「200億円の行方が分からなくなっている」と発見した公益事業規制当局の従業員が解雇へ
アメリカ・カリフォルニア州で公益事業の規制を行うカリフォルニア州公共事業委員会(CPUC)で働いていたアリス・ステビンズ氏が、本来であれば企業から徴収されるはずの2億ドル(約200億円)の行方が分からなくなっているという事態を報告したところ、州から解雇されました。未徴収のお金は、聴覚障害者や盲ろう者、貧しい住民のための援助プログラムに充てられるはずだったとのことです。
She Noticed $200 Million Missing, Then She Was Fired — ProPublica
https://www.propublica.org/article/she-noticed-200-million-missing-then-she-was-fired
CPUCは、20世紀初頭に鉄道を規制する目的で設立され、2020年時点では電気およびガス、電話会社、水道会社、Uberを含む運送会社などさまざまな企業を監視下に置いています。しかし、CPUCは近年、これら企業との癒着が指摘されており、実際に2010年にはCPUCが監視を怠ったことでサンフランシスコのガス管が破裂し、家屋30棟が崩壊して8人が死亡する事態となりました。
2018年に事務局長として採用されたアリス・ステビンズ氏は30年以上にわたりさまざまな州で監査人や予算アナリストを務めてきた人物。ステビンズ氏はCPUCの事務局長としてまず、組織内の各部門や会計慣行、カリフォルニア州の障がい者・貧困層へサービスを提供する特別プログラムなどの広範な監査を行いました。
この中でステビンズ氏は、投資家らによって所有される110個の水道設備を監督する、水道部門の代表を解雇。これら設備は630万人の市民によって利用されるものですが、水道部門は施設の基本的な連絡先すら持っていない状態だったとのこと。また監査の結果、水道部門の従業員は行うべき現場訪問を行っておらず、訪問した場合でも検査は短時間で終えられ、不十分なものだったことも判明。加えて、施設が規制に従わず、違反が続いているような場合でも召喚などは行われていなかったそうです。ステビンズ氏はインタビューに対し水道部門が「機能していませんでした」と語っています。
またステビンズ氏はCPUCが負債の回収を行っておらず、2019年末の時点で4990万ドル(約52億円)の未払い金があったと述べています。この内訳には、1200万ドル(約12億円)を超える制裁金、2200万ドル(約23億円)を超える電気通信の罰金、1400万ドル(約14億円)を超える償還契約が含まれます。
さらに、ステビンズ氏は2019年の始めに元同僚のバーナード・アゼベド氏を管理サービスのディレクターとして採用しました。30年にわたって会計士として活躍してきたアゼベド氏は、すぐに調査を開始。この調査により、CPUCが監視下の企業が抱える債務について「企業の自己申告」により把握していたことから、実際には公式の記録以上の多くの債務がある可能性が浮上します。最終的にアゼベド氏は、最初に特定された4900万ドルの他に、監督下の企業がCPUCに対して1億5000万ドル以上の債務を負っていると推定しました。これら徴収されなかったお金は、障がい者や貧困層のための援助プログラムに充てられるはずものでした。
事態を報告したステビンズ氏は、その後、「適切な資格を持たない元同僚を雇った」という理由で解雇されることに。弁護士を雇い異議を示したステビンズ氏に対し、CPUCはステビンズ氏とその弁護士が「州の会計システムとその方法を誤解し、その誤解に基づく間違った申し立てを行っている」と主張しました。
しかし、サンフランシスコのベイエリア地区の公共的なニュースを扱うベイシティニュース財団と非営利の独立系報道機関・ProPublicaは「調査の結果、ステビンズ氏の主張が正しいことが判明した」と述べています。ステビンズ氏が解雇される数日前に、CPUCのスタッフが2億ドル以上の債務の存在を発見しており、既に金融機関による調査が始まっているとのこと。またステビンズ氏を解雇する根拠となったレポートには虚偽が含まれていることも判明しています。そして、ステビンズ氏の解雇を決定したメアリー・ベルバジャー氏はステビング氏の報告について同僚とメッセージアプリを通じて「これはとんでもないことです!」「彼女がここに残ることはあり得ません」と議論しており、これは「管轄下の問題について定例会議の外で議論することを禁止する」という州の法律に違反していることも指摘されています。
なお、ステビンズ氏は記事作成時点で本件についての訴訟の準備を行っている最中とのことです。
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