驚異的な再生能力を持つプラナリアの幹細胞に「死を遅らせる能力」があることが判明
幹細胞は分裂して自分と同じ細胞を作る自己複製能力に加え、別の種類の細胞に分化する能力を持っているため、生物の発生や組織の再生などに大きな役割を担っています。新たな研究で、高度な再生能力を持つプラナリアの幹細胞が「死を遅らせる能力」を持っていることが判明しました。
Injury Delays Stem Cell Apoptosis after Radiation in Planarians: Current Biology
https://www.cell.com/current-biology/fulltext/S0960-9822(20)30424-3
Stem cells shown to delay their own death to aid healing | Cornell Chronicle
https://news.cornell.edu/stories/2020/05/stem-cells-shown-delay-their-own-death-aid-healing
プラナリアは人間と同様に脳や類似する臓器、そして幹細胞を持っているため、基礎研究のモデル生物として頻繁に利用されます。また、プラナリアは全ての体細胞に分化することのできる全能性幹細胞を全身に持っていることが知られており、体が損傷した場合の再生能力が非常に優れていることから、再生能力を研究するためのモデル生物としても利用されています。プラナリアは増殖の手段として自らの体を分割するたけでなく、メスなどでプラナリアの体をバラバラに切り刻んでも、栄養環境が整っていればそれぞれの断片が再生して生き延びられるとのこと。
幹細胞は放射線に対して非常に敏感であり、プラナリアに低線量の放射線を照射すると体内の幹細胞が線量に応じた分だけ死ぬことがわかっています。コーネル大学の研究チームは大量のプラナリアを放射線にさらし、そのうち半数は放射線にさらした後に傷を付けました。
傷がないプラナリアは予測された量の幹細胞が死んでいることがわかりましたが、傷を付けた方のプラナリアでは幹細胞が予測どおりの数が死なず、傷の周囲に集まって組織の再生を開始していたとのこと。論文の筆頭著者であるDivya Shiroor氏は、「プラナリアの幹細胞は、困難な状況でも死を遅らせることによって負傷に対応します」「私たちの研究は、放射線に被ばくした直後に動物が負傷した場合、放射線によって誘発される避けられない細胞死が、大幅に遅延する可能性があると示しました」とコメントしています。
by Jon Sullivan
プラナリアは人間と類似した機能を持っている一方で、免疫系が人間のものほど複雑ではなく、治癒過程もシンプルです。「これにより、幹細胞に対する放射線と負傷の影響を理解するプロセスが簡略化され、負傷の治癒と同時に生じる炎症などのプロセスに邪魔されることなく研究を行うことができます」と、Shiroor氏はコメント。
研究チームはプラナリアの幹細胞が死を遅らせる方法について、アポトーシス(細胞死)の中心的な調節因子であるMAPキナーゼERKが関わっていると考えています。通常であれば、放射線の照射によって幹細胞のアポトーシスが誘発されますが、体に傷が付いたことでMAPキナーゼERKが活性化し、幹細胞の死を遅らせていると研究チームは結論付けています。
プラナリアの幹細胞が放射線による細胞死を延期させる方法について理解することで、がん患者に対する化学療法の研究などに重要な影響を与えられる可能性があるとのこと。幹細胞の死を遅らせる能力に関連する、哺乳類と共通した遺伝子を特定することで、既存の治療法を改善できるかもしれないとShiroor氏は述べました。
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