サイエンス

水と熱を加えるだけで数日で堆肥化される新しい生分解性プラスチックが開発される


生分解性プラスチックとは、微生物の働きによって環境に悪影響を及ぼさないレベルまで分解されるプラスチックのことであり、世界的なプラスチック汚染問題の解決策として期待されています。一方、これまでに開発されてきた生分解性プラスチックには、一般的な堆肥化作業で十分に分解されないなどの問題もありましたが、新たにカリフォルニア大学の研究チームが「水と熱を加えてコンポスター(生ゴミを堆肥化する装置)に入れるだけで、わずか数日で分解されるプラスチック」を開発しました。

Near-complete depolymerization of polyesters with nano-dispersed enzymes | Nature
https://www.nature.com/articles/s41586-021-03408-3

New process makes ‘biodegradable’ plastics truly compostable | Berkeley News
https://news.berkeley.edu/2021/04/21/new-process-makes-biodegradable-plastics-truly-compostable/

Biodegradable plastic that can break down in your compost developed by scientists - ABC News
https://www.abc.net.au/news/science/2021-04-22/biodegradable-plastic-compost-enzymes-environment-soil-green/100082958


2015年の研究によると、世界で廃棄されるプラスチックのほとんどが埋め立て地に送られてしまい、リサイクルされるのはわずか9%だとのこと。そんなプラスチックごみの問題を解決する方法として注目されているのが、微生物の助けを借りて環境に悪影響を与えないレベルまで分解される生分解性プラスチックですが、これにも課題が存在します。

一般的なプラスチックは分子が密に詰まったポリマーで構成されており、耐久性が高い代わりに水や土壌の微生物が浸透して分解できず、廃棄後も環境中に残存し続けます。生分解性プラスチックはこの問題を解決する素材として注目を集めていますが、その多くは厳密に制御された温度や条件を保つ産業堆肥化施設でのみ分解が可能であり、単に土壌や海洋に捨てられた場合は、従来のプラスチックと同等の環境汚染を引き起こす場合があるとのこと。

この問題を解決するため、カリフォルニア大学のTing Xu氏らの研究チームは「酵素」を使用してプラスチックの生分解性を高める方法を模索してきました。新たにXu氏らの研究チームが開発した生分解性プラスチックは、「生分解性プラスチックの原料として広く用いられるポリカブロラクトン(PCL)ポリ乳酸(PLA)の樹脂ビーズ全体に、ポリマーを分解する酵素を分散させる」というものです。

by Adam Lau / Berkeley Engineering

ポリマーを分解する酵素をあらかじめ生分解性プラスチック全体に分散させておくと、本来の用途で使われている最中にも分解が進んでしまいます。そこで研究チームは、酵素を特別に設計したrandom heteropolymers(RHP)と呼ばれるポリマーで包むことにより、プラスチックを分解させずに樹脂ビーズ全体へナノ粒子を埋め込むことにしました。なお、PCLとPLAでは有効な酵素が違うため、PCLにはリパーゼ、PLAにはプロテイナーゼKという酵素を用いているとのこと。

RHPで覆われた酵素はプラスチックの特性を変えることはなく、RHPの劣化を引き起こすには水と少しの熱を加えるだけでいいそうです。研究チームによると、少量の水道水と共に家庭用コンポスターで新開発の生分解性プラスチックを堆肥化させると、わずか数日でプラスチックの98%が劣化してバラバラになったとのこと。酵素によるプラスチックの分解は、産業堆肥化施設の条件でより速くなったそうです。

以下の写真は、左が新たに開発されたPLAを用いた生分解性プラスチックを堆肥に入れた直後の写真、右が堆肥に入れてから1週間後の写真です。PLAプラスチックが酵素の働きによって急速に分解されていることがわかります。

by by Adam Lau/Berkeley Engineering

Xu氏は、RHPを用いてプラスチックを分解する酵素を分散させるという新たなアプローチが、ポリエステル製の衣類や電子機器の接着剤に至るまで、さまざまな範囲で生分解性の高い製品を作るために応用できると主張。「私たちは業界と協力してこれを前進させ、食料品店やカウンターの上にまで広げたいと思っています」とXu氏は述べました。

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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