サイエンス

シャーロック・ホームズの記憶術よりも効果が高い「古代アボリジニの記憶術」とは?


暗記したい内容を視覚的なイメージに結びつけて覚える「記憶の宮殿」という記憶術はシャーロック・ホームズやハンニバル・レクター博士が使っていた手法として有名で、「暗記力を向上させる」と科学的調査によっても効果が実証されています。しかし新たに、記憶の宮殿よりも「古代アボリジニの記憶術」が優れているとオーストラリア・モナシュ大学の研究者が実証しました。

Australian Aboriginal techniques for memorization: Translation into a medical and allied health education setting
https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0251710

New study finds ancient Australian Aboriginal memory tool superior to “memory palace” learning among medical students - Medicine, Nursing and Health Sciences
https://www.monash.edu/medicine/news/latest/2021-articles/new-study-finds-ancient-australian-aboriginal-memory-tool-superior-to-memory-palace-learning-among-medical-students

流行歌の曲名や突然使われるようになったカタカナ語などが覚えられないという人でも、「小学校に通っていたときの通学路を思い出してください」と言われるとすんなりと頭に浮かぶものです。このように人の脳は概念や文字情報よりも「風景」を覚える能力に秀でており、この特性を利用して「視覚的なイメージに結びつける」という手法で記憶力を高める方法が記憶の宮殿です。近年の研究では、記憶の宮殿を使った場合には何の記憶術も使っていない場合に比べて約2倍の単語を覚えることが可能だと証明されています。

シャーロック・ホームズが使う記憶術「記憶の宮殿」は実際に記憶力向上に役立つとの研究結果 - GIGAZINE


こうした記憶術に関して、モナシュ大学のデビッド・リサー氏らは新たにオーストラリアのアボリジニの間で5万年にわたって伝承されてきたという方法に着目。この古代アボリジニの記憶術の効果を記憶の宮殿と比べるという実験を行いました。

リサー氏らは解剖学・病気・薬などの広範な知識を暗記する必要がある医学生76人を「記憶の宮殿」「古代アボリジニの記憶術」「記憶術なし」という3グループに分類。「記憶の宮殿」「古代アボリジニの記憶術」の2グループにはそれぞれの記憶術の訓練を、「記憶術なし」のグループにはビデオ鑑賞をそれぞれ30分間続けてもらいました。


具体的な「記憶の宮殿」「古代アボリジニの記憶術」の訓練内容は以下の通り。

◆記憶の宮殿
子どもの頃に住んでいた家の寝室、ないしは今住んでいる自宅を頭の中に思い浮かべ、その空間内にある物体をできる限り具体的に想像する(例:部屋の入り口の左側の机の上に置かれている、シェード部分に調節機能が付いた、台座の中央部に電源スイッチのある赤いランプ)。記憶したい内容がある場合、それぞれの内容を「想像上の物体自体」と「その物体の位置」を関連付けるようにして覚える。内容を思い出そうとする場合、想像上の空間を移動し、関連する物体に近づくようなイメージを思い浮かべる。

◆古代アボリジニの記憶術
キャンパス内にある「ロックガーデン」と呼ばれる庭園(以下の画像)に被験者を案内し、ロックガーデン内にある石・植物・コンクリート板などのオブジェをそれぞれ見てもらう。その後、それぞれのオブジェとその配置について自分なりの「ストーリー」を作成するように求める。記憶したい内容がある場合、それぞれの内容をロックガーデン内のオブジェに関連付けるようにして覚える。内容を思い出そうとする場合、ストーリーを思い出しながら想像上のロックガーデンを移動し、関連するオブジェに近づくようなイメージを思い浮かべる。


訓練後、被験者は「anglewing(タテハチョウ)」「tortoiseshell(コヒオドシ)」などチョウの名前20種を10分間で覚えるよう求められました。そして、この暗記時間が終了してから10分後と30分後に試験を実施。暗記力が測定されました。

訓練直前に行った事前計測の結果に比べ、「古代アボリジニの記憶術」を用いた被験者は20種のチョウの名前を挙げられる確率が2.8倍、「記憶の宮殿」を用いた被験者は確率が2.1倍、「記憶術なし」の被験者は1.5倍となっていました。訓練後の結果は実質的に2回目の暗記となったため、「記憶術なし」でも成績が向上していますが、「古代アボリジニの記憶術」は有意な暗記力向上が見込めるという結果です。

なお、今回の実験には地元アボリジニの古老が講師役として参加したそうで、「古代アボリジニの記憶術」を受講した被験者は「創造的で楽しい」と回答し、95%が「この手法が役に立つ」、56%が「今後も使う」と答えています。

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in サイエンス, Posted by darkhorse_log

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