環境問題を訴えるのに「物語」が有効かどうかは政治的思想に左右される可能性
近年では気候変動によって多くの人々の生活が脅かされており、環境問題対策の必要性を周知する方法が模索されています。アメリカの研究チームが、環境問題に取り組むことの重要性を訴えるために「物語」を使うという手法を実験したところ、有効性は対象の政治的思想によって左右される可能性があると判明しました。
A story induces greater environmental contributions than scientific information among liberals but not conservatives: One Earth
https://www.cell.com/one-earth/fulltext/S2590-3322(21)00178-0
What spurs people to save the planet—stories or facts? | Hub
https://hub.jhu.edu/2021/04/27/climate-change-communications-are-far-from-one-size-fits-all/
多くの科学者は気候変動が差し迫った問題であることを人々に訴えようとしていますが、「環境問題を伝える最善の方法」の指針となる科学的証拠は乏しいとのこと。中には、「事実だけでなく感情に訴えかける物語を通して環境問題を伝えるべき」と考える人もいれば、科学的に正確であると断定できる事実だけを伝えたいと考える人もいます。
そこで、ジョンズ・ホプキンズ大学で行動経済学や公共政策を研究するポール・フェラーロ特別教授らの研究チームは、本当に物語を通して訴えかけることが人々の行動を変える役に立つのか、もしそうなら誰にとって効果的なのかを調べる実験を行いました。「私たちは、物語とより典型的な科学に基づいたメッセージで競争させ、消費者心理において実際に重要なことは何なのかを見ようとしました」とフェラーロ氏は述べています。
研究チームはアメリカ・デラウェア州で行われた農業イベントに出席し、1200人の参加者を対象にしたフィールド実験を行いました。調査対象者は全員が自宅に芝生や庭園を所有しており、土地から流出した物質で環境が汚染されている地域に住んでいたとのこと。
この実験で、「物語チーム」に振り分けられた参加者は、「汚染された甲殻類を食べた後に死亡した男性」についてのビデオを見ました。この男性の死と環境汚染との関連性はもっともらしいものの、科学的な証拠は希薄だったとのこと。一方で「科学的事実チーム」に振り分けられた参加者は、土地から流出した汚染物質が生態系や周辺のコミュニティに与える影響について、科学的証拠に基づいたビデオを見ました。
ビデオを見た後、参加者全員が安全な肥料や土壌試験キット、バイオ炭など、汚染物質の流出を減らすことができる10ドル(約1100円)以下の製品を購入する機会を与えられました。研究チームはこの製品販売会において、参加者が環境汚染を減らすためにどれほどの額を支払う意思があるのかを調査したそうです。
参加者が製品の購入に支払った金額を分析した結果、物語で環境問題を訴えるビデオを見た人は、科学的事実を聞いた人よりも多くのお金を支払う意思を見せたとのこと。ところが、この結果は政治的な意見によって差があったとのことで、リベラルの人々は物語を聞くことで環境製品をにお金を支払う意欲が17%増加した一方、保守派の人々は物語を聞くとお金を支払う意思が14%下がったそうです。
今回の研究はメッセージの伝え方が環境問題に対する人々の行動を変えるだけでなく、聴衆によってメッセージを調整する必要がある可能性を示唆しています。フェラーロ氏は、「まだ環境問題に傾倒していない保守派の人々にとって、物語は事態を悪化させるかもしれません」と述べました。
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