サイエンス

人間の脳を他の霊長類よりも発達させている遺伝子が特定される


人間の脳に関する研究は多く行われており、2021年3月には、人間の脳が「小さくて素早い獲物を狩るために大きく進化した」とする説も発表されています。イギリスのMRC分子生物学研究所に所属する研究チームは新たに、人間の脳が他の霊長類の脳と比べて発達している理由と、発達に寄与する遺伝子を明らかにしました。

An early cell shape transition drives evolutionary expansion of the human forebrain: Cell
https://www.cell.com/cell/fulltext/S0092-8674(21)00239-7


研究チームは、ヒト・ゴリラ・チンパンジーの脳組織の発達を観察するために、幹細胞を用いて脳オルガノイドと呼ばれる疑似的な脳組織を作成しました。

脳オルガノイドの形成過程では、実際の脳と同様に、神経細胞へと細胞分化する細胞を形成する神経幹細胞が現れます。この神経幹細胞は成熟すると小さくなり、成熟が遅いほど多くの神経細胞が形成されることが知られています。また、霊長類と比べて知能が低いマウスの神経幹細胞は、数時間で成熟することが過去の研究で明らかになっていました。

以下の画像は、脳オルガノイドの培養開始から3日目と5日目の神経幹細胞の成熟状態を示しています。ヒトの脳オルガノイドの神経幹細胞(左)は、3日目も5日目も似た形状ですが、ゴリラの脳オルガノイドの神経幹細胞(右)では、5日目には神経幹細胞が成熟し、小さくなっていることが分かります。


このことから、研究チームは「ヒトの神経幹細胞は、他の霊長類の神経幹細胞と比べてゆっくりと成熟します。そのため、多くの神経幹細胞が形成され、脳組織が大きくなり、脳容量も大きくなると考えられます」と主張しています。実際に、ヒト(左)・ゴリラ(中央)・チンパンジー(右)の培養開始から5週間目の脳オルガノイドの写真を確認すると、ヒトの脳オルガノイドが最も大きく成長していることが分かります。


研究チームは、神経幹細胞の成熟速度が生物によって変化する原因を調査。その結果、ゴリラの神経幹細胞で「ZEB2」と呼ばれる遺伝子が発現していることを発見しました。研究チームはZEB2が神経幹細胞の成熟を促進させていると予測。実際にヒトの神経幹細胞でZEB2を発現させたところ、ゴリラと同様の期間で神経幹細胞が成熟することが確認されました。


さらに、ゴリラの神経幹細胞において、ZEB2の発現を抑制したところ、神経幹細胞の成熟期間が伸びることも確認されました。研究チームは「今回の実験は、脳オルガノイドを用いて行われています。そのため、実際の霊長類の脳でZEB2が同様に働くとは限りません」と前置きしつつ、「今回の発見は、ヒトと他の霊長類の脳の大きさの違いを説明する重要な足がかかりです」と述べています。

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in サイエンス,   生き物, Posted by log1o_hf

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