インタビュー

『るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning』音楽・佐藤直紀さんインタビュー、時代劇の枠を超えた作品をふさわしい音楽で補う


2012年から展開されている映画『るろうに剣心』シリーズの最新作『るろうに剣心 最終章 The Beginning』が2021年6月4日(金)から公開中です。シリーズを通して音楽を手がけるのは、『ALWAYS 三丁目の夕日』『教場』『交響詩篇エウレカセブン』など多岐にわたって活躍する作曲家・佐藤直紀さん。今回、劇伴のことだけにとどまらず、作曲のことなどについても話をうかがってきました。

映画『るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning』公式サイト
https://wwws.warnerbros.co.jp/rurouni-kenshin2020/

GIGAZINE(以下、G):
『るろうに剣心』での劇伴作りは、映像を見てインスピレーションを得て曲を作る、というような方法だったのでしょうか。

音楽・佐藤直紀さん(以下、佐藤):
実際に大友監督と会って、映像を見ながらシーンごとに「どんな音楽をつけていこうか」と確認するという、わりと一発目から具体的な打ち合わせだったように思います。もうシリーズも『最終章』ですから、『るろうに剣心』という映画の世界観はできています。あとはその音楽をどう踏襲するか、どう膨らませていくかというところなので、絵を見ながらお互いにアイデアを出し合っていったというところです。

大友監督から、シーンの説明やそこに込めた思いを聞いて、それをもとにアイデアを出して曲を書き、できたら随時、デモ音源を監督に送りました。監督からは「OKだね」と言ってもらったり、あるいは「もっとこうしたらどう?」という追加アイデアをもらったり。

G:
「『最終章』だからこそこうしたい」みたいな話はありましたか?

佐藤:
『The Final』に関しては、これまでの『るろうに剣心』という世界観を壊さずに、観客のみなさんに思いっきり楽しんでもらおうと考えました。「『るろうに剣心』という映画をこれ以上ないぐらい楽しんでもらおう」と、その思いが大きかったですね。もちろん、それだけではなくて、回を重ねるごとに出てきたキャラクターの人間的な深みを、音楽面でも深みと広がりを出しつつ、楽しんでもらえるものを、という音楽作りでした。

G:
『最終章』2作品は時代が違うことでいろいろと苦労したというお話を、大友監督だけではなくスタッフの方々からうかがっています。音楽はその点はどうだったのでしょうか。

佐藤:
制作時間はしっかりといただいていたので、時間で苦労することはなかったですが……音楽が「表側」の感情をなぞっていない部分があるという点でしょうか。

G:
感情の「表側」をなぞらないという音楽というのはどういったものなのでしょうか。

佐藤:
たとえばアクションシーンで「戦っている」ということは絵として見えていることなので、その戦っている人たちが何を思って戦っているのかを補うような音楽の付け方をしたところがあるんです。そこは難しいポイントだったかもしれません。


もちろん、戦っているアクションに音楽を合わせてつけたほうが見栄えがいい部分もあります。でも、一方ではアクションしている人の感情につけるところもある。それをどう選択していくのかという点ですね。『るろうに剣心』のメインテーマが気持ちよく流れた方がいいだろうというところもあるし、どういった音楽をそのシーンで選ぶかは、僕と大友監督と選曲家ですごく考えました。動きにばっかり合わせてしまうと、映画が表面的になってしまうんです。『るろうに剣心』はアクションだけではない映画で、大友監督が撮っていることもあり、アクションの裏にどういう思いがあるのか、なぜ戦っているのかといった部分までしっかりと考えられています。音楽がその感情をあぶり出す役割を果たすべきなのか、あえてしないのか、そういう難しさでした。

G:
見た目ではない流れに合わせているところもある、と。

佐藤:
大友監督が撮りたかった、見せたかった方向に合わせるために、原作漫画のイメージに引っ張られすぎないように気を付けました。これは『るろうに剣心』に限りませんが、映画では台本と撮った映像、監督の思いがあるので、それをヒントに曲を書こうと考えているんです。僕が原作漫画に強く感情移入してしまうと、そこに引っ張られてしまう可能性があります。ですので、大友監督が見せたいと考えている方向性に合わせるにはどうするのが良いか、というところには常に意識を置いていました。

G:
『るろうに剣心』は幕末および明治が舞台の作品ですが、本作の劇伴は和楽ではなく、バイオリンやチェロなどの弦楽器・管楽器が中心で、クラシック音楽を思わせる響きだなと感じました。

佐藤:
オーケストラの楽器を使うという点は昨今の時代劇では定番です。ただ、「時代劇」に属する作品だからと和楽器を使ってしまうと、この『るろうに剣心』の場合、枠をはみ出さないというか、「まとまってしまう」感じがあったんです。ジャンルとしての「時代劇」作品であれば良いのですが、『るろうに剣心』では、登場人物の風貌がファンタジーですし、リアルとはちょっと離れています。衣装やビジュアルなどを見ても、「時代劇」からはみ出たフィクションの部分があります。そういった意味で、「時代劇」のようだけれど、その枠を超えた世界観に相応しい音楽で補おうと考えたところがあります。

G:
なるほど。

佐藤:
他の取材でお話しした内容だったかもしれませんが、たとえば琵琶という日本の楽器に似た音色を、中東の「ウード」という楽器で出すことができます。イランのサントゥールという楽器は、琴のような音が出ます。そういった「絵に合わせると『和』の楽器に聞こえるけれど、どこか音階や響きが違う」という楽器は、積極的に使っています。

G:
聞いていて琴の音だと思っているものが、実はサントゥールの音なんですか。

佐藤:
大友監督がやっている映像の演出方法と同じように「ちょっとはみ出す」というのか、日本からちょっとはみ出したようなファンタジー感を狙いたいと思って、そういう音楽演出をしています。

G:
ちなみに、作曲に費やす時間というのは、1日の中でどれぐらいなのでしょうか。

佐藤:
平均すると10時間から12時間ぐらいでしょうか。基本的には「起きているときには曲を書いている」という感じです。

G:
おおお……。

佐藤:
仕事場が家の中にあるものですから、朝起きて、30分も経てば仕事場にいて、曲を書き続けて……。「キリがいい」と思うまで書き続けますね。「何時に終わって、そこからお酒でも飲もう」という仕事ではないですから、寝る前までは曲を書く。眠れなかったら1杯2杯飲むこともありますが、起床時間は基本的に作曲に費やしています。

その代わり、「もうできない」とか「今日は書けない」と思ったときには1日休むこともあります。出勤しているわけでもないですし、上司に見張られているわけでもないですから(笑)。休むことも可能ですし、書き続けることも可能です。

G:
曲を作るとき、インスピレーションでぱっと閃くというケースや、なにがなんでもひねり出すしかないというケース、いろいろあると聞きますが、佐藤さんの場合はどうですか?

佐藤:
僕は、降ってくるのを待っていると一生書けないというタイプです(笑)。基本的に「曲が書けない」タイプで、振り絞らないとダメなので、ずっと机の前に座って、いただいた映像を何十回、何百回とみて音楽を見つけ出します。

G:
なんと……。

佐藤:
見つけられれば指が譜面を書きますが、1個も音符が書けないということも当然あります。ただただ、曲を書けるように机に向かい続けるようにしています。

G:
作曲するために、なにかインプットしていることというのはありますか?

佐藤:
どうしてもアウトプットの方が多くなるとアイデアが枯渇してしまうので、ポップスもクラシックも、ジャンルに関わらず耳に入れるようにしています。「広く浅く」という感じです。

G:
この曲みたいなイメージかな、と参考にすることはあるのでしょうか。

佐藤:
自分から具体的に「この曲を参考に」と考えることはないですが、いろいろな音楽をとにかくインプットした状態で、映像に対して僕のフィルターをかけた音楽をアウトプットしているという形ですから、ひょっとすると無意識のうちに僕に影響を与えているものがあるかもしれません。

G:
JASRACの「作家で聴く音楽」というインタビュー企画で、音大時代に学んだ和声学や対位法について「作曲に役立ってはいるけれど、こういう音はこうしなきゃいけないとかいうルールに自由な発想を邪魔されることもありますね。特に若いときはルールにがんじがらめになって邪魔されていました。今はだいぶ自由に書けるようになりましたけど」と語っておられましたが、この「型を守る」ステージから「型を破る」ステージに進んだのは、なにか具体的なきっかけがあったのでしょうか。

佐藤:
「これがきっかけ」というのはありませんけれど、やっぱり何十曲、何百曲、何千曲と曲を書くにつれて、「自分なりの音楽スタイル」や「自分なりの音楽理論」……理論というと大げさですけれど、そういうものができあがっていきます。それと同時に、曲を書いた経験が僕の中で自信になっていき、いわゆる音楽理論のルールを守るというのが必ずしもいい音楽だとは限らないし、僕なりのいい理論で音楽を書くことが僕らしさにつながるということが、だんだん分かってきたということなんでしょうね。

G:
自分自身も音楽を学んだことがあるのですが、ルールがとても厳しく、「どうやって作曲すれば……」と悩むことがありました。それでも、とにかく作曲し続けていくしかないのでしょうか。

佐藤:
先ほど出てきた「対位法」がルネサンスからバロックのころにできたものだったりするように、音楽理論をそのまま現代の音楽に当てはめてよいかというのは難しいところだと思います。でも、音楽を勉強するとなったときは、まずその理論から入っていくことになります。まだ音楽のルールを知らない子どもたちがそれを習ったら「音楽というのはそういうものなんだ」と思ってしまいますよね。

G:
はい。

佐藤:
実は、今の音楽はそんなことまったくないんです。最初に教えられたルールは守ってはいるものの、必ずしもすべてのルールを守らなければいけないかというとそんなことはないんです。時代やそのときの状況によって、守らなきゃいけないこともあるけれど、破ってもいいときだってある。ルールに縛られすぎて、自由さや面白さを見失ってしまうというなら、それはあまりよくないですね。ただ、僕が言わずとも、経験を重ねれば作曲家はみんなそうなっていくと思います。

G:
同じインタビューの中で、佐藤さんは「あと10年続けるのは難しいかな。7年くらいできればいいんじゃないですか。20代の頃、40歳を過ぎたら面白い曲は書けないだろうと思っていました」と答えていました。

佐藤:
そんなことを(笑)。そうなると、僕はあと何年続けられることになるんでしょう?

G:
インタビューは2014年のものなので、ちょうど「7年ぐらいできれば」のところで、「あと10年」まで3年です。実感としてはいかがでしょうか。

佐藤:
あと3年……まだ3年はできそうです!(笑)

G:
(笑)

佐藤:
今、僕は50歳(インタビュー時点)なんです。10年前なら確かに「50歳になったら厳しいだろうな」という感じはあったかもしれませんが、いざ50歳になってみると、まだもうちょっとできそうです。あと……5年?うーん、どうでしょうね。以前は「年を取ったらいろいろなアイデアが枯れて、音楽的なセンスも時代からズレていくのかな」と思っていたんです。でも、実際には、少なくともアイデアは枯渇していないなと。むしろ、これまではおっかなびっくりだった「映像と音楽のコラボレーション」みたいなものが僕の中で解き放たれた気がして、ようやく自由に音楽が書き始められたという感覚なんです。

G:
おお!

佐藤:
なので、少なくとも今はまだ辞める必要はないだろう、もうちょっと書けそうだぞというように思っています。……ただ、時代とのマッチングを考えると、やっぱり60歳までは無理かな?(笑)

G:
(笑)

佐藤:
あと5年ぐらいかな。こんなこと言って、55歳になったら「あと3年ぐらいは」と言ってそうだけれど(笑)、思ったより自分の中ではいろいろ鈍っていないし、衰えてもないという感覚です。だから、とりあえずはあと5年やらせてください。

G:
作品のことから作曲についてまでたくさん語っていただき、本日はありがとうございました!

『るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning』は大ヒット上映中。剣心の誕生日である6月20日にはIMAXレーザーシアターにて大友啓史監督による舞台挨拶の実施が決まっています。

映画『るろうに剣心 最終章 The Beginning』本予告 6月4日(金)公開【The Final大ヒット上映中】 - YouTube

© 和月伸宏/ 集英社 ©2020 映画「るろうに剣心 最終章 The Final」製作委員会
© 和月伸宏/ 集英社 ©2020 映画「るろうに剣心 最終章 The Beginning」製作委員会

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