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人生をスムーズにするために役立つ「ネゲントロピー」の考えとは?


エントロピー」は熱力学において断熱条件下での不可逆性を表す指標として導入されたものであり、熱の出入りがない系の内部変化では、常にエントロピーが増大する方向に起きる(エントロピー増大の法則)と説明されています。さらに近年では、組織や人生にエントロピー増大の法則を適用する動きがあり、「組織は時間と共に乱雑さを増していく」といった説明にエントロピーが持ち出されることがあります。アメリカ・デイトン大学の教育学者であるアリソン・A・カー=シェルマン氏は、エントロピーに対応する概念である「ネゲントロピー」を考えることで、組織や人生の混乱状態を改善できると述べています。

A concept from physics called negentropy could help your life run smoother
https://theconversation.com/a-concept-from-physics-called-negentropy-could-help-your-life-run-smoother-155030


人生はさまざまな決断の連続であり、「脱いだ靴下を拾うかどうか」「庭の手入れをするかどうか」「壊れた蛇口を修理するかどうか」といった選択を日常の中で繰り返しています。それぞれの問題に対処するために必要なエネルギーは少ないものの、全ての問題を放置してしまうと、「脱いだ靴下が散らかり、庭が荒れ、蛇口が壊れている」といったカオスな状況が生み出されてしまいます。これらの問題を全て解決するにはかなりのエネルギーが必要であり、生活の質が下がってしまいます。

そこで社会システムを研究するカー=シェルマン氏は、エントロピーに対応するネゲントロピーという概念を用いることで、生活の中で増大するエントロピーに対処できるのではないかと考えました。ネゲントロピーとはエントロピーが低い状態に保たれていることを指す用語で、エントロピーを減少させる物理量としての意味でも使われます。たとえば、生命は環境に対して開かれているため、呼吸や代謝を通じて環境にエントロピーを排出することで体内のエントロピーを低く保っており、このような作用をネゲントロピーと呼ぶとのこと。

カー=シェルマン氏は、物理学と社会システムの両方でエネルギーは仕事をする能力として定義できると指摘し、多くの学校や企業、非営利団体、地域社会のコミュニティなどでエネルギー損失が見られると主張。たとえば、「次の会議を計画するための会議」や「電子メールを送れば済む内容の会議」を開くことは、関連する人々にとってエネルギーの損失をもたらすだけでなく、最終的に欲求不満がたまった従業員の離職などを引き起こします。

そこで、エントロピーの増大を抑えるネゲントロピーの考えを念頭に置き、エネルギー損失を制限または逆転させるシステムの構築をカー=シェルマン氏は提唱しています。脱いだ靴下をちゃんと拾ったり無駄な会議をなくしたりすることで状況を改善することが、将来のエネルギー損失を避けることにつながるとのこと。


実際にカー=シェルマン氏が同僚と共に開発した「ネゲントロピーを成功させる5つのステップ」が以下の通り。

◆1:エントロピーが増大する場所を見つける
まず、日常生活や社会システムの中でエネルギー損失が起きている場所を特定します。「キッチンの整理が不十分で物が見つけにくい」「新入社員用のシステムが不十分で混乱を招く」といったものが、エネルギー損失を招く部分に当たるとのこと。

◆2:対処するべき損失を特定する
次に、見つけたエネルギー損失箇所の中から最も気になるか、または厄介なものを特定します。

◆3:計画を立てる
最優先で対処する事項を特定したら、エネルギー損失を抑えたり逆転させたりする方法を計画します。問題によっては、「靴下を拾う」といった簡単な解決策であるケースもあれば、「会議のやり方を変える」といった比較的大がかりなケースもあります。

◆4:対処した後も注視する
問題解決のアイデアを実行に移した後もエネルギーの損失に目を向け続け、対策が機能したのか、どれだけの労力を費やしたのか、今後もネゲントロピーを実現する新たな対策があるかを考えるべきだそうです。

◆5:単なる修理とメンテナンスにとどまらない
エネルギー損失を抑えるために働いている中で、「どれほど損失を減らしても根本のシステムに問題があるため、どうしてもスムーズに働くことができない」という現実に直面する場合もあります。ネゲントロピーの考えを社会システムに適用するには、小さなプロセスの改善にとどまらず物事の全体像を捉え、エネルギー損失の対策に乗り出すことが重要とのこと。


カー=シェルマン氏は、「ネゲントロピーのレンズを通して物事を見ることは、悪い人間関係を改善したり嫌いな仕事を愛したりする役には立ちません。これらは複雑な問題です。しかし、あなたが人生のどこでエネルギーが失われているかに気付き始めたら、周囲の社会システムを改善するために優先順位を付けて行動することが容易になります」と述べました。

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in メモ, Posted by log1h_ik

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