サイエンス

記憶は一体どこに存在するのか?

by Tumisu

再生力が強いことで知られているプラナリアを使った過去の実験では、頭部を切除しても再生した個体は記憶を保持していることが示唆されています。それでは、「記憶は一体どこにあるのか?」という疑問について、アメリカの科学誌Nautilusが複数の実験や研究の結果から考察しています。

The Bizarre Science of Memory
http://nautil.us/blog/memories-can-be-injected-and-survive-amputation-and-metamorphosis

ミシガン大学の生物学者で、SF作家でもあったジェームズ・マコーネル教授は、1950年~1960年にかけて行ったプラナリアに関する実験で、一躍有名人となりました。マコーネル教授が行った実験とは、プラナリアにライトの点滅と電気ショックを与える訓練を施してから、プラナリアを切断するというものです。頭部だけになったプラナリアは尾を再生させてからも、ライトが点滅すると電気ショックを受けることを記憶しており、訓練していない個体よりも素早く刺激に反応しました。しかし、大方の予想に反して、頭部から再生した個体だけでなく、尾部から再生した個体も同様に訓練の記憶を持っていました。

プラナリアが一体どこに記憶を蓄積しているのか疑問に思ったマコーネル教授は、スウェーデンの神経学者Holger Hyden氏が発表した、「記憶は神経細胞のRNAにある」との研究結果に触発されて、簡単な迷路をクリアするよう訓練されたプラナリアを他のプラナリアに捕食させる実験を行いました。その結果、訓練されたプラナリアを共食いしたプラナリアが、迷路を覚えているような行動をしたことから、マコーネル教授は「プラナリアの記憶はメモリーRNAという物質を介して移植可能である」と主張しました。しかし、当時はプラナリアのような単純な無脊椎動物が迷路を覚えられるとは考えられていなかったことや、マコーネル教授が「Worm Runner's Digest」というマンガを出版して、研究結果をおもしろおかしく紹介したことなどから、マコーネル教授の研究はあまり重要視されず、やがて忘れ去られていきました。


マコーネル教授の研究が再び脚光を浴びたのは、タフツ大学のタル・ショムラット氏とマイケル・レヴィン氏が再びプラナリアを用いた実験を行ったときのことです。研究者らは、プラナリアが持つ光を避ける性質を利用して、プラナリアの餌に光を当てて、光がある方に餌があることを学習させる訓練を行いました。そして、訓練済のプラナリアの頭を切断してから、再生後の個体が光を当てた餌にたどりつくまでの時間を計測し、訓練を行っていない個体と比較しました。その結果、どちらのプラナリアも最初は餌にたどりつくまでの時間は変わりませんでしたが、光がある方向に餌があることを学習するスピードは、訓練後に頭を再生させた個体の方が明らかに早かったとのことです。ショムラット氏らはこの結果から、「マコーネル教授がかつて行った実験で示されたように、プラナリアの記憶は脳の外に蓄積されている可能性がある」と述べました。

カリフォルニア大学ロサンゼルス校の神経科学者であるデイヴィッド・グランツマン氏らの研究グループは、マコーネル教授の研究をさらに発展させた実験を行いました。グランツマン氏はまず、アメフラシに微弱な電流を与える訓練を行って、その反応を観察しました。電流を受けたアメフラシは、水管という器官を体に引き込んで防御反応を行いますが、訓練を行っていないアメフラシは電流を受けても短時間しか水管を引っ込めなかった一方で、繰り返し電流を受けたアメフラシは1分近く水管を引っ込めるようになったとのこと。さらに、グランツマン氏が訓練済みのアメフラシの神経からRNAを抽出して、訓練を行っていないアメフラシに注入したところ、訓練を受けていないアメフラシも長時間水管を引っ込めるようになったとのことです。

グランツマン氏らの実験の詳細は、以下の記事に詳しく書かれています。

「記憶を別の個体に移植すること」が可能であるとアメフラシを使った実験で示される - GIGAZINE


タフツ大学のダグラス・ブラキストン氏は、水生生物ではなく昆虫を使って、グランツマン氏らとは違った観点に立った実験を行いました。ブラキストン氏は最初に、タバコスズメガの幼虫に酢酸エチルの匂いをかがせてから、軽い電気ショックを与えました。すると、タバコスズメガの幼虫は次第に酢酸エチルの匂いを避けるようになりましたが、この行動はタバコスズメガが成虫になった後にも見られたとのことです。ブラキストン氏は、「ガの幼虫は、蛹の中で脳を含めた体全体をドロドロに溶かしてから変態を遂げるにもかかわらず、記憶を保持していました」と指摘しています。

by 7and

Nautilusのライターであるマルコ・アルタミラーノ氏は「これまで、記憶は脳のニューロンが結合することによって形成されるシナプスに保存されていると考えられてきました。しかし、シナプスが異なる別個体同士の間や、シナプスが作り直される変態の前後でも記憶が保持されるという実験結果は、アルツハイマー病患者にとっての明るいニュースというだけでなく、適切なRNAの誘導によって失われた記憶を取り戻したり、ニューロンを再生したりできるようになることを示唆しています」と述べました。

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in サイエンス,   生き物, Posted by log1l_ks

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