「なぜ人は夢を見るのか」は機械学習の観点から説明が可能
誰しも、現実ではあり得ないようなとんでもない内容の「夢」を見ることがありますが、「なぜ夢を見るのか」という理由ははっきりしておらず、さまざまな仮説が立てられています。タフツ大学のエリック・ホーエル氏は、脳の神経回路をまねて作られた機械学習の手法「ディープニューラルネットワーク(DNN)」の観点から、1つの新たな仮説を立てています。
The overfitted brain: Dreams evolved to assist generalization: Patterns
https://www.cell.com/patterns/fulltext/S2666-3899(21)00064-7
Our Weird Dreams May Help Us Make Sense of Reality, AI-Inspired Theory Suggests
https://www.sciencealert.com/ai-research-suggests-weird-dreams-might-help-our-brains-keep-reality-in-check
機械学習では、コンピューターなどの学習者は大量のデータセットを元に学習・訓練を行い、その結果をもって何らかのタスクをこなせるようになることが期待されています。しかし、学習期間が長すぎたり、訓練データが適切ではなかった場合、学習者は本来学習するべきデータとは無関係な特徴を学習してしまう「過剰適合」という状態に陥ります。
過剰適合が起こると、学習者は学習モデルを一般化できず、予測データを正確に出力することができなくなります。過剰適合を解消するためには「データセットを追加する」「画像データであればそれを反転させるなど、データに修正を加える」「データを簡略化する」といった方法が考えられますが、最も一般的な手段は特定のデータを無視する「ドロップアウト」であるとホーエル氏は述べています。
一般的なドロップアウトの手法は、学習中にデータセットのノードの一部をランダムに無視するというもので、これにより無視されたデータが予測データに影響を与えることを防ぎ、またモデルがこれまでに見たことがないデータに適合することにも役立つ可能性があるとされています。
ホーエル氏はこれを夢にも当てはめ、機械学習やDNNで発生する過剰適合こそが、動物が夢を見る理由の1つだとする「過剰適合脳仮説」を提唱しました。つまり、動物が夢を見るのは、「現実の出来事を予測するために発生する」といった既存の仮説に加え、「脳が過剰適合となることを防ぐために発生する」という理由があるとのこと。
夢が時折現実離れした内容になるのも、脳は起きている間に記憶した出来事を全て夢に反映させているのではなく、一部の詳細な情報を欠落させて反映させているためであるとのこと。夢の中で詳細な情報が欠落することにより、機械学習と同じように学習モデルの一般化が行われ、脳が行う情報処理が簡単になるとホーエル氏は説明しています。
ホーエル氏は「夢と機械学習の特性は驚くべき類似点を持っており、過剰適合脳仮説は神経科学と深層学習の両方の分野に役立つ可能性があります」と述べています。
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