80以上のチャンネルがあるアメリカの地上波放送に「37チャンネル」がない理由とは?
有料放送を含むとアメリカには数百のテレビ局が存在しており、それぞれ別々のチャンネルでさまざまな番組を放送しています。そんな多くのチャンネルが存在するアメリカですが、なぜか「チャンネル37」が存在しないとのことで、その理由をテクノロジーメディアのMotherboardがまとめています。
Why Channel 37 Doesn’t Exist (And What It Has to Do With Aliens)
https://www.vice.com/en/article/dy8by7/why-channel-37-doesnt-exist-and-what-it-has-to-do-with-aliens
1952年、連邦通信委員会(FCC)が極超短波(UHF)をテレビ向けに解禁しました。この日を境にアメリカのテレビ局の数は108局から2051局に一気に増加することとなったそうです。
FCCがテレビ向けにUHFを解禁した当初、608MHz~614MHzの帯域が「チャンネル37」として用いられることになっていて、1952年時点で、このチャンネル37は18のテレビ局に割り当てられました。
しかし、UHF解禁と時期を同じくして、イリノイ大学が全長400フィート(約122m)の電波望遠鏡をイリノイ州ダンビルに建設しました。この電波望遠鏡は、観測に600MHz帯の周波数を用いていました。
イリノイ大学の電波望遠鏡の建設で中心的な役割を果たした宇宙学者のGeorge C. McVittie氏は、当時を振り返り「我々はこの電波望遠鏡を作りたかったのです。そのために、電波望遠鏡の開発メンバーであるジョージ・スウェンソンに、オーストラリアやイギリスにある電波天文台を視察させたところ、彼はパラボリック・シリンダーというアイデアを持ち帰ってきました。そして、これを実現させる場合、技術的な理由から600MHz程度の周波数でなければ巨大な電波望遠鏡は作れないと開発チームは判断。もしも600MHz以外の周波数を用いた場合、反射鏡の完成度を上げるには波長を短くする必要があり、そうなると少なくとも当時(1950年代後半)の技術では1エーカー(約4000平方メートル)規模の電波望遠鏡を完成させることができませんでした。そのため、我々は電波望遠鏡に600MHz帯を使用することを選びました」と語り、観測に600MHz帯の周波数を採用した理由を説明しています。
1959年に開催された国際電気通信連合の会議において「科学的および技術的用途にとって重要な周波数の一部が確保される」という取り決めがあり、600MHz帯を含む複数の周波数が確保対象となりました。しかし、電波望遠鏡を運用するイリノイ大学はそれだけでは足りないと考え、1960年、FCCに対して「600MHz帯を電波望遠鏡だけに割り当てる」ことを求める申請を行いました。
McVittie氏によれば当時、電波天文学の仲間からですら「アメリカ国民に対して科学のために1つのテレビチャンネルをあきらめてほしいと頼み込むつもりですか?こんなバカげたことは聞いたことがありません」と言われたそうで、申請を受けたFCCにも、600MHz帯を科学・技術用途のみに割り当てるのは時期尚早であると判断されたとのこと。
McVittie氏らが懸念したとおり、数年後にはダンビルからぎりぎり600マイル圏外となるニュージャージー州から、チャンネル37についての問い合わせが殺到することになります。特に、ニュージャージー州パターソンでは、FCCの規制をはじめとした制限によって、「チャンネル37以外でテレビを放送する」という選択肢がなかったそうです。しかし、たとえ600マイルのぎりぎり圏外であっても、チャンネル37での放送が行われることは研究の妨げになる恐れがあります。
そのため、当時のFCCは「少なくとも1968年まで、電波望遠鏡の半径600マイル以内にチャンネル37を用いる放送局を存在しないようにすることで、科学者のMcVittie氏は600MHzの周波数を用いた電波望遠鏡での観測を完了させられる」「チャンネル37の下にリストされている放送局は、0~7時の間に何も放送できないようにすることで、McVittie氏は実質1日数時間の調査時間を確保することが可能になる」といった2つの妥協案をあげています。
その後、FCCはカナダやメキシコといった近隣諸国に対しても同じように電波天文学で用いられる周波数の使用を禁止することを奨励。ついに1963年10月、アメリカ国内でチャンネル37(610MHz帯)の使用を10年間禁止することを発表しました。のちに、この措置は「チャンネル37の恒久的な使用停止」へと変更されています。
当初、FCCはチャンネル37を10年間使用しないとしていましたが、最終的に恒久的な使用停止へと規制を変更しています。FCCが考えを変えていった具体的な理由については、「電波天文学の発展をFCCが妨げようとしている」というウワサがアメリカ中にまん延し、その後、多くの研究者や科学者から抗議の手紙が殺到したことがきっかけのひとつとなったともいわれています。
このほかの理由として、パターソンでチャンネル37を運用した場合に、ダンビルの電波望遠鏡と電波干渉が起きる可能性があり、その干渉の発生が観測プロセスの重要なタイミングで起きないとは限らないことから、FCCがリスクを冒さない判断をしたのではないかとMotherboardは推測しています。
こういった経緯で、最終的にチャンネル37は北米および周辺諸国でアナログ放送時代から全く使用されることなく続いています。ただし、ドミニカ共和国を含むカリブ海諸国やトリニダードトバゴといった一部の国にはチャンネル37が存在する模様。
その後、FCCは2000年にチャンネル37に割り当てられていた600MHz帯をワイヤレス医療テレメトリサービスで使用することを許可します。これについて、FCCは「600MHz帯には既存の制約が存在しますが、ワイヤレス医療テレメトリサービスに割り当てることで、電波天文学や政府活動を保護しながら、有効に電波を活用することが可能になります」と述べています。
Motherboardはチャンネル37が使用されなかった理由について、「唯一の理由は、非営利団体やテクノロジー業界の人々が集まって熱心なロビー活動を行ったためです」と語り、当時の研究者たちの行動のたまものであると称賛しています。
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