横から刀を突き立てる。死んだ様子そのものはわからないけれど、桶の穴から赤く染まった水が出てくるから、どうなったのかがわかる。そういった「怖さ」を思わせるところはありますよね。
G:
冒頭、激しいシーンが続きました。
谷垣:
『The Final』だと、お客さんが「自分もこの中に入ってみたい」と思わせるようにすることを目標にしてましたが、『The Beginning』は「ここには居たくない、居たら殺されてしまう」と思わせたかったですね。
G:
(笑)
谷垣:
そういう「楽しさ」と「怖さ」が出ればいいなとは思っていました。
大友:
『The Final』はやっぱり「最後」ということで、剣心の「人を活かす剣」や、御庭番衆の蒼紫たちがその精神を”継承”していくというのが必要です。そこで宗次郎が剣心と一緒に戦うことで「るろうに」の生き方を継承したり、蒼紫と一緒に戦った操が何かを受け継ぐし……それぞれに「継承」の物語があります。アクションという点で、現場ではっきり覚えているのは蒼紫の最後のコレ(監督が身ぶり)ですね。
谷垣:
「回転剣舞六連」ですね。
大友:
最後に操役の太鳳ちゃんも同じ技をする。そのあたりは現場で話しながらアクションに生かした点ですね。剣心の「人を活かす剣」も、最後にはなんとなく縁も理解する。『The Final』なので、主人公から与えられたものをそれぞれの人が次の世代に何かしらつないでいく、という印象が大切だと思います。弥彦も最後に道場で剣を振っていますよね。ずっと「強くなりたい」と言っていた弥彦が「人を活かす剣」を学ぶ。自分だけ弱いのは嫌だからと剣心とともに生活していた彼が、何か新しい生き方を引き継いでいくという。
谷垣:
『伝説の最期編』で、比古清十郎から学んだ技を剣心がその後の戦いで使うというのがありましたが、本作のアクションでも、「気づかれないならそれでいいけれど、わかったら面白い」という要素は入れるようにしています。
G:
細かい動きまで、しっかりと注目しないといけませんね。『The Beginning』では新たに暗殺集団・闇乃武が登場して、辰巳役の北村一輝さんらが加わりました。すでに歴戦の『るろ剣』チームに加わるということで、苦労されたりする場面はなかったですか?
大友:
まったく大丈夫でした。最初に衣装合わせをして、衣装を着たらすごくかっこよかった。あれぐらい渋い役は、本人もあまりやっていないんじゃないかというぐらいで。自分でヒゲ生やして……二の腕も意外と鍛えてきていたように見えましたね。
谷垣:
かなり鍛えてましたよ。
大友:
衣装を着た自分の姿を見て結構気に入って、俄然やる気になっていました。あの人はそういう人なのでね。ノってましたよ。
谷垣:
「息子に聞いたら『辰巳はおいしい役や』って言ってた」って言ってましたよ(笑)
大友:
そうだった(笑)。だから「徳川幕府を背負った役なんで、好感度は高いですよ」と(笑)。実際、徳川幕府300年を背負ったようなセリフもあるから、楽しんでやってくれました。
G:
ちなみに、剣心の最後のエピソードである『The Final』が先に公開され、後で映画1作目以前のエピソードである『The Beginning』が公開されるという形は、最初から固まっていたのでしょうか。
大友:
そこは結構議論のあった部分でした。でも『The Beginning』で見てほしいのは、「誰が誰を斬ったか」とか「剣心の頬の十字傷は、物理的にどのようにつけられたのか」ではなく、そこに至る感情なんです。つまり「どう斬られたのか」ではなく「なぜ斬られたのか」です。剣心が十字傷をつけられること自体はみなさん、1作目の時点で知っているから、それでいいんです。でも「斬られた」ことにはどんな思いがあったのか、そこまでにはどういう流れがあるのか。原作の漫画もありますから「こういうことがありました」というのは先に知ることもできます。でも「それはなぜだった?詳しく知りたい」という思いに応えるのが『The Beginning』なんです。僕らが贈りたいのは「謎解きの物語」ではなく「感情の物語」だと。それで、こういった形になりました。
G:
なるほど。『The Beginning』は剣心の最初の物語ですが、最後にじんわりと味わいたい物語でもあったので、得心しました。
大友:
「答え合わせ」ではなく、素直に目の前で起きているアクションと、動く豊かな感情を楽しんでもらえればうれしいです。それこそ「すげー」って思わずつぶやいてしまったり、ポロッと涙したり。そうなればありがたいです。
G:
もう一度、素直な気持ちで見たいと思います。本日はありがとうございました。
映画『るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning』は大ヒット上映中です。
映画『るろうに剣心 最終章 The Final』本予告 2021年4月23日(金)公開 - YouTube
© 和月伸宏/ 集英社 ©2020 映画「るろうに剣心 最終章 The Final」製作委員会
映画『るろうに剣心 最終章 The Beginning』本予告 6月4日(金)公開【The Final大ヒット上映中】 - YouTube
© 和月伸宏/ 集英社 ©2020 映画「るろうに剣心 最終章 The Beginning」製作委員会
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