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伝説のiPhone発表プレゼンなどスティーブ・ジョブズの基調講演を20年にわたりプロデュースし続けてきた人物とは?


Appleの基調講演といえば、新製品の発表時に用いられた「One more thing...」というフレーズなど、今は亡きスティーブ・ジョブズに関する思い出が多く残っているという人も多いはず。そんな印象深いジョブズによる基調講演を20年にわたりプロデュースし続けてきたという人物に対して、Cakeの共同創設者であるクリス・マッカスキル氏がインタビューしています。

The man who produced Steve Jobs’ keynotes for 20 years. - Cake
https://www.cake.co/conversations/jNZlq6j/the-man-who-produced-steve-jobs-keynotes-for-20-years

スティーブ・ジョブズは1976年にAppleを創業したものの、業績悪化や社内での関係悪化が理由で1985年にすべての業務から解任されます。その後、ジョブズはNeXTを設立し、ピクサーを買収するなどの活躍をみせます。これらの活躍が認められる形で、ジョブズは1996年に再びAppleに復帰することとなりました。そんなジョブズの代名詞とも言える基調講演を、NeXT時代から20年にわたり支え続けてきたという人物が、ウェイン・グッドリッチ氏です。

ジョブズが1985年に設立したNeXTは、当初はハードウェアとソフトウェアの両方を開発していたものの、1993年にハードウェア事業から撤退してソフトウェア事業に特化する方向にシフトします。当時NeXTで働いていたというグッドリッチ氏は、ハードウェア事業からの撤退を機に同社を解雇されたものの、ジョブズ本人から連絡があり「NeXTでジョブズの基調講演をプロデュースする」という新しい仕事を得ることとなったそうです。


ジョブズがiPhoneを発表した2007年のAppleの基調講演は「ビジネス史上最高のプレゼンテーション」と呼ばれることもあります。

iPhone を発表するスティーブ・ジョブス(日本語字幕) - YouTube


そんなジョブズの基調講演をプロデュースしてきたグッドリッチ氏に対して、マッカスキル氏は「ジョブズのプレゼンにはヒーローや悪役、どんでん返しなどユーモラスな側面が多くあります。あなたがスティーブと過ごした時間は、基調講演のプロデュースに影響を及ぼしましたか?」と質問しています。

グッドリッチ氏は「絶対に影響しましたね!NeXTでのスティーブのプレゼンテーションは原始的なもので、その後のピクサーでの経験により、iPhone発表時の劇的なストーリーテリングなどに影響が出たのは明らかです。ほとんどの人が気づいていないのは、90分間のプレゼンテーションにはピクサー映画のように感情的な起伏が存在するという点です。プレゼンテーションにはヒーローと悪役、アクションパート、ユーモアとプロットのひねりなどが存在します。観客を飽きさせないように気を付けなければいけません。クライマックスまでの展開を管理しなくてはいけません。スティーブはこのことを誰よりも理解していました」と回答しました。

続けて「iPhone発表時のプレゼンテーションの準備にはどれくらい時間がかかりましたか?」という問いに対して、グッドリッチ氏は「かなり時間がかかりました!スティーブが基調講演の準備に投資した時間について、他のCEOが想像することはなかったでしょうね。最も重要なものについては3カ月ほど前から準備を始めていました。彼は通常業務を14時まで行い、その後の数時間を私と一緒にプレゼンテーションの準備のために使いました。その後、休憩を挟んで再びプレゼンテーションの準備を行い、私たちは真夜中まで作業していました。時には朝の6時まで作業していましたね」と回答し、プレゼンテーションの準備にかなりの時間を費やしていたことを明かしています。

また、iPhone発表時のプレゼンテーションについて、「観客が魔法の瞬間に囚われるように、物事がどのように行われているのかについて、考えがおよばないようにプレゼンテーションを行いたいと思っていました。iPhoneの発表時には端末を横向きにするとディスプレイ上の写真も自動で回転することを示したかったので、スティーブが手に持っていた実際のiPhoneをカメラで映すのではなく、iPhoneの映像だけをスクリーン上に投影することに決めました。しかし、それだけでは何が起こっているのかを正確に伝えることができなくなります。そこで、プレゼンテーション時にはiPhoneによる魔法のような動作を大画面で映しながら、その横にスティーブのデモの様子を配置しました。スティーブがiPhoneを横向きにした際に、スクリーン上のiPhoneも横向きに回転するようにすることで、観客に魔法の瞬間を見せるというのが正しい方法として採用されたわけです」とグッドリッチ氏は語っています。


ステージ上のジョブズの動きに同期してスクリーン上のiPhoneが横向きに回転するには、Appleのエンジニアの助力が必要だったそうです。エンジニアはこれを実現するために約1カ月もかけてアイデアを練った模様。

ジョブズによる魔法のようなプレゼンテーションはピクサーでの経験が基になっているそうで、建設的なフィードバックプロセスを設けることで、「他人の意見を取り入れながらプレゼンテーションの質を高めていった」とグッドリッチ氏。実際、基調講演の1~2週間前にリハーサルを行い、プレゼンテーションで使用するスライドやデモンストレーションの講評が行われたそうです。

ジョブズの設立したNeXTで働いていた経験もあるマッカスキル氏は、「私がNeXTに在籍していた際、スティーブは信じられないほど要求が厳しく、多くの人が彼と関係を長続きさせることができませんでした。そんな彼とどうやって20年間も仕事をこなしたんでしょう?」という元部下らしい質問をグッドリッチ氏に投げかけました。これに対してグッドリッチ氏は、「私は過去に3回仕事を離れました。そのうちの1度は人事部宛のメールを送り、正式に辞職したものです。私が『解雇だ!』と怒鳴られた回数は神のみぞ知るところではありますが、結局彼のもとを離れることはありませんでした。本質的に、私は彼のもとを去りたいとは思っていなかったということでしょう」と語り、厳しい人物であったものの最終的にジョブズのもとを去りたいとは思わなかったと回答しています。

また、ジョブズが社員に対して厳しい要求をするという意見について、グッドリッチ氏は「スティーブに関する逸話は主に彼の周りで生き残れなかった人々から伝わったものです。スティーブと親しくなれた人々は、ルールを知っており、彼と一緒に働く方法を知っており、彼の核となる要求や彼が達成しようとしていることを理解していました。そのため、周囲の人々がスティーブと問題を抱えたことはありません。誰かが早い段階で私に『あなたが何か素晴らしいことをしても、まれな場合を除いてスティーブから称賛を受けることはないため、あなたは自分で自分を認めてあげる必要があります』という助言をくれました。そういったスティーブとの関係に慣れていない人がたくさんやってきて、商品プランなどを発表し、彼に褒められようとしています。しかし、そういった人々は大抵の場合素晴らしい仕事をしなかったため、スティーブの判断はほとんどのケースで正しかったといえます」とコメント。

さらに、「スティーブは複雑な人でしたが、彼は常に皆に対して最高のものを求めていました。また、彼は非常に思いやりのある人物でもありました。彼は私の娘が4歳の頃から知り合いで、娘をイベントやリハーサルに招待してくれました。また、チームが使用する特定のグラフィックスを決定できずにいた際、娘の意見を尋ねたことが数回あります」と、ジョブズが思いやりのある人物であったと証言しています。


「NeXT時代はスティーブがプレゼンテーションの脚本を作成するということはなかったと思います。その習慣は変わったのでしょうか?」というマッカスキル氏の質問に対して、グッドリッチ氏は「脚本づくりはほとんどの経営者が行わないことだと思います。スティーブもプレゼンテーションの脚本を書くことはありませんでした。プレゼンテーションはスライドを用いてストーリーを作り、リハーサルを行い、またリハーサルを行い、さらにリハーサルを行い、そしてリハーサルを行い、再びリハーサルを行い、この中で費やした時間により生み出されるものです。なので、脚本から生まれるものではありません」と答えました。

また、ジョブズのプレゼンテーションについて、グッドリッチ氏は「彼のさまざまなプレゼンテーションを見てみると、発表している製品にスティーブが完全に夢中になっているか否かにより、彼の感情の高ぶりが全然違うことがわかります」と語り、自信のある製品の場合はジョブズが感情的にプレゼンテーションを行い、それがプレゼンテーションそのものの成功にもつながっていたと指摘しています。

さらに、グッドリッチ氏は「スティーブのような基調講演を行う手助けをしてくれませんか?という依頼がありますが、そういった依頼をしてくる人々は、私がプレゼンテーションの脚本を書き、スライド全体を作成することを期待しています。つまり、スティーブのような素晴らしいプレゼンテーションを行うために実際に必要なものについて、全く理解していないのです」とも語りました。


他にも、グッドリッチ氏はiPad発売時のジョブズとのやり取りについて語っています。当時、発売に向けてiPadの美しい写真を撮影していたというグッドリッチ氏ですが、ジョブズのイメージ通りのものを撮影するのに「非常に苦労しました」と語っています。グッドリッチ氏らのチームは複数の写真を撮影していたそうですが、ジョブズの求めていたのは「端がすっきりとしていて、Appleのロゴが右上に見えるビューティショット」だったそうです。問題は、「iPadの長辺に存在する30ピンコネクタが写り込んでしまう」という点だったそう。実際のiPadには短辺にひとつだけ30ピンコネクタが搭載されましたが、グッドリッチ氏らが写真を撮影していた段階では長辺と短辺にひとつずつコネクタが配置されていたとのこと。

グッドリッチ氏らが撮影した写真にジョブズも満足しているものと考えていたそうですが、Appleの基調講演が近づいてきたタイミングで、ジョブズはiPadの写真に満足していないと伝えてきたそうです。しかし、グッドリッチ氏らは「これ以上良くする方法はない」と考えていたため、iPadの長辺をPhotoshopで加工したものをジョブズに送ったとのこと。当時、グッドリッチ氏らのチームはジョブズがその写真を見て大笑いするだろうと考えていたそうですが、実際のジョブズの反応は「これこそまさに私が探していたものだ……」というものだったそうです。つまり、ジョブズが気に入るような美しい写真を撮影することができなかったため、iPadの長辺から30ピンコネクタが排除されることとなったというわけでした。

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in メモ, Posted by logu_ii

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