サイエンス

人間は問題解決のために新しい要素を「追加」しがちであり既存の要素を「取り除く」ことは不得意


長い間、自転車の乗り方を学ぶための最も優れた方法は「補助輪を付けること」と考えられてきましたが、近年ではストライダーのようなペダルも補助輪もないランニングバイクが、自転車の練習に好ましいと考えられるようになっています。このように人間は問題解決のために新しい要素を追加しがちであり、既存の要素を取り除くことは不得意であることが明らかになっています。

Adding is favoured over subtracting in problem solving
https://www.nature.com/articles/d41586-021-00592-0

Our Brain Typically Overlooks This Brilliant Problem-Solving Strategy - Scientific American
https://www.scientificamerican.com/article/our-brain-typically-overlooks-this-brilliant-problem-solving-strategy/

自転車の乗り方を学ぶのにランニングバイクが補助輪よりも優れているように、多くのケースで「何かを付け足す」のではなく「何かを取り除く」ことが、より優れた問題解決方法となるケースがあります。例えば、ヨーロッパの一部の都市では道路の安全性を高めるために、信号機や道路標識を取り除く「共有空間」という手法が採用されていますが、これは従来の交通設計とは正反対の考え方です。


バージニア大学でエンジニアとして働くレイディー・クロッツ氏は、何かしらの問題が発生した場合、要素を取り除く形で問題を解決しようとするケースが少ないことに気づきました。そこで、クロッツ氏は同大学の社会心理学者であるガブリエル・アダムス氏と共に、人間の問題解決能力に関する調査をスタート。2人は「何かしらの問題が発生した際に、既存の要素を取り除く形で問題を解決しようとするケース」が珍しい理由について、何かしらの心理的な作用が働いているのではないかと仮説を立てます。

2人は仮説が正しいか否かを検証するための調査を行いました。クロッツ氏によると、同種の研究は存在しなかったため、文献主導の研究は行うことができなかったとのことです。クロッツ氏ら研究チームはまず、91人の被験者に対して複数の色つきブロックを追加もしくは取り除くことで、左右対称な模様を作るように依頼しました。この実験でブロックを取り除くことで左右対称な模様を作り出したのは、91人中18人(20%)のみだったそうです。

さらに、バージニア大学の次期学長向けに提出された651件のアイデアを精査したところ、既存の規制や慣行、プログラムの廃止につながるもの、つまりは「既存の要素を取り除く形で問題を解決しようとしたアイデア」は全体のわずか11%のみだったことも明らかになっています。他にも、エッセイや旅程の変更を伴うようなタスクの場合でも、同じように既存の要素を取り除く形で問題を解決しようとするケースは少なかったそうです。


研究チームはさらに、Amazon Mechanical Turkで募集した1500人以上の被験者を対象に、8つの実験を実施。「土台の上に置かれた単一のブロックにより支えられたレゴの屋根を安定させる」という実験では、ブロックを1つ追加するのに10セント(約11円)かかる一方で、ブロックを取り除くことは無料で可能という風に設定し、レゴの屋根を安定させることに成功した場合には1ドル(約110円)の報酬が支払われました。

この実験は明らかに「既存の要素を取り除く形で問題を解決する」方がお得ですが、このように問題解決に「要素を追加する方法と取り除く方法の2つがある」と明確に提示した場合、被験者は要素を取り除く形で問題を解決する方法を選ぶ頻度が高くなることが明らかになっています。なお、同時に別のタスク(画面上の数字を追跡するなど)を処理するように求められた場合、既存の要素を取り除く形で問題解決するケースがさらに少なることも明らかになっており、要素を取り除く形の問題解決は「より労力のかかる方法」であることが示唆されています。


研究チームは今回の研究結果について、「要素を取り除く形の問題解決を検討することは、必ずしも難しいものではありませんが、その方法を見つけることにより多くの労力を要します」と語りました。

ニューヨーク大学の消費者心理学者であるトム・メイビス氏は、「要素を取り除く形で問題解決を見つけ出す方法は、要素を追加する形で問題解決を見つけ出す方法よりも明らかに考慮されない傾向にあると、確信を持って言えます」と語りました。さらに、企業や組織が問題解決時に物事を単純化(要素を取り除く)するのではなく複雑化(要素を追加)する傾向にあることは明らかであり、これは物事を複雑にするような解決策の方が人々に評価される傾向にあるため、と説明しています。

なお、「要素を追加する形で問題を解決する方が優れている」というバイアスが文化全体で一般化するのか、それとも幼少期の体験に由来するのか、はたまた時間の経過とともに発展するのかは記事作成時点では不明です。

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
問題解決能力を格段に上げる「構造化思考」のコツと具体的な実践方法 - GIGAZINE

問題を解決するシンプル&抜本的な方法を導く「上りの考え方」を旅行サイトExpediaの事例から学ぶ - GIGAZINE

あなたの問題解決能力をテストするパズルで学ぶ「確証バイアス」 - GIGAZINE

問題解決には「他人のため」という視点が効率的に答えを導き出せることが判明 - GIGAZINE

in サイエンス, Posted by logu_ii

You can read the machine translated English article here.