デジタル著作権管理の存在がネックとなりインディーウェブブラウザは新規参入の余地がないという指摘
デジタル化された映画や音楽などのコンテンツは、無制限の利用を防ぐためにデジタル著作権管理(DRM)という技術で保護されています。こういった保護されたコンテンツを視聴可能にする技術をウェブブラウザに導入する障壁が高く、「新規のウェブブラウザの参入を妨げている」と独立系ウェブブラウザの開発者であるサミュエル・マドック氏が指摘しています。
Samuel Maddock’s Blog | I tried creating a web browser, and Google blocked me
https://blog.samuelmaddock.com/posts/google-widevine-blocked-my-browser/
Samuel Maddock’s Blog | The End of Indie Web Browsers: You Can (Not) Compete
https://blog.samuelmaddock.com/posts/the-end-of-indie-web-browsers/
NetflixやHuluなどのDRMで保護されたデジタルコンテンツを提供するページには、DRMを提供している企業とライセンス契約を結んだウェブブラウザでしかアクセスできません。しかしこのライセンス契約を結ぼうとしたマドック氏は「オープンソースで開発している」ことを理由に契約を拒否されたとのこと。
ウェブブラウザの開発にかかる技術はWorld Wide Web Consortium(W3C)という団体が掲げるOpen Web Platformと呼ばれる考え方によりオープンなものとなっています。W3Cはすべてのウェブブラウザが同様にコンテンツを表示できるようシステムの標準化などを進めており、ChromeやFirefoxなどで実際に機能しています。2013年、GoogleやMicrosoftの支援を受けたW3CはDRMを標準化するための技術を導入しました。
これまで暗号化されたメディアの再生にはAdobe FlashやMicrosoft Silverlightなどのプラグインが使われてきました。しかしこれらのプラグインはウェブブラウザ開発者の制御が及ばないセキュリティ上の懸念につながることがあり、この懸念を取り除くためにW3CはEncrypted Media Extensions(EME)と呼ばれる技術を導入、ウェブブラウザはプラグインを使うことなく著作権保護されたコンテンツを管理できるようになるのですが、この技術の導入には「オープンな議論がされていない」などの批判もあがっていました。
EMEは暗号化されたデジタルコンテンツの再生を可能にするために必要なContent Decryption Modules (CDM)と呼ばれるAPIの構築が可能です。新たに開発したウェブブラウザでNetflixなどのページを表示させたい場合はこのCDMを導入しておかなければならないのですが、この導入にはCDMを提供する企業とライセンス契約を結ぶ必要があります。CDMはGoogleが提供するWidevineやMicrosoftが提供するPlayReadyなどがあり、特にWidevineはChromeを含むウェブブラウザの70%以上に導入されているとのこと。
しかしマドック氏が自身がChromiumというオープンソースのプロジェクトで開発した「Metastream」というウェブブラウザについてWidevineとライセンス契約を結ぼうと連絡したところ、およそ4か月以上も音沙汰がなかったとのこと。この間マドック氏は「開発を中止するか、機能が制限されたものを開発するか」という選択を迫られたと不安に感じたといいます。さらに送られてきた返信内容は「そのようなオープンソースはサポートしていない」というもの。しかしWidevineはChromiumベースのウェブブラウザで利用できる唯一のDRMであるため、マドック氏は交渉を続けているといいます。
Widevineからの返信を待たされた開発者はマドック氏だけではなく、JavaScriptの開発者として知られるブレンダン・アイク氏をはじめ数多くの開発者からの報告があがっています。マドック氏はPlayReadyの使用も検討したのですが、こちらは使用に1万ドル(約103万円)の料金が発生する可能性があるため断念せざるを得なかったとのこと。
マドック氏はOpen Web Platformの「誰もがライセンス無しでウェブソフトウェアコンポーネントを実装する権利がある」という主義には誤解があり、新規参入者にとってよりアクセスしやすいもの作成するには、これらの障壁を変える必要があると述べています。
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