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漁村をまるごとビットコイン経済の村にした壮大な社会実験「ビットコインビーチ」とは?


中央アメリカに位置するエルサルバドルは2021年6月に、議会で「ビットコインを法定通貨にする法案」を可決し、ビットコインを正式な通貨に採用した世界で最初の国家になりました。そんなエルサルバドルの海辺にある人口約3000人の小さな漁村が、ビットコインで経済を回す「ビットコインビーチ」になった経緯を、政治に特化したニュースサイト・Slateと経済誌のBloombergが報じています。

Bitcoin Beach: The cryptocurrency experiment in El Salvador's El Zonte.
https://slate.com/technology/2021/06/el-zonte-el-salvador-bitcoin-beach-legal-tender.html

World’s Biggest Bitcoin Experiment Is a Surf Town in El Salvador - Bloomberg
https://www.bloomberg.com/news/features/2021-06-17/world-s-biggest-bitcoin-experiment-is-a-surf-town-in-el-salvador

エルサルバドルの太平洋沿岸にあるエル・ゾンテは、サーフィンと釣りで有名な人口約3000人の村です。ロイターの報道によると、エル・ゾンテは村民の多くが貧しく、道路は未舗装で下水の整備も進んでいない寒村とのこと。そんなエル・ゾンテに変化が訪れたのは、アメリカに住む匿名の投資家が2019年に、エル・ゾンテの地域団体に多額のビットコインを寄付したことがきっかけでした。突然多額のビットコインを得ることになったエル・ゾンテは、それを元手に地域経済を復活させるべく住民にビットコインと決済用のアプリを配布し、ビットコインを村に根付かせるためのプロジェクトである「ビットコインビーチ」を開始しました。

by Carlos Lowry

この匿名の投資家は、「自国の法定通貨を放棄してアメリカドルを公式に使用しているというエルサルバドル経済の実態」と、「エル・ゾンテに住む人々がほとんどクレジットカードといった既存の決済システムを持っていないこと」を理由に、エル・ゾンテで社会実験を行うべく寄付を行ったとのこと。実際、村から依頼を受けてエル・ゾンテ用のビットコイン決済アプリ「Bitcoin Beach Wallet」を開発したGaloy Moneyの設立者であるクリス・ハンター氏は、「エル・ゾンテはビットコインの実験場には理想でした」と話しています。

2019年に始まった「ビットコインビーチ」ですが、出だしは好調ではありませんでした。プロジェクトの中心的なメンバーの1人であるマイケル・ピーターソン氏は、最初にこのプロジェクトのことを聞いた時に「詐欺まがいの話だ」と思ったとのこと。しかし、カリフォルニア州在住だという匿名の寄付者から、ビットコインで回る地域経済を作るという構想を聞くにつれて、「これがうまくいけば、この村で最も貧しい人からお金持ちまで同じスタートラインに立てるので、エル・ゾンテを変えることができると感じました」とピーターソン氏は語っています。


村を取り仕切っている年配者の説得に苦慮したピーターソン氏は、テクノロジーへの抵抗が少ない村のティーンエイジャーにビットコインを払って海岸の清掃をしてもらったり、地元の商店にかけあってビットコイン決済を導入してもらったりしながら、少しずつビットコインを村に広めていきました。

そんなエル・ゾンテにビットコインが普及する決め手になったのは、2019年末に発見された新型コロナウイルス感染症でした。パンデミックの影響で、村を支えていた旧来の経済システムが崩壊したのを悟ったピーターソン氏は、村の各家庭に毎月35ドル(約3800円)相当のビットコインを送金することを始めました。「ビットコインビーチ」の開始から1年半後には、村の世帯の90%がビットコインを使い、村にある40以上の事業者がビットコイン決済を受け入れるようになるなど、ビットコインは急速に村に広がりました。ピーターソン氏は、ビットコインが普及する様子について、「まさにクレイジーでした」と話しています。

村民らがビットコイン決済に使っているBitcoin Beach Walletでは、ドルとビットコインの相場と、どの店でビットコイン決済ができるかが分かるようになっています。また、ビットコイン決済に対応しているかどうかにかかわらず、村の価格表示はすべてドルに統一されており、ビットコイン相場が変動してもカプチーノ1杯は常に3.5ドル(約385円)です。このように、ビットコインは通貨というより通貨を媒介する代用貨幣(トークン)として機能しているそうです。


村の生活に急速に浸透したビットコインですが、村人の生活を一変させたわけではありません。村で店を営んでいる人は、ビットコインが売り上げに占める割合は少ししかないと話しています。また、村民の85%がスマートフォンを持っていますが、その多くはトタン屋根と土間がある小さな家に住んでいます。

一方、恩恵を実感している人もいます。村で建設業者をしているある経営者は、Bloombergに対して「最寄りの銀行まで行くと1時間もかかるので、従業員に給料を支払うために毎月半日がつぶれていましたが、いまでは給料はビットコインで払っています」と話しました。また、その会社の従業員の1人である62歳のエイドリアン・トレス氏は、「ビットコインで歯を治療したことがあるし、今は牛を買うためにビットコインをためているところです」と話しました。

実験的なプロジェクトである「ビットコインビーチ」は一定の成功を収めましたが、人口3000人の村と国では規模が違うため、エルサルバドルがビットコインの導入に成功するかは未知数です。エル・ゾンテはインターネットが比較的普及している地域でしたが、エルサルバドル全体のインターネット普及率は45%しかありません。また、ビットコインは価格の変動が激しいため、常に下落のリスクにさらされているという問題もあります。

エルサルバドルがビットコインを法定通貨にしたという報に接したピーターソン氏は、「ここ数日でビットコインへの関心がとても高くなっています。私たちは、ビットコインを通じてエルサルバドルに雇用をもたらすべく、ビットコインに関する学習を支援したいと思っています。エルサルバドルの人々にビットコインをよく知ってもらうことが、私たちの最初の目標です」と話しました。

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in メモ, Posted by log1l_ks

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