ディープフェイクによるセックスワーカーの被害を専門家が指摘

「ディープフェイク」は、AIを用いて写真やムービーの一部を他のモノにすり替える技術です。このディープフェイクとポルノにまつわる問題点を、トロント大学でポルノや経済学について研究するマギー・マクドナルド氏が複数の専門家から聞き取ってまとめています。

The Double Exploitation of Deepfake Porn | The Walrus
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ディープフェイクは「ディープラーニング」と「フェイク」をかけ合わせた造語で、AIを用いて違和感なくムービー内の人物の顔をすり替えたり、偽の衛星写真を作り出すことが可能な技術です。このディープフェイクは2017年ごろにRedditなどのネット掲示板で流行し始めた技術で、流行当初は高度なAIの知識が必要でしたが、記事作成時点ではFaceAppなどのアプリを用いて手軽にディープフェイクによる画像・ムービーの編集が可能になっています。

ディープフェイクで顔をすり替えるには、いくつかのサンプルムービーと、顔の膨大なデータセットが必要です。そのため、高画質の顔写真を大量に出回っている有名人はディープフェイクの標的にされやすく、Facebookのマーク・ザッカーバーグCEOが「データの支配」について語るムービーや、バラク・オバマ氏が話した内容をロシアのプーチン大統領に話させるムービーなどが作成されており、AIによって作られたフェイクニュースの脅威が大きく取り上げられてきました。

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しかし、マクドナルド氏は「ディープフェイクを用いてテイラー・スウィフトやエマ・ワトソン、スカーレット・ヨハンソン、TikTokスターのチャーリー・ダミリオといった有名人の顔とポルノ女優の顔を入れ替えたムービーが何千本も出回っています」と指摘。さらに、2019年に発表された「オンラインで公開されているディープフェイクムービーの96％がポルノ関連のムービーである」という(PDFリンク)調査結果を挙げ、「ディープフェイクのほとんどは、フェイクニュースではなく、ポルノの作成に用いられている」と主張しています。

マクドナルド氏によると、ディープフェイクによるポルノムービーは、視聴者をだますことを目的としておらず、しばしば「フェイク」というタグが付けられ、一部のクリエイターは「一種の二次創作物」としてそれらのムービーを誇りに思っているとのこと。しかし、セックスワーカーへの支援活動を行うアンドレア・ウェルフン氏は、「ディープフェイクによる顔の入れ替えは、女性蔑視に当たります」と主張しています。

また、マクドナルド氏は、ディープフェイクによるポルノムービーは、顔を使用された人物に屈辱やトラウマを味わわせるだけでなく、体を使用されたセックスワーカーにも害を及ぼすと指摘。加えて、ハーバード大学で人権やセクシュアリティについて研究するザラ・スターダスト氏は、「契約で撮影されたポルノであれ、ビデオチャット形式のポルノであれ、出演者の同意なしに変更および共有されることは、物質的にも道徳的にも侮辱的です」と述べています。しかし、同時にスターダスト氏は「ディープフェイクは、名誉毀損の角度から打ち負かすのが難しい場合があります」と主張、ウェルフン氏も「私たちの文化は、セックスを公に明示的にする人に対して根本的な軽蔑心を持っています」と述べ、セックスワーカーがディープフェイクムービーの作成者を訴えにくい環境が存在すると主張しています。

ポルノレーベルのプロデューサーで自身もポルノ女優として活躍するケイト・シンクレア氏は、「ディープフェイクは、ポルノシーンに自分自身を適用したり、型破りな欲望を満たしたりといったことに役立つ可能性があります。しかし、著作権侵害が業界で蔓延し、合意に基づかない画像の共有が常態化している限り、ディープフェイクの有意義な利用が成功する可能性は低いです」と述べています、また、マクドナルド氏も「ディープフェイクは、デジタルメディアにおける新しくて強力なジャンルです。それらは、ファンタジー構築の大きな可能性と偽情報の脅威を伴っています。現状では、ディープフェイクは匿名の作成者からセックスワーカーへの嫌がらせに使われています」と述べ、有意義な可能性を持ったディープフェイクが違法な使われ方をしている現状を問題視しています。

最後に、マクドナルド氏は「ディープフェイクが強力な地位の男性を標的にしたり、フェイクニュースを助長したりする可能性があることばかり強調している現状では、実際に問題となっている『社会で最も疎外されている労働者への加害』をなくすことはできません」と締めくくっています。