イスラエルの「隠し核施設」の秘密活動が誰にでも観測可能になったのは考古学者が「衛星画像のぼかし」を除去しようとしたおかげ
人工衛星からの映像を手軽に確認できる「Googleマップ」や「Google Earth」のようなネットサービスでは、一部の映像に「ぼかし」がかかっていることがあります。自身の研究中にイスラエルの航空写真にぼかしがかかっていることに気づいた2人の考古学者の働きかけによってアメリカの法制度が変更された結果、イスラエルの核施設で新たな研究プロジェクトが進められていることが明らかになりました。
Clearer view of secretive Israeli nuclear facility is visible by satellite thanks to two archaeologists - ABC News
https://www.abc.net.au/news/2021-04-05/archaeologists-accidentally-expose-israeli-nuclear-facility/100043518
物語の始まりとなったのは、2017年のある日の夜遅く。ヨルダンとイスラエルの間に存在するヨルダン川西岸地区について共同研究を行っていたオックスフォード大学の考古学者、マイケル・フラッドリー氏とアンドレア・ゼルビーニ氏は、分析していたイスラエルの衛星画像が不自然にぼけていることに気がつきました。2人はイスラエルで撮影された写真を全て調べましたが、どれもが地表の建造物の詳細を確認できないほどぼけていたとのこと。
この衛星写真のぼけは、アメリカに存在する「カイル-ビンガマン修正条項」という法律が原因。1990年代を通して急速に進歩し続けてきた衛星映像技術に関し、イスラエル政府は第二次世界大戦後の冷戦を理由にアメリカでロビー活動を展開。その結果、アメリカには「イスラエルに限っては、すでに公開されている映像よりも高解像度の衛星画像を収集・配布してはいけない」という法律が1997年に制定されました。これがカイル-ビンガマン修正条項です。
一般利用できる衛星システムの市場は、長きにわたってアメリカが独占してきました。そのため、フラッドリー氏とゼルビーニ氏が利用した衛星画像は、カイル-ビンガマン修正条項によって「検閲」されていたものでした。
この問題に好奇心をかき立てられた両氏は、2週間にわたって解決法を模索。その結果、フランスの航空宇宙企業であるエアバスが衛星画像を提供していることを発見します。エアバスはアメリカ企業ではなかったのでカイル-ビンガマン修正条項の縛りを受けず、イスラエルとパレスチナ自治区の高解像度衛星画像を独自に公開していました。
エアバス製の衛星画像を入手した両氏は、アメリカの衛星システムに関する規制を統括する海洋大気庁に対し、「カイル-ビンガマン修正条項は『イスラエルに限っては、すでに公開されている映像よりも高解像度の衛星画像を収集・配布してはいけない』というものだが、イスラエルとパレスチナ自治区に関してはエアバス製の高解像度衛星画像がすでに公開されている」と通達しました。
フラッドリー氏らの通達を受けて、議論が重ねられた結果、2020年7月にカイル-ビンガマン修正条項は「イスラエルを例外とする」旨が削除されることとなりました。現代では各種サービスで入手できるイスラエルの衛星画像には、不自然なぼかしは入らなくなっています。
こうして誰でもイスラエルの衛星画像を確認できる時代が訪れた結果、イスラエルに関する「新たな発見」がたびたび報じられるようになっています。直近では、2021年2月に原子力専門家の国際研究グループがイスラエルの秘密核施設であるネゲブ核研究センターに「新たな施設が建設されつつある」と報告しました。
AP通信が入手したネゲブ核研究センターの鮮明な画像が以下。サッカー場ほどの広さの土地が掘り起こされているのが確認できます。こうした発見は、フラッドリー氏とゼルビーニ氏がカイル-ビンガマン修正条項の問題に取り組まなかったならば、日の目を見なかったとされています。
以上のように衛星画像の問題に貢献した両氏のうち、ゼルビーニ氏は2018年に肝臓がんによって亡くなっています。今回の解説を報じたABCニュースに対し、フラッドリー氏は「彼との仕事で一番最初に思い出すのは、イスラエルの衛星画像の一件です。私たちは成し遂げた仕事について、非常に誇りに思っています」とコメントしました。
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