ネット中立性規制撤廃のために大手ISPが1800万件以上の偽造コメントを作成していたことが明らかに
アメリカでは、2015年にオバマ政権下でインターネットサービスプロバイダ(ISP)に対して特定のコンテンツに対する有利・不利な扱いを禁止するルール「ネットワークの中立性(ネット中立性)」が制定されました。しかし、ネット中立性に関する規制は、制定からわずか2年後の2017年に連邦通信委員会(FCC)によって撤廃されています。このネット中立性撤廃を巡る活動の中で、大手ISPが参加する業界団体によって約1800万件以上の偽造パブリックコメントが作成されていたことが、ニューヨーク州のレティシア・ジェームズ司法長官が率いる司法長官事務所の調査によって明らかになりました。
oag-fakecommentsreport.pdf
https://ag.ny.gov/sites/default/files/oag-fakecommentsreport.pdf
Attorney General James Issues Report Detailing Millions of Fake Comments, Revealing Secret Campaign to Influence FCC’s 2017 Repeal of Net Neutrality Rules | New York State Attorney General
https://ag.ny.gov/press-release/2021/attorney-general-james-issues-report-detailing-millions-fake-comments-revealing
ネット中立性とは、インターネット上のコンテンツの公平な取り扱いのために、ISPに対して特定のコンテンツを有利・不利に扱うことを禁止するルールで、2015年にオバマ政権下で制定されました。このルールによって、ISP事業者による「自社に有利なサービスに高速な通信を割り当て、ライバルのサービスの通信速度を低速にする」「割増料金を支払ったユーザーにのみ、高速な通信を提供する」といった差別を防ぐことができると期待されていました。
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しかし、ネット中立性規制の制定からわずか2年後の2017年に、FCCは「ネット中立性規制によって、ISP事業者のインフラ整備・維持コストが増大している」「企業の投資意欲が減退することで通信品質が悪化し、将来的に情報格差が拡大する危険性がある」といった理由から、ネット中立性規制を撤廃しました。
この撤廃に対して電子フロンティア財団(EFF)は「ISP事業者のインフラ整備・維持コストが増大しているという主張は、事実と異なる」と指摘し、ネット中立性規制の撤廃は不当だとFCCの判断を糾弾。他にもMozillaがワシントンD.C.連邦裁判所に対してFCCの決定に対する異議申立てを行ったり、大手テクノロジー企業が参加するロビー活動団体Internet AssociationがFCCを提訴したりと、大きな論争が巻き起こりました。
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司法長官事務所は、FCCによるネット中立性規制撤廃に影響を与えた企業について数年間にわたる調査を実施してきました。その結果、AT&TやComcastといったアメリカの大手ISPが参加する業界団体Broadband for America(BFA)が820万ドル(約8億9000万円)をネット中立性規制撤廃のための「秘密のキャンペーン」に費やし、そのうち420万ドル(約4億6000万円)を偽造パブリックコメントや偽造書簡の作成に用いていたことが判明しました。
After a multi-year investigation, we found the nation's largest broadband companies funded a secret campaign to influence the FCC's repeal of net neutrality rules — resulting in millions of fake public comments impersonating Americans.
— NY AG James (@NewYorkStateAG) May 6, 2021
These illegal schemes are unacceptable.
また、司法長官事務所の調査では、FCCが2017年に受け取った2200万件のネット中立性規制に関するパブリックコメントのち、1800万件がBFAによって作成された偽造パブリックコメントであったことも明らかになりました。さらに、ネット中立性規制の撤廃を支持する50万件もの偽の書簡が議会に送られたことも判明しています。
The broadband industry hired marketing companies that co-opted and created identities and filed nearly 18 million fake comments with the FCC and sent over half a million fake letters to Congress in support of the repeal.
— NY AG James (@NewYorkStateAG) May 6, 2021
This practice was also used to influence other policies.
司法長官事務所の報告書によると、BFAは複数のマーケティング企業に偽のパブリックコメントの作成を依頼したとのこと。マーケティング企業は「少額の報奨金や商品の割引きと引き換えに、ユーザーから名前や住所の使用許可を得る」「ソフトウェアを用いてパブリックコメントの内容をランダムに変更する」といった方法を用いて、大量の偽造パブリックコメントを作成しました。
ジェームズ氏は、偽のパブリックコメント作成に関わったマーケティング企業のうち、主要な役割を担った「Fluent」「Opt-Intelligence」「React2Media」の3社に対して、440万ドル(約4億8000万円)の罰金と不正に得た利益の支払いを求めています。
Today, we stopped three of these marketing companies from continuing their illegal behavior and recommended reforms to stop this type of fraud in the future.
— NY AG James (@NewYorkStateAG) May 6, 2021
We will continue to shine a light on abuses and disinformation that drown out the voices of the American people.
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