サイエンス

哺乳類にも「網膜を再生させる遺伝子」が存在することが判明


網膜の損傷は人間が失明する主な原因ですが、一部の魚や両生類では網膜が損傷しても細胞が再生され、元通りに修復されることが知られています。ジョンズ・ホプキンズ大学などの研究チームが魚・鳥・マウスを対象に行った実験により、哺乳類の体にも「網膜を再生する遺伝子」が存在するものの、この能力が不活性化されていることが判明しました。

Gene regulatory networks controlling vertebrate retinal regeneration | Science
https://science.sciencemag.org/content/370/6519/eabb8598

Johns Hopkins Scientists Find Mammals Share Gene Pathways That Allow Zebrafish to Grow New Eyes
https://www.hopkinsmedicine.org/news/newsroom/news-releases/johns-hopkins-scientists-find-mammals-share-gene-pathways-that-allow-zebrafish-to-grow-new-eyes

Some Fish Can Regenerate Their Eyes. Turns Out, Mammals Have Those Genes Too
https://www.sciencealert.com/mammals-have-the-same-gene-pathways-that-let-zebrafish-grow-new-eyes


人間は損傷した網膜を修復することができないものの、ゼブラフィッシュをはじめとする魚や両生類は網膜を修復することが可能です。また、ふ化直後のニワトリ(ヒヨコ)にもわずかに網膜再生能力が備わっているそうですが、成長するに従ってこの能力は失われるとのこと。

動物における網膜再生で重要な役割を担っているのが、グリア細胞の一種であり網膜を支えるように存在するミュラー細胞です。ミュラー細胞は哺乳類の網膜にも存在し、通常時は神経伝達物質やその他のゴミを掃除したり、重要な分子を蓄えたり、網膜細胞を物理的にサポートしたり、必要に応じて免疫系の助けを求めたりする機能を持っています。

ゼブラフィッシュをはじめとする再生能力を持つ動物の網膜が損傷すると、ミュラー細胞が網膜で光刺激を受容する錐体(すいたい)細胞桿体(かんたい)細胞、大脳につながる視神経といった主要な細胞に分化し、網膜を再生させることが知られています。

by Thierry Marysael

これまでの研究から、人間は遺伝子の70%をゼブラフィッシュと共有しており、共有する遺伝子の中には網膜の再生に関するものも存在すると判明していますが、人間に網膜再生の機能はみられません。この理由を探るべく、研究チームはゼブラフィッシュ・ヒヨコ・マウスの網膜を損傷させ、ミュラー細胞がどのように反応するのかを観察する実験を行いました。

実験の結果、網膜損傷直後は全ての動物のミュラー細胞において、損傷を封じ込めて組織をきれいにし、潜在的な侵入者と戦う免疫細胞を呼び込む遺伝子が発現したことが判明。いずれの動物でもミュラー細胞が同じような振る舞いを見せた点は、研究チームを驚かせたそうです。


ところが時間が経過するにつれて、各動物のミュラー細胞は異なる動きを見せました。ゼブラフィッシュでは細胞の成熟に関連する遺伝子が活性化され、ミュラー細胞がより原始的な状態に戻されて、網膜を構成するさまざまな細胞へ分化しました。一方、ヒヨコでは遺伝子の一部のみが活性化されてゼブラフィッシュよりはるかに低い再生能力を示し、マウスではミュラー細胞が網膜細胞に分化することはありませんでした。

分析の結果、いずれの動物でも網膜損傷後に転写因子として働く核内因子Iの生成が停止されたものの、マウスでは比較的早い段階で生成が再開されていたことが判明。研究チームによると、核内因子Iがミュラー細胞の再生能力をブロックする働きを持っているとのことで、核内因子Iの生成を阻害すると、マウスでもミュラー細胞が網膜細胞に分化し始めたと述べています。


今回の研究結果は、網膜を再生させる能力が動物にデフォルトで備わっており、進化の過程で再生能力が不活性化されたことを示唆しています。研究を行ったジョンズ・ホプキンズ大学のSeth Blackshaw教授は、「私たちの研究は、再生の可能性が人間を含む哺乳類にも備わっていることを示していますが、いくつかの進化の圧力がそれを止めました」とコメント。

研究チームは哺乳類から網膜再生能力が失われた理由について、中枢神経系の再生と病原体に対する抵抗性が、トレードオフの関係にあるのではないかと考えています。ミュラー細胞を含むグリア細胞は病原体の感染拡大を制限するのに役立つため、その他の細胞に分化して病原体への抵抗力を失わないよう、脳や神経組織が病気になりやすい動物で再生能力が不活性化された可能性があるとのこと。

Blackshaw氏は、「特定のウイルスや細菌、さらに寄生虫が脳に感染する可能性があることを私たちは知っています。感染した脳細胞が成長し、視神経を介して感染を広げることが可能となった場合、それは悲惨なことになりかねません」と述べました。

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in サイエンス,   生き物, Posted by log1h_ik

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