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「ネット中立性」規制の撤廃で大きく揺れるアメリカの「オープンなインターネット」を巡る問題とは?


アメリカ国内では「ネットワークの中立性(ネット中立性)」に関する規制を撤廃するという連邦通信委員会(FCC)の方針を巡って、オープンなインターネットが失われてしまうのではないかという議論が活発になっています。GoogleやFacebookなどの巨大なIT企業もFCC方針に反対を表明し、22州の司法長官がFCC決定の不当性を訴えて訴訟を提起するなど、大きく揺れるネット中立性問題の現状はこんな感じです。

22 attorneys general sue to block net neutrality rollback - The Verge
https://www.theverge.com/2018/1/16/16898352/attorneys-general-lawsuit-fcc-net-neutrality

The FCC Just Killed Net Neutrality. Now What? | WIRED
https://www.wired.com/story/after-fcc-vote-net-neutrality-fight-moves-to-courts-congress/

Amazon, Facebook, and Google to Join Legal Battle Over Net Neutrality | WIRED
https://www.wired.com/story/tech-giants-to-join-legal-battle-over-net-neutrality/

◆ネット中立性とは?
「ネットワークの中立性(ネット中立性)」とは、「インターネット上のコンテンツの取り扱いは公平であるべき」という理念のもと、ネットワークサービスプロバイダー(ISP)に対して特定のコンテンツを有利ないし不利に扱うことを禁止するというルールです。ネット中立性のルールの下では、特定のコンテンツの配信を高速化したりブロックしたりする恣意的なサービス運用がISPに認められていません。しかし、ネット中立性のルールが撤廃されれば、割増料金を支払った企業にだけコンテンツを高速に配信できる「高速レーン」の利用を許したり、特定企業のコンテンツの配信速度を大幅に遅らせたりといった、異なる取り扱いをすることがISPに許されます。例えば、NetflixやAmazonに後れをとるストリーミングサービスを提供するAT&TやVerizonが、自社のストリーミングサービスを高速配信しつつ、NetflixやAmazon Videoの速度を大幅に制限することで自社サービスを優位な立場に置く、といったことも不可能ではなくなります。

事実、VerizonがこっそりNetflixやYouTubeの通信帯域を絞ったことが問題になっています。

NetflixやYouTubeに無断で通信帯域を絞るテストをベライゾンが行ったことが発覚し騒ぎに - GIGAZINE


仮にネット中立性のルールがなければ、高速レーンを利用するための追加費用を支払える大企業に対して、追加費用を負担できない中小企業が競争上、不利になり得ます。ネット中立性のルールがあるからこそ、弱小ではあるものの多くの支持を集められる優良コンテンツへのアクセスが確保されています。インターネットが表現の自由に大きく関係する社会インフラという側面があることに鑑みれば、公平の観点からだけでなく表現の自由の観点からもネット中立性のルールは必要だというわけです。

他方で、大量のアクセスを集めるコンテンツと弱小コンテンツを同等に扱わなければならないというネット中立性の下では、ISP事業者にとってはインフラ整備コストが高まってしまうという不利益もあります。効率性を重視すれば、大量のアクセスを集めるコンテンツの配信には高速レーンを与える代わりにその対価を支払わせてコストを負担させるべきだという考えです。

このように対立する意見があった中で多くのテクノロジー企業によって支持を集めたネット中立性ルールは、2015年にオバマ政権下で制定されました。ネット中立性規制によって、コンテンツへのアクセスへの恣意的な取り扱いがISPに禁止されることになったというわけです。


◆FCCの規制撤廃決定
しかし、2015年にネット中立性規制が導入されてからわずかに2年後の2017年11月に、連邦通信委員会(FCC)はネット中立性に関する規制を撤廃する方針を固め、2017年12月14日の委員会でネット中立性規制の廃止案が賛成3、反対2で承認されネット中立性規制が撤廃されました。FCC委員長のアジット・パイ氏は「ネット中立性規制が企業の投資意欲を減退させ、通信品質に影響が及び、ひいては将来的な情報格差の拡大につながる恐れがある」という理由を挙げています。なお、この決定の下では、州がネット中立性を維持する独自の規制を設けることも禁じられます。


FCC委員会はネット中立性規制が導入された2015年以降のISP企業のネットインフラへの投資額が2015年には3%、2016年には2%減少したという調査結果を挙げていますが、アメリカ最大のISP事業者であるComcastは、同期間において設備投資を拡大させており、競合数社も同様の方針を採り、投資額を減らした企業は長期的な投資計画完了が理由であるという指摘もあります。

わずか2年で状況ががらりと変わったネット中立性を巡るアメリカのインターネットの規制方針ですが、変化の原因はオバマ政権からトランプ政権への移行があるというのが大方の見解です。ネット中立性規制を撤廃することで、コンテンツへのアクセス性をISP事業者が変更できることは、ネット上の規制を強めたいトランプ政権の方針に合致するからだというのがその理由です。

◆IT企業や市民の動き
ネット中立性の規制が撤廃される見込みであることが明らかになると、ネット関連企業はすばやく「反対」の意思を表明しました。例えば、GitHubは「ネットの中立性は、私たちが現在使っているインターネットの基礎です。それは、通信タイプによって差別されない誰もが参加できるオープンなものです。ネット中立性規制が撤廃されれば、通信提供企業にインターネットがコントロールされてしまいます」という見解を発表しています。

‘Make a Ruckus’ to Protect Net Neutrality in the U.S. · GitHub
https://github.com/blog/2475-make-a-ruckus-to-protect-net-neutrality-in-the-u-s


FCCの規制撤廃が違法だという訴訟も提起されています。ワシントンD.C.巡回控訴裁判所へ提起された訴訟では「FCCのネット中立性規制の撤廃は、恣意的で、気まぐれで、裁量権の濫用のおそれがある」というFCC方針の不当性が挙げられ、22州の司法長官によって提起された訴訟ではニューヨーク州司法長官のエリック・シュナイダーマン氏が代表で「自由な意見交換を可能にするオープンなインターネットは、民主的プロセスに決定的に重要である。ネット中立性規制の撤廃はISPをゲートキーパーに変え得る」という意見を出しています。また、MozillaもワシントンD.C.連邦裁判所に対してFCC決定の有効性に対する異議申立てを行っています。

これに対して、Amazon・Apple・Facebook・GoogleのいわゆるITビッグ4は、「ネット中立性の規制が撤廃される可能性が取りざたされたときに動きが鈍く、反応も乏しく、やるべき努力を怠った」とNew York Timesから批判されました。インターネット上で強大な力を持つ企業としての責任を追求されたことが原因かどうかは不明ですが、その後、Amazon・Facebook・Googleの3社は、ロビー活動団体であるInternet AssociationがFCC方針が連邦法違反であると主張して提起した訴訟に加わる方針を明らかにしています。なお、AppleはInternet Associationとは距離を置いており、ネット中立性を支持するとの意見書をFCCに提出するにとどまっています。

◆今後の展開
アメリカ各州で提起されたFCC方針の連邦法違反を訴える訴訟がどうなるかは不透明ですが、法曹関係者の間では「原告が勝つのは難しいだろう」という意見が主流です。FCCにはネット中立性を含むインターネット関連の規制を決定する裁量権が認められており、FCCの決定が違法であることの立証責任は原告側にあり、この証明は容易ではないことが理由です。ペンシルベニア大学のクリストファー・ヨー教授は、「司法はこの種の法廷紛争において、たいていの場合、専門知識を持つ当局の主張を支持するものです」と述べ、原告は苦戦を強いられると予想しています。

訴訟でFCC決定を覆すことが難しい中で、ネット中立性を維持する唯一かつ正統な方法は、議会による決議です。具体的には、政権の交代によっても運用方針が変更されないネット中立性規制に関する法律の制定がストレートな方法です。

しかし、オバマ政権時と異なり、両院ともを共和党議員が過半数を占めるという現状では、議会によってネット中立性を維持する法律の可決は非常に難しいと言われています。ネット中立性への規制を「インターネットのオバマケア」と呼ぶ共和党のテッド・クルーズ上院議員がいる中で、ネットの中立性を維持する規制の制定には、ネット中立性の必要性を訴える党派を超えた政治家とそれを支えるアメリカ市民の行動が求められています。

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