海面上昇によって枯れた木ばかりが立ち並ぶ「幽霊の森」が生まれている
by Chesapeake Bay Program
気候変動によって引き起こされる環境の変化や災害は多くの人々を難民化させており、自然に与える影響も甚大です。近年では気候変動によって発生した洪水が原因で木が枯れてしまい、枯れた木ばかりが立ち並ぶ「ghost forests(幽霊の森)」が生まれているとデューク大学の博士課程に在籍するEmily Ury氏が解説しています。
Rapid deforestation of a coastal landscape driven by sea level rise and extreme events - Ury - - Ecological Applications - Wiley Online Library
https://esajournals.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/eap.2339
Sea level rise is killing trees along the Atlantic coast, creating 'ghost forests' that are visible from space
https://theconversation.com/sea-level-rise-is-killing-trees-along-the-atlantic-coast-creating-ghost-forests-that-are-visible-from-space-147971
Ury氏の研究サイトがあるノースカロライナ州沿岸部のアリゲーター・リバー国立野生動物保護区は、気候変動の影響を受けて膝まで水没するほどの洪水が頻繁に発生しているそうです。その結果、すでに成長した木々が枯れてしまう一方で新しい木々が育たず、立ったまま枯れた木ばかりが目立つようになってしまいました。
アリゲーター・リバー国立野生動物保護区の他にも、ノースカロライナ州の大西洋沿岸には至る所で枯れた森林が見られます。海面上昇による湿地への影響を調べるUry氏は、慢性的な洪水が気候変動によって引き起こされたものであり、大西洋沿岸の景観を変えてしまっていると指摘。沿岸部での洪水は単に雨水や河川の水があふれるだけでなく、海水も混ざった水が地表を覆うため、冠水した土壌の塩分濃度を高めるとのこと。
「全ての生き物と同じように木は死にますが、ノースカロライナ州沿岸部で起きていることは尋常ではありません。多くの木々が一斉に枯れるものの、代わりとなる苗木が成長していません。これは一部地域の問題というだけでなく、海水面の上昇はメイン州からフロリダ州までの大西洋沿岸の平野全体に広がる森林地帯の塩分レベルを上昇させており、隣接する広大な森林が死にかけています」とUry氏はコメント。洪水などによる塩分濃度の上昇によって木々が枯れた森は、科学会では「幽霊の森」として知られています。
by Chesapeake Bay Program
気候変動に伴う海水面の上昇によって、ノースカロライナ州沿岸部の平野に海水が混ざった水が氾濫し、土壌に浸透する塩分の量が増加しています。塩分は淡水が減少した干ばつ時などに地下水の中を移動したり運河を通り抜けたりして、風や満潮の影響も受けて内陸に浸透していくとのこと。
Ury氏らの研究チームはアリゲーター・リバー国立野生動物保護区における植生を、NASAやアメリカ地質調査所が運用する観測衛星「ランドサット」のデータやGoogle Earthを用いて、35年間にわたり追跡しました。この研究でUry氏らは、保護区の内部は人間の開発による直接の影響を受けないにもかかわらず、森林全体の30%以上で植生が変化し、10%以上が「幽霊の森」になってしまったことを発見しました。森林は塩分濃度の上昇に適応して植生を変化させることができるものの、それを上回るスピードで塩分濃度が上昇すれば木々が育ちません。
以下の写真を見ると、道路の右側にある健全な森林は鮮やかな緑である一方、道路の左側にある「幽霊の森」では木々が枯れてしまっていることがよくわかります。
アリゲーター・リバー国立野生動物保護区周辺における植生の変化は、絶滅の危機に瀕するアメリカアカオオカミやホオジロシマアカゲラといった動物にも連鎖的に影響します。また、森林は大量の炭素を貯蔵しているため、森林喪失によって炭素が放出されてさらに気候変動が進んでしまうとのこと。
世界的な海水面の上昇に伴う土壌の塩分濃度の上昇に対応するため、各国の保全コミュニティはさまざまな対応策を採っています。たとえば、ノースカロライナ州のNature Conservancyという団体は、高潮から森林を守るために植物・砂・岩からなる「生きた海岸線」を構築し、従来の森林を守ろうと試みています。
また、より根本的なアプローチとしてUry氏が挙げるのが、「『幽霊の森』になる危険がある地帯に耐塩性の高い植物を導入する」というもの。従来の生態系とは違う植物を導入するアプローチは物議を醸していますが、森林が枯れつつある場合、せめて別の植物を成長させることがはるかに多くの利益をもたらすとUry氏は主張しました。
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